第80話 乗り物

「さあこれに乗るのだ」


 えーと……

 もしかしてこれが紅さんの言ってた乗り物?


「あの、紅さんこれは一体?」


「む? どうした我が主よ」


「紅さんが私に勧めている乗り物が竜にしか見えないのですが」


「ふむ。それがどうかしたか? 移動速度もそれなりだし、我が主一人を運ぶには十分すぎる大きさだと思うが」


 確かに旅客機くらいのでかさがありますしね、大きさは問題なさそうですね。ただ気にしているのはそこじゃなくてですね。ほら、外まで案内してくれたダダンダさんがドン引きしてますし。


「ちなみにその竜はどこから?」


「ふむ、この山の頂あたりに巣を構えていたらしくてな。ちょっと話をしたら快く協力してくれた」


 快く協力って……。


「や、やはり、パヤバヤの赤竜」


「ダダンダさん、こちらの竜をご存じなのですか?」


「うム。この火山の山頂に住ム火竜ダ。この辺一帯を縄張りにしていてな、視界に入ったものを片っ端から襲って回る迷惑な奴ダ。この竜のおかゲデ、我々も外に出るのにいつも苦労しているのダ」


「なるほど」


「それガこのように大人しくしているとは……。先ほどの戦もそうデあったガ、本当に信じられぬことバかりダ」


 フツーに目の前で座ってる?からな、そりゃードン引きだわな。


「市長、移住契約書を」


 は?


「この竜からは服従の気配を感じます」


「へ? 服従?」


「いえ移住です」


「いや、いま服従って」


「移住です。とにかく移住契約書を」


 竜って住民になれるの?

 ってかサインできるのか?


「あの」


「問題ありません。移住契約書を」


 ……。

 うん、これは問答無用な奴だね。こういう時はおとなしく従うに限る。


「これでよろしいでしょうか」


「ありがとうございます、市長。紅様この契約書をそちらの竜に。内容については紅様の方からご説明をお願いします」


 説明? 竜に?

 ってことは会話かそれに準ずるコミュニケーションが成り立つのか?


「ふむ、承知した。しばし待て」


 そういや、話をして協力得たって言ってたしな。


 …………。

 ……。


 えーと、無言で見つめあってるんだけに見るんだが。



「ふん!」


 ぶん殴った!?


「あの紅さん?」


「なに説明の一環だ、気にするな」


 まさかの肉体言語!?


 お? ペンが出てきたって、ペン小っさ!? そして竜めっちゃ器用。あのでかい手でよくサインできるな。


≪新しい住人の転送準備が整いました≫


 本当に住人になっちゃったよ。名前はジラーテさんか、てか名前もちゃんとあるのね。

 これって魔獣転生以外でも魔獣を住人にすることが可能ってことだよな。


「セリスさん」


「なんでしょうか?」


「魔獣転生をせずとも魔獣に直接住人になってもらうことも可能だったのですね」


「ええ。今回の竜のように服じゅ、移住の意思がある場合は魔獣でも住人になることは可能ですよ」


「なら領地の周囲の魔獣達も?」


「どうでしょう? 領地周辺の魔獣達に服じゅ、移住の意思を持たせるのはなかなか難しいかと。今回の竜に関してはもともとある程度意思疎通ができる個体であり、そのうえで紅様との間に天と砂粒以上の実力差があったため可能だったことですし」


 なるほど。意思疎通ができないと確かに難しいよな。それにしても天と砂粒って。


「領地周辺の魔獣ですと、弱い者では意思疎通が難しいものが多いですし、意思疎通が取れそうなものの大半はソフィア様とでも天と石ころくらいのレベルはありそうですしね」


 石ころ……。

 と、とにかく隔絶した実力差とあ意思疎通が可能っていう二つの条件が満たされないと無理ってことか。そんなにほいほいとできるほど簡単にはいかないってことだな。


「それと市長、転送を実行しないように気を付けてください。まだお願したいことが残っていますので」


 そうだった、もともとは俺を運んでもらう予定だったんだよな。


「ではジラーテさん、よろしくお願いします」


『まかせてくれ、王様!』


 !? なんだこれ? 頭の中に直接が聞こえてきてるのか?

 それにしても……お、王様って。


「あのジラーテさん、その呼び名は一体」


『ん? 紅様がオレ達の王様だって。何か間違ってるのか?』


 紅さん、一体どんな説明をしたんだよ。


「我が主よ、細かいことだ。気にするな」


「王様も親分もあんまり変わんないんだぞ」


「そうよー、ただの呼び方じゃない。こまかいことは気にしない気にしない」


 !?


「みなさん、ジラーテさんの声が聞こえるんですか?」


「すでにジラーテ様は市長の領地の住人。宝玉の力により、住人間での会話は方法が違えど成り立つようになっております」


 宝玉すげえな!

 青いタヌキのシークレットアイテムなコンニャクもびっくりだ!


「さて市長、準備も整いましたし出発いたしましょう。ダダンダ様、ここまでのご協力ありがとうございました」


「あ、ああ。色々と信ジられないことバかりダガ、我らの街を救ってくれたこと、街を代表して感謝する。本当に助かった、ありガとう」


 そういえばダダンダさんの街を守るイベントだったんだよな、これ。すっかり忘れてた。


「いえ、困った時はお互い様です。今後のことについては、後ほど市長がお話に伺わせていただきますので、族長様にもよろしくお伝えください」


「わかった、伝えよう。デは、祈る必要モないかと思うガ、武運を祈る」


 ……。


 これ今更、嫌だとか言えないよなぁ。

 まさかの竜での来訪かぁ、ビジュアル的に絶対やばいよなぁ……


「目指すはハバメヤメでござる!」


「今度こそボク達の求めた戦いだぞ!」


 はあぁ……。

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