第70話 親馬鹿

 流石にお城の修復は終わってないか。


 ま、それはそれとして。宰相さんはどこにいるのか……とりあえず門番の人に聞いてみるか。


「あの、申し訳ありません」


「き、救国の英雄様!?」


 お、助かった俺のことを知ってる人だった。

 しかも、わりと好意的?


「少々お待ち下さい、すぐに城へご案内させていただきますので」


 へ?


「おい、誰か見張りの交代を頼む。俺は救国の英雄様を宰相のもとへとお連れする」


 おおう、なにも話してないのに宰相さんのところまで行けそうだ。


「お待たせいたしました、ご案内させていただきます」


「ありがとうございます」


 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼


「ようこそお越しくださいました、救国の英雄殿。本日はどう言ったご用件でしょうか」


「今日は宰相さんに少しお力をお借りしたいと思いまして」


「ふむ。お話をうかがいましょうか」


「レハパパにいる火鱗族の方々と接触したいのですが」


「なるほど……。警戒心の強い方々ですし、彼らとの接触は一筋縄ではいかないでしょうなあ」


 ちっ、やっぱりこのおっさんも一筋縄ではいかないか。

 俺にとっては簡単ではないことを手助けしてやるから、誠意を見せろってところかね?


「ええ。ですから色々と知識のある、宰相さんなら力を貸してくれるだろうと教えられまして」


 まあ、こっちから見せる誠意はないけどな!


「ほう、そのようなことをどこのどなたが」


「第一騎士団の元団長さんと、元宰相さんですね」


「どうやら私は過剰に評価されているようだ。あの二人にも困ったものだ」


 ち、あの二人の名前程度じゃ驚かないか。多分ファウスティーナさんの名前を出しても変わらないだろうな。

 だがしかし、切り札があるんだよ。


「それと、お二人の所で働いているルチアさんからも」


「ふーむ、その様な市井の者まで」


 まあ、目に見えて動揺なんざするわけないよな。


 だが!


「市井の者だなんて他人行儀な言い方をされなくても」


「どういうことでしょうか?」


「どういうことと言われましても……宰相さんが一番良くわかっているのでは?」


「なんのことやら」


 ま、俺がカマかけてるだけかもしれんしな。自分からは認めないか。


「その様な冷たいことを言わずとも。折角お嬢様が自分の父親の力を誉めてくれているのですから」


「!?」


 なんで気がついた?って顔だね。

 俺だって伊達に領主じゃないんだ。俺には住民のステータスが確認できるんだよ。

 まあ、わかってるのは親子ってところまでだけどな。


「まさかファウスティーナさん達も知らない経路で側に身内を仕込むとは。流石、宰相さん」


 だから、こっからが本当の化かしあいだ。


「……」


 否定も肯定もしないか。

 だが、ラモーンさん達の様子を見ている限り、これは間違ってはないはず。なんせ宰相さんを紹介する時に全く彼女に触れなかったからな。


「いえ、別に私は特に気にしていませんよ。貴方達マーリダーレ王国内の問題であるのならば」


 実際のところは秘密裏の護衛みたいなもんだろう。

 領地に対して何かしらの悪意があるのならば、俺個人への好き嫌いをあんな露骨に表したりしないだろうからな。

 そういう意味じゃ、あの契約書本当に仕事してるのか?


「……」


「ただ……私の領地とマーリダーレ王国との問題になるのであれば、話は変わってきますがね」


「!」


 まあでも、秘密裏に他国の王の側近の身内なんてもんを忍び込まされて、なにもないなんて思う人、普通はいないよねぇ?


「もしそういう理由なのであれば、私としてもあまり気が進みませんが前回と同じような対応をする事になるでしょう」


 密偵は粉砕、お城も粉砕コースだね。


「お、お待ち下さい救国の英雄殿。ルチアはその様な者ではございません」


「その様な者とは?」


「ルチアは私の娘であることは間違いありません」


「認めるのですね」


「はい。ですがあの娘は密偵の類いではございません。ルチアが私の娘とわからないようにしているのは、他でもないあの娘自身が望んだことなのです」


 どういうことだ?


「実はですな、ルチアは幼少のころからファウスティーナ様に憧れておりまして」


「それが何故血筋を隠すことに?」


「そのですな、憧れを少々拗らせすぎましてな」


 ?


「ファウスティーナ様のお側に使える、それ以外の選択肢を全て捨て去ったのです」


 は?


「まあ、そこまでの覚悟を見せられたのでは仕方がないという事で」


 いや、全然仕方なくないよ。


「ファウスティーナ様を陰ながらお守りするよう、命じた次第でございます」


 そこはむしろ止めてあげようよ。


「勿論私の娘という事でファウスティーナ様にお近づきになることはできます、ですがそれはルチアの求めるものではありませんでした。ルチアが望むものは主従の関係だったのです!」


 なに言っちゃってるのこの人。


「ですから彼女はあえて家名を捨て、ファウスティーナ様の側に仕えられるメイドを目指し血の滲むような努力を積み重ねました」


 えーと。


「ただ、どれだけルチアが努力しても、ファウスティーナ様のお側に仕えるというのは中々に高い壁でした。ですがその壁がファウスティーナ様の移住という予想だにしない形で取り除かれました」


 宰相さんのテンションがおかしいことになってきたんだけど。


「なんと元々ついていたメイド達が、誰一人としてファウスティーナ様と共に行くことを選択しなかったのです」


 これ、最後まで聞かないと駄目なやつなのか?


「結果、この好機を見逃さなかったルチアは、救国の英雄様の領地でファウスティーナ様にお仕えすることとなったのです」


 既にお役御免になってるけどな。

 しかしこの話が本当だとしたら、流石にルチアさんが不憫だが………まあ、俺がどうこうできる話でもないしなぁ。


「ふむ、ご納得いただけませんか。確かにこの程度の話で我が娘の疑いが晴れるとは言えませんな」


「いえ、そういう訳では」


「ならば……わかりました。信じていただくための対価として、先程のお話に出てきたレハパパ火山にいる火鱗族の首長への紹介状を用意いたしましょう」


 …………親馬鹿。


「なにか?」


「い、いえ。とにかく火鱗族の件、よろしくお願いします」


 なんか色々と思うところはあるけれど、目標達成だぜ!

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