第69話 やさぐれメイド

 えーっと、ここでいいのかね?

 ガッツォさんの家から湖に入ってすぐっていってたから、間違いはないと思うんだが。


「なにかご用でしょうか? 領主様」


 お?

 家政婦さん? いやメイドさん?

 まあ、どっちでもいいや。ちょうどいいところに。


「申し訳ありません、こちらにラモーンさんとグラツィエッラさんのお宅があると聞いてきたのですが」


「こちらがお二方のご自宅ですが、なにか御用でしょうか?」


 なんかこのメイドさん、言葉にトゲがある気がするんだが。

 メイドさんに恨まれるようなことした覚えは……うん、あるな。城ぶっ壊したしな。


 あれ? でもそれなら、なんでここに来てるんだ?

 うーん、あの契約書、いまいちよくわからん。


御用でしょうか?」


 っと、不味い不味い。


「お二人にご相談がありまして、ご在宅であればお会いしたいのですが」


「ただいまお二人とも外出しておられます」


 っと、間が悪かったか。


「む? 領主殿ではありませんか」


 あれ? ラモーンさん?

 いや、このメイドさん今いないって。


「チッ」


 な!

 今、舌打ちしたよこの人。


「申し訳ございません、どうやら既にお戻りだったようです」


 いやいやいや。明らかに嘘だよね?


「申し訳ございません」


 しかも気のなさ全面に押し出した棒読みな謝罪とか。


「さあ、そんな所におられず、どうぞこちらへ。ルチア、領主殿を客間に通してくれ」


「お断りいたします」


 !?


「いや、お客様だぞ。しかも領主殿だぞ」


「お相手の位によって仕事に優先順位はつけておりませんので。私は今から花壇の花に水を与えなくてはなりませんので」


 流石ファンタジー。水中に花壇、しかも水中なのに水やり。


「いや、ルチア。水中花に水はいらんだろう?」


 いらないのかよ!


「チッ。では庭の木にお水を」


「それも一緒だ。それに我が家の庭に木はないだろ?」


「では………」


「はあぁあ、もういい」


「では、失礼いたします」


「申し訳ありません領主殿、どうぞこちらへ」


 なんかあれだね、大変そうだねラモーンさん。


「それでは失礼して」


「本当に申し訳ありません。あれで色々とありまして」


 家の主の客に舌打ちとか、色々とあったとしてもなかなかだよな。


「ルチアは本来であればファウスティーナ様にお仕えするはずだったのですが」


 ?


「ご一緒に暮らしているガッツォ様が、全てにおいてルチア以上にこなしてしてしまいまして……」


 ガッツォさん家事万能なのか、以外だな。

 褌リーゼントは伊達じゃないってことか。


「もちろん、お二人はルチアの仕事ぶりに満足はされていたのですが」


「彼女が耐えられなくなったと」


「ええ。ファウスティーナ様のたのみもあり、私達のところで働いてもらっているのです」


 なるほどねぇ。

 自分の無力を思いしらされた時ってんなら、そういうやさぐれた気持ちにもなるわな。


「この度のことは後程厳しく言い含めて起きますので」


「いや、理由がわかりましたし、気にしていませんよ」


 どうしてもそういう時ってのはあるからなぁ。

 なんかこう、周囲に対して攻撃的になるというか変に冷めた感じになるというか。そして、数年後に過去を思い出して一人で恥ずかしくなって悶絶するんだよな。


「そう言っていただけると助かります。さて、それはそれとしてわざわざお越しいただいたのは一体どのようなご用件ですか?」


「ラモーンさんマーリダーレ王国と他の地域の交流について、なにかご存知ではありませんか?」


「他の地域との交流ですか」


「ええ、もっと言えば他の種族との交流です」


「それであれば私よりも、ファウスティーナ様に確認された方が良いのでは?」


 俺もそうしたいところだったんですけどね。


「それが色々とありまして。今はお話しが聞ける状況ではなくなってしまいまして」


「ふむ、他種族となりますと……」


「ラモーン、火鱗族かりんぞくがいるでしょ」


 かりんぞく?


「おお、そうだったな。彼等がいたか。流石はグラツィエッラ」


「ふん。宰相として、これくらいのこと覚えているのは当然よ」


 うーむ、ちょっと照れながら偉ぶるとか、グラツィエッラさんは相変わらずだな。


「その目は何ですか英雄様」


「いえ、いつも通りのグラツィエッラさんで安心しているだけですよ」


「そうですな。私の妻は今日も魅力的です」


「同感です」


「ふ、二人ともふざけないぢぇ……」


 うんうん、お約束だよね。

 とりあえず、ラモーンさんから差し出された手を握っておこう。


「それで、その火鱗族とは?」


「熱や火に凄まじい耐性を持っていて、他の種族が生活するのも難しいような熱い場所に住んでいる種族です」


 なるほど。


「それでその火鱗族の方々はどちらに?」


「私達と交流があった火鱗族は、レハパパという火山に住んでいましたね」


「レハパパですか」


「はい。パヤバヤという地域にある大きな火山島です」


 パヤバヤか。

 確か鍵の選択肢にあったやつだな。


「それでそのレハパパの火鱗族に会うにはどうすれば?」


「レハパパ自体はマーリダーレからの定期便に乗ればすぐにつけるかと思います」


 はか。


「火鱗族にあうのは難しいと?」


「ええ、なにせ警戒心の強い種族ですので」


「なるほど」


 さて、どうしたもんかね。

 いきなりこっちから訪ねても人魚族の時みたいに、ラモーンさんのような話のわかる人に出会えるとも限らないしな。


「英雄様」


 ん?

 立ち直ったのか、グラツィエッラさん。


「ジャコモ様を頼られてはいかがでしょうか?」


「ジャコモさん?」


「はい、現マーリダーレ王国の宰相です」


 ああ、あの宰相さんか。


「ジャコモ様はファウスティーナ様のお父上が王だった頃からの腹心。きっとなにか良い伝をお持ちでしょう」


 なるほど、こいつは有力な情報だ。

 人魚族の寿命はかなり長いって話だし、他にもなにか面白い話を持ってるかもしれないな。


「ありがとうございます。早速訪ねてみます」


「え? 英雄様?」


「は? 領主殿?」


 鍵を使ってと。

 それじゃ、サクッと行きますか。

 

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