第68話 兄妹

 うん、体が全く動かない。

 今日は右腕にセリスさん、左腕にソフィアさん、体の上に紅さん、となると股の間にいるのはロカさんか?


「お、起きたのかい大将」


「おはようございます、ラクィーサさん。ってあれ? もしかして寝室の鍵開いていましたか?」


「鍵もドアも開けっ放しだったよ」


「開けっ放しとは不用心ですね。まあ用心する相手がいないってことでしょうけど」


「はあ、大将。あんたはここの鍵の意味を勘違いしてるよ」


 勘違い?


「まあ、それはいいとして。それにね大将、この娘達が中にいる時に、この部屋に入って悪事をはたらく度胸があるやつがいると思うかい?」


 …………。


「無理ですね、敵意をもって近付くことすらできない気がします」


「そういうことだよ大将。そして大将、あんたもよくそんな所で眠っていられるね」


 そんな所?


「あたしだったら、そんな所で寝るくらいなら竜の口の中の方が、まだましだね」


「食べられてしまいそうですが」


「ただの竜の一匹や二匹、なんてこたないよ。少なくともあたしの命に関わる事態にはならないからね」


「まるでここが命の危険があるみたいな言い方ですね」


「みたい、じゃなくて危険だらけじゃないか」


「またまた。それは言いすぎですよ、確かに、頭を砕かれたり、体ごと抱き潰されたり、致死量をはるかに越える毒を流し込まれたりしますが」


 …………。


「確かに危険なベッドですね」


「だからそう言ってるんだよ」


 だけどなぁ。ログアウトすると、動くことなんて無理だからな。


「ですが、これって私がどうにかできる問題ではないと思うんですよ」


「それもそうだね」


 認めるの早っ!


「いや、諦めるのが早すぎますよ。なにかこう良い策はありませんか?」


「大将が鍛えて強くなる、くらいしか思い付かないね」


「基本中の基本じゃないですか。そもそも私が強くなれっていわれても、一朝一夕で皆さんに追い付くのは厳しくないですか?」


「まあ、無理だね。ソフィアどころかムジィーカの爺に追い付くのすら厳しいね」


「まだまだまだまだ先は長いということですね」


「そうだねぇ、精進しておくれ」


「わかりました。では精進の為にも、とりあえずここから起きるのを手伝っていただけませんか?」


 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼


 いやあ、死んだ死んだ。

 なんで俺の腕とかつかんだままま、全員違う方向に寝返り打つかな。お陰で体がバラバラに裂けちゃったよ。


「大将、大丈夫かい?」


「ええ、何とか」


「大将も大概だねぇ」


「慣れですよ慣れ。それにお陰で起き上がることもできましたし」


「…………」


 さて、今日は何をするかね。


「まあ、大将がそれでいいならあたしはなにも言わないよ」


 確か紅さんが観光客を連れてこいとか言ってたよな。

 観光客かぁ、そういわれてもなぁ。


「頭、いるかい?」


「おはようございますガッツォさん、ファウスティーナさん。どうかなさいましたか?」


「建材の一部が底をつきそうだからよ。催促にきたんだが」


「私はガッツォの付き添いです」


 なんだろうね、ファウスティーナさんとガッツォさんの纏う空気がなんとも幸せそうでいい感じだ。


「どうかなさいましたか、英雄殿」


「いえ、お二人が幸せそうでよかったなと」


「ぐ。頭、そんなド直球に」


「ふふ。ありがとうございます、英雄殿」


 っとそうだ。ファウスティーナさんなら紅さんのお願いの答えをもってるかも。


「ファウスティーナさん。訪ねてきてもらったところで申し訳ないのですが相談にのっていただけませんか?」


「夜の相談となると……女性によって喜びの感覚は違いますので、私の知識がお役にたてるかどうか」


「いや、違いますよ」


 いきなりなに言っちゃってるのこの人。


「おいおい、ファウよ。いきなり夜の相談なんざするわけないだろ」


 ガッツォさん、ファウスティーナさんのこと普段はファウって読んでるのね。


「あら、そうなのですか。てっきり私はセリス様達とのことでのご相談かと。やはりそういうことは双方がしっかり楽しめることが大切ですし」


 えーと……。


「申し訳ありません、ファウスティーナさん。今回お伺いしたいのは別件でし「その話し、もう少し詳しく聞こう」」


 紅さん?


「ファウスティーナよ。今の話しもそっと詳しく聞こうではないか」


「いや、紅さん私は別件「ええ、構いませんよ」」


 ちょ、ファウスティーナさん?


「ですが紅様、少々お待ち下さい」


「む?」


 お、一応俺の話も聞こえてみたいだな。

 流石王様。


「どうせならばセリス様様もご一緒の方がよろしいかと」


 あれ?


「それもそうだな。では皆を呼んでこよう」


「ああ、それならば私がご一緒した方が良いかもしれませんね。寝室の方が都合の良いお話もありますし」


 いや。ちょ、ファウスティーナさん?


「ふむ……わかった。今回は特別にそなたを妾達の寝室へ招待しようではないか」


「ありがとうございます、紅様」


「あの、ファウスティーナさん?」


「それでは英雄殿、紅様達とお話がありますのでこれで失礼致します」


 …………。

 うん、あれだ、何気にこういうところはお兄さんに似てるのかもね。


「頭、頭」


「?」


「時には諦めも肝心だぜ!」


 うるさいよ!

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