第58話 軽い惨事

 予想外の幸運にも恵まれたし、女神像のお祈りも終えたし、そろそろ領地に帰るとしますかね。


 鍵を使って、メニューから宝玉を選択っと。


「お帰りなさいませ、市長」


「ただいま戻りました、って小屋の壁が失くなってるんですがセリスさん」


「ええ、市長の素晴らしい勧誘のお陰でこのように」


 は!?


「まさか、転送した人達が全員ここに?」


「ええ、お陰さまで小屋が弾けとびました」


 …………。


「ちなみにセリスさん達は」


「幸いにも私を含めた全員が小屋の外に出ていたので」


「そうですか、少しだけ安心しました」


「安心したじゃないよ大将」


 ラクィーサさん?


「あいつら全員、陸地じゃまともに動くことも出来ないんだよ」


 ああ、そうか!

 ファウスティーナさん達はいわゆる人魚。陸に送られてもなにも出来ないのか。


「まったく。あたし達がどんだけ苦労したと思ってるんだい」


「まさか」


「そのまさかだよ。あたし達で全員湖まで運んでやったんだよ」


 なんと!?


 いや、よく考えたら人魚の100人や200人、うちの住民達にしたら重いものですらないような。


「もうラクィーサちゃんたら意地悪しないの。あの程度の人数ならなんの苦労もないっていってたじゃない」


 やっぱりそうですよねぇ。


「お帰りなさい、ご主人さま」


「ただいま戻りました、鳳仙さん。ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません」


 それでも迷惑かけたことにはかわりないからな。


「いいのよ。本当にたいしたことなかったんだから。ただ……」


 ん?なんだ?


「ガッツォちゃんの感動の再会が、ちょっとだけ台無しになっちゃったのがね」


「感動の再会?」


「ええ、ファウスティーナちゃんっていったかしら? 彼女がガッツォちゃんに貝を渡した人だったのよ」


 ということは。


「お互いもう逢えないと思っていた想い人と、100年以上の時を越えて運命の再会。なかなかロマンチックよね」


「そうですね」


「でもね。ファウスティーナちゃんてば、体の一部が自分よりも体積のある水に浸かってないと息ができないみたいで」


 なるほど、ということは大きめの水槽があれば陸地でもなんとかなるのか?


「だから感動の再会のお顔がね、呼吸ができなく苦しみながら水を求める苦悶の表情だったのよ」


 感動の再会で苦悶の表情か……なんか、本当に申し訳ありません。


「はあ。市長、今後はこのような事故を防ぐためにも、住人を転送する前には事前にご連絡お願いできますでしょうか?」


「はい、徹底いたします」


 今回は小屋が弾けたのと、感動の再会が軽く台無しになっただけですんだが、下手すりゃ転送と同時に死に戻りする人もいるかもしれないからな、気を付けないとな。


「それでガッツォさんとファウスティーナさんは?」


「船着き場で二人っきりよ。やっと逢えた二人だもの、しばらくはそっとしておいてあげましょう」


 100年以上だもんなぁ。


「それもそうですね」


「さて、市長。ガッツォ様達のことはそれでいいとして、この先どうするおつもりですか?」


 ?


「ここって水は豊富だけど、あれだけの人数を養う食糧も、住まわせる住居もないのよね」


「そのへんは当面問題ありませんよ。マーリダーレで当面の食糧と住居用の建材を大量にいただいてきましたから」


「あらあら、流石ご主人さま。抜かりはないってことね」


「今回はたまたま機会に恵まれただけですよ」


「その機会を見逃さないのも大切なことなのよ、ご主人さま」


 ?


「うふふ、まあいいわ。それよりも建材はアイテム欄の中かしら?」


「ええ」


「わかったわ。じゃあロカちゃんとマーリダーレの職人さんを探して、みんなの住居の相談でもしてくるわ」


「お願いします」


 さて次は……この小屋かな?


「セリスさん、この小屋どうしましょうか?」


 このまま修繕したところで、また大量に人が来たら弾けとぶし。拡張でもすればいいのか?


「いっそのこと宝玉を、お屋敷にでも移せればいいのですが」


「移せますよ」


 へ?


「このように……宝玉はここに固定されているわけではありませんし」


 普通に持ち上げた!? あれ台座の上にのってるだけだったのか!


「どちらに移動させますか?」


「そうですね。転送意外にも色々な事につかいますし、一つ専用の大きな部屋をつくってもらいましょうか?」


「それが良さそうですね。後程、鳳仙様にお伝えします」


「お願いします」


 っと、システムからの通知だ。


「セリスさん、申し訳ありません通知が届いているようなので少し確認させてもらいます」


「かしこまりました」


 えーと、何々、エリアボスの討伐報酬についてか。

 ……エリアボス?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る