第49話 褌リーゼント
「おかえりなさいませ、市長」
「セリスさん、ただいま戻りました」
今回も弾けたねぇ。
まあ、あれだけ大暴れしたんだ、魔道具が故障するのは仕方がないとして。
ロカさんの風魔法にくらべたら、そこまでの威力でもなかったのにな。耐性装備着てても、練気で体を覆っていても、体の中にまでは影響力はないってことか。いい勉強になった。
「市長、探索の方は順調ですか?」
「ええ。といっても魔獣と戦うくらいしかしていませんが」
そうなんだよなぁ。街とか人とかには会えてないんだよな、骨には会ったけど。
まあ、それはそれで置いといて。取りあえず、集めた魔獣の核を宝珠に捧げちゃおうか。
お、でたでた。
色も黒じゃなくて青だったし、大きさも結構なサイズだったからな。もしかしてとは思ったが。やはり予想どおりだったか。
ということで、魔獣転生っと。
眩しっ!
おお、今回は細マッチョ系リーゼントさんか。
「オレは海悪権現の化身。以後よろしくたのむぜ、頭」
えーと、どうしようか。この人褌一丁なんだが。
いきなり初対面で服を着ろって言うのは失礼になるのかな?
「人?魔獣? 市長、この方は一体?」
「お、オレのおかしさに気がついたか」
なんせ褌一丁だからな。
「海悪権現という魔獣を私は存じません」
「だろうな」
セリスさんが知らない魔獣か。
でもこの感じ、なんかそれだけって訳じゃ無さそうだな。そして、セリスさんはこの人の服装に関しては気にならないのね。
「それになんと説明すればよろしいのでしょうか……。そう、貴方は根元的なところで人と魔獣が混じりあっています」
「?」
「わははははは! 姐さん、あんた凄い目を持ってるな。そこまでわかるのか」
「貴方は一体何者なのですか?」
「???」
「そんなに警戒してくれなさんな。大丈夫だ、間違っても頭に手出しなんざしねえからよ」
美人秘書に睨み付けられる、褌リーゼント。
なんだこの謎の構図。そして会話の流れに全くついていけない。
なんでもいいけど取りあえず服を着てほしいんだが。
「言葉だけではなんとでも」
「おいおい、ホントに勘弁してくれよ。あんたとオレじゃ格が違いすぎて勝負にもならなねぇよ。あんたが相手じゃ、オレがどんな手を使っても勝てそうにないってのはわかりきってるだろ?」
ん、ああ。上なのはセリスさんなのね。
まあ、構図的にそんな感じだよね。
「今からきっちり説明させてもらうから、それで勘弁してくんな」
「市長、どうされますか?」
え? 俺? えーと、どうしようか?
俺としては別に嫌な感じはないんだよな。
というかセリスさんにしたって、悪意どうこうってことより、得体が知れないってことに警戒してるだけみたいだし。
「あまり悪意も感じませんし、話を聞いてもよろしいのでは?」
「市長がそうおっしゃるのなら」
でもその前に服は着てほしいんですけどね。
「それでお話というのは?」
「ああ、ちっと長くなるがいいか?」
時間はまあ、大丈夫か。
「ええ、問題ありません。お願いします」
「わかった。えーとオレはな元々は船大工だったんだ」
へー、職人さんか。って船大工!?
「船大工なんですか!」
「お、おう。いきなりどうしたんだ頭」
船大工!
「船大工ということは、船を作ることができるということですよね?」
「お、おう。自分でいうのも難だが、結構流行った工場の棟梁だったんだぜ」
ナイス褌!
イエス、イエス、イエス!
「ありがとうございます!」
「お、おう?」
これでもう、板切れ一枚の航海はしなくてもよさそうだ。
セリスさんが隙あらば俺を航海に出そうとするからな。
「市長、話の腰を折らないでください」
「あ、申し訳ありません。続きをどうぞ」
「おう。それでな、船大工のオレがなんでこんなことになったかと言うと、人魚の女に惚れちまったせいなんだ」
人魚? そういや、骸骨軍団の中にもそんな感じのやつがいたな。
「オレはもともと陸の人間だ。そんなやつが人魚と一緒になろうと思うなら、どちらかが姿を変えなきゃならねぇって話になったんだ」
陸と水中じゃ、呼吸方法から生活環境までいろんなものが全く異なるだろうしな。どちらかの姿に会わせられるなら、そっちの方がいいんだろうな。
「それでオレは陸の人間が海の中でも生きられるようになるっていう、人魚の秘薬を飲んだのさ」
海の中でも生きられる薬か、そんな薬があるんだな。
ああ、でも魔獣の核から人に転生させる宝玉があるくらいだし、割と普通の話なのかもな。
「そしたらよ、海の中でも生きられるようにはなったのはいいんだが、見た目も中身も魔獣になっちまってよ」
人を魔獣に変える薬だったってことか?
それとも体に会わないとか、拒否反応とかそんな感じだったのかね?
「その結果があの巨大な魔獣だったと」
「ああ、さっきも言ったように中身まで魔獣になっちまっててな。手当たり次第周りの生き物を襲うようになっちまった」
「それで、その人魚の方とは?」
「どうにもこうにもならねえよ。オレが魔獣になったらそれっきりさ」
……。
「魔獣になっちまったからな。オレの側にいてほしいなんざ思ってもいなかったし、アイツのことは恨んじゃいねぇよ。自分の選択も悔やんじゃいねぇ。まあ、ほぼ理性がなかったとはいえ、襲っちまった連中には申し訳ないとは思うがな」
……。
「これでオレの話はおしめぇだ、頭。あとは頭が判断してくれ」
うーむ、判断と言われても。船大工の一点だけで、既に俺のなかでは受け入れ確定なんたよな。
ということで。
「わかりました、これからよろしくお願いいたします」
「はあ、市長がそうおっしゃるのなら。それでお名前はどうするおつもりなのですか?」
来たな。俺の天敵、名前付け!
どうする? 褌リーゼントでふんりーからのヘンリーとかか?
「名前……か。なあ、頭。オレ、昔の名前で名乗ってもいいか?」
なんと! 救世主がここに!
「構いませんよ」
「ありがてぇ。オレの名は……ガッツォ、船大工のガッツォだ。これからよろしく頼むぜ、頭!」
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