第29話 悲しみの狼

 さてロカさん達が作業してる間に、まずはこの小屋の中の片づけかな?


「市長なにをされているのですか?」


「いえ、小屋の中を片付けようかと」


 ほぼ作業道具と材料とかみたいだし、適当にアイテム欄に放り込めばなんとかなるだろ。


「この状態だと足の踏み場もありませんから」


 それにしても製図机に機織り含めた裁縫関連の道具はまだわかるとして。この化学の実験用具みたいなものとか、明らかに鍛冶場にしか見えない施設一式は何に使ったんだ?

 てか、排気設備もないのに鍛冶とか大丈夫だったのか? まあ、一応ゲームだしな、その辺の細かいことは気にしなくてもいいのかな。


 さて、それじゃ片づけ始めますか。まずはこの製図机をっと。


≪【特製製図机】はアイテム欄には入りません≫


 は?


≪【特製機織り機】はアイテム欄には入りません≫


 え?これも?


≪【特製調合机】はアイテム欄に入りません≫


「市長、一度使用された作業道具はアイテム欄には入りませんよ」


 は?


「ということは、この部屋に広がる道具類は」


「はい、それぞれ新しい置き場を見つけなければなりませんね」


 いや、この机とかならまだいいよ。たぶん自力で運べるし。でもこの明らかに地面に設置されちゃってるぽい鍛冶設備とかどうするんだよ?


「セリスさん、ちなみにこの鍛冶設備って動かせるんでしょうかね?」


「申し訳ありません、私にはわかりかねます」


 ……。


 よし、大物はあきらめよう! できないことに時間をかけるのはもったいないしな!とりあえずできることから片付けよう。

 まずは散らばる小物類をまとめて、あとはアイテム欄に入るものをアイテム欄に放り込んでいく感じかな。


「御屋形様!」


「どうかしましたか、ソフィアさん」


 あと、ドアはもう少し優しく扱ってください。小屋が壊れてしましいます。


「拙者にも何か仕事を!」


「仕事?」


「ロカ殿も紅殿も鳳仙殿も、みなでなにやら作業をしているでござる!」


「この小屋だけでは手狭ですから、新しい建物を建ててもらっているんですよ」


「拙者も何かしたいでござる」


「なにかと言われましても。ロカさん達に相談してみては?」


「承知したでござる!」


 ああ、ですからドアは静かに……。この小屋も補強しないと、崩壊するな。あとでロカさんに相談してみよう。


 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ 



「お、おやかたさま~」


「おぶ! ソフィアさん、い、息が」


 この海、ちょいちょい俺を沈めにくるな。のぞむところだ!かかってこい!


「おやかたさま~」


「く、くるし、ちょ、ソフィアさん?」


 くおおおお。なんか、むにんむにんせまってくるせいで、ますます手の出しようが。まずいな、そろそろ息が持たなくなりそうだ。


「ソフィア様。そのままでは市長も、なかなかお話しできませんよ」


 な!


「おお、これは申し訳ないでござる」


  セリスさんが俺を助けただと!?


「一体どうしたんですか?」


「? なぜ私に? ソフィア様のお話を聞いてあげてください」


 あまりの衝撃に尋ねる相手を間違ったよ。


「それで」


「ロカ殿達に戦力外通告をうけたでござる」


「戦力外?」


「御屋形様に言われた通り、作業を手伝いに行ったのでござるが……拙者に手伝えることは無いと」


 うーん、セリスさんじゃあるまいし。ロカさん達がそんな風に言うなんて、もしかして何かあったのか?


「なんでしょうか市長?」


「いえ、なんでもありません」


「そうですか? 先ほどから市長から不穏な空気を感じるのですが」


 く、相変わらず鋭いな。ここで下手に話を続けるのは愚策、話を変えねば!


「気のせいですよ。それよりもソフィアさん、ロカさん達に戦力外と言われるまでに何かありませんでしたか? もしよろしければ教えていただきたいのですが」


 よし、これは巧いだろ俺!ってセリスさん、ちかっ!


(市長、今回は誤魔化されてさしあげますが、もう少し人に思考を読まれないよう努力されるべきかと)


 ひいいいい。一ミリも巧くないな俺!


「御屋形様?」


「市長のことは気にされなくて結構ですよ。それよりも何があったのですか、ソフィア様」


「御屋形様に言われた通り、ロカ殿達の作業を手伝いに行ったのでござるが、拙者が手を出すと、色々な物がいきなり壊れてしまったでのでござる」


 なんだそりゃ?


「何度やっても、壊れるものばかり増えてしまって……それでロカ殿達から手伝いはもういいと」


 猛烈に不器用ってことか?


「なるほど。もしかするとソフィア様にはメイカーの作業に対してマイナス補正が入っているのかもしれませんね」


「マイナス補正ですか?」


「ええ、基本的にそれぞれの作業に関する能力を持っていなくても、ある程度の簡単な作業は可能です」


 たしかに。現に建設関連スキルがなくても建物を作ってるしな。


「お話を伺う限りだと、どんな作業でもモノが壊れてしまうとのこと。これは普通に考えてありえません。であればモノを作ることに関して何らかのマイナス補正が作用しているとしか考えられません」


「そうなのでござるか……」


 なるほど、この辺はまさにゲームだな。ってまた、近いよセリスさん!


(市長。ソフィアさんのマイナス補正はジョブそのものが関係しているかと)


 ソフィアさんのジョブといえば破壊の化神。うん、もうそれしかないよな。モノを作るって行為とは

 真逆だもんな。


(市長、ソフィアさんのフォローはお任せいたします)


(わかりました)


 とは言ったものの、さてどうしたもんかね?

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