第28話 目を離せないもの

「という訳で特訓でござる。まずは【内硬壁】の取得でござる」


「習得にはどのくらい時間がかかるものなのですか?」


「わからないでござる!」


 ……。


「では質問を変えましょう。ソフィアさんはどのくらいの時間で習得したのですか?」


「わからないでござる!」


 ……。


「わかりました。では何かコツのようなものは」


「わからないでごさる!」


 これはあれだな、多分駄目な奴だな。


「ソフィアさん、申し訳ありません。今日は他にもやらなくてはならないことが沢山ありますので、特訓はまた後日ということでよろしいでしょうか?」


 今は他にやることもあるし、申し訳ないがここはパスさせてもらおう。


「クゥーン」


 な!? 急にプルプルと震える弱々しい仔犬のように!

 く、弱々しく見上げるそのつぶらな瞳は反則だ。しかもさりげなく凶器を強調してくるとは!

 着物っぽい衣装を、はだけさせる感じで着てるから凶器がはみでそうになってる。

 

 くそ、誰だこんな破壊力抜群の技を教えたのは!


「市長、まずはソフィアさまの提案に付き合ってあげては?」


 いや、セリスさん。まずはって言いますが、ソフィアさんの特訓=ほぼぼぼ死ですよ。しかもこの感じだと高確率で得るものも無く、無駄死に……。


「御屋形様」


 く! わかっている、わかってはいるんだ。自分が確実に無駄死にするってことは!

 だが、俺にはソフィアさんのお願いに打ち勝つ術がない、こんな破廉恥な俺を笑うなら笑え! 俺には一変の悔いもない!


「わかりました、一度だけですよ」


「いってらっしゃいませ、市長」


 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼


「おかえりなさいませ、市長」


 うん、あれは駄目だな。アドバイスが駄目すぎる。ガッといってグッとやるとか全く理解できないから。

 おかげでアドバイスの意味を考えてるうちに、殺られてしまった。


「成果はありましたか?」


 成果、成果ね。うんまあ、あったと言えばあったかな。


「大きくはありませんが」


 ソフィアさんが、人にものを教えるのが致命的に向いていないということがわかったからな。


「そうですか、それはソフィアさんも喜ばれるでしょう」


 心なしか、セリスさんの笑みに黒いものが混じってる気がするんだが……。


「お力添えした私も、嬉しい限りです」


 まさか!?ソフィアさんにあれを仕込んだのは、セリスさんか?

 何てことを教えるんだ、セリスさん。あんなもの俺が対抗できる訳けないじゃないか。


「何かご不満がありましたか?」


 だがしかし! 男としてはセリスさんに拍手喝采だ!


「いえ、特に」


「それでは市長、街を発展させましょう」


「わかりました」


 死に戻りする価値のあるものは拝ませてもらったし、切り替えていこうか。


「ロカさんは……」


「ん?親分どうかしたのかだぞ」


「そんなところにいたのですか」


 ロカさん完全に道具の山に埋もれてたな。後でこの小屋の中を片付けないと。


「おねがいしていた設計図は完成しましたか?」


「勿論だぞ!」


「では宝玉のリストをひらきますので、必要な資材を教えて下さい」


「任せろだぞ」


 く、この近距離でも空を飛ぶか! 他の場所を見るんだ、俺。違うそっちじゃない、目を離すんだ!

 ってなんで、うつ伏せで浮いたまま横に並ぶんだよ。しかもその高さは危険度マックスだ。さらしにもならないような、布一枚しか胸に巻いてないんですよ貴女は!

 くそ、下乳が視界のすぐ横をほあんほあんとっ!


「えーと、これとこれとこれかなだぞ」


 無心だ無心。無心下乳無心。


「親分、終わったぞ」


 無心、むしん、下乳あぁぁぁぁぁあ。静まれ、俺の煩悩よ! 何か、何かないのか?


「市長、これをどうぞ」


 これは姿見?


 ぎゃああああああああ! いい年した男の裸サスペンダー半ズボン!


「ぶふ、お、落ち着けましたか?」


「ええ、お陰さまで」


 落ち着きと引き換えに、心の傷を深くえぐられましたけどね。


「その姿見、映したものを記憶させることが出来るんですね」


「ええ、今となっては私の大切な宝物です。くく」


「あの、その記憶は消すことは可能なのでしょうか?」


「中身も含めて、大切な宝物です」


 く、もっともらしいことを!


「では一部だけ、特に私のあの映像だけでも」


「中身も含めて大切な宝物です」


 くそ、手放すつもりはないってことか。貴女は何てものを使ってくるんですか。というかその姿見、映したものを記憶できるんですね。


「そんなことより、街を発展させましょう」


 く、この話はここまでということか。まあ、今日のところは引き下がろう。

 そういえば、資材を選んだの初めてだが、どうやって出てくるんだ?


 《資材を置く場所を選んでください》


 おお、地図が出てきた。女神像の時と一緒で、好きな場所に出すことができるみたいだ。一々運搬しなくてもいいのは便利だな。


「ロカさん、資材を置くのは小屋の横でよろしいですか?」


「大丈夫だぞ、親分」


 じゃあ、小屋の横を選んでっと。よし、完了。


「ロカさん、資材が届きました」


「わかったぞ、早速作業をはじめるぞ」


「私にも手伝えそうなことはありますか?」


「うーん、親分は力もないしなぁ。鳳仙もソフィア姉も紅姉もいるし、大丈夫だぞ」


 まあ、俺が一番非力なのは動かせない事実だしな。


「わかりました」


 なら俺は小屋の片付けでもするか。


「じゃあ、いってくるぞ」


 ああ、そんなに勢いよくドアを開けたら、小屋が壊れちゃうよロカさん。何気にテンションが上がってる?


「頑張ってください」


「任せろだそ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る