第26話 新装備

 む、今日も今日とてINと同時に深き海。この深さはソフィアさんか?


「御屋形様~ムニムニ」


 お、今回は頭を潰されないみたいだ。だがしかし、この海から抜けるの一苦労しそう、だっが!?

 あ、顎が!? 俺の顎が割れそうだ。


「ご主人さま、避けて!」


 は?な?踵!?


 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼


「おかえりなさいませ、市長」


「セリスさん、ただいま戻りました。今回もINと同時にひどい目にあいましたよ。さっきの踵はどなたですか?」


「紅様ですね。市長の顎を蹴り抜いて、そのまま綺麗な踵落としを」


 あれは紅さんの踵だったのか。

 それにしても俺が一撃で死に戻りするような威力だったのに、あの衝撃くらいじゃソフィアさんも、ロカさんもびくともしないんだな。


「いきなり災難だったわね、ご主人さま」


「ただいま戻りました、鳳仙さん。それにしてもこの状況は一体?」


「ソフィアちゃんが、ご主人さまの横に丸まったから、ロカちゃんと紅ちゃんもそれに習ったみたい」


 うん、あの夢と希望と壮絶な死がつまった海の件はわかった。でも俺が気にしているのは、そこじゃないかな。


「いえ、その件ではなく、この部屋の状況をお伺いしたいのですが」


 なんというかね。人のいられるスペースがほとんどないんだよね。


「みんなの努力の賜物よ」


「なるほど」


 確かに、いろんな道具が散乱してて、なにやら作業を行っていた形跡はあるな。あるんだがこれは……。


「ごめんなさいね。みんな、ご主人さまのためにって頑張りすぎちゃったみたいなの。お片付けは後できちんとするから、大目にみてあげて」


 うーん、そう言われるとなにも言い返せない。


「わかりました。それで皆さん何を作られていたのですか?」


「ワタシはこれよ」


 箱?


「この箱は?」


「それはただの包装よ。中身はご主人さまの新しい装備品よ」


 こんな小さいサイズの箱に装備品が入るのか。こういうところは流石ゲームだな。


「ほらほら、早速身につけてみて」


「わかりました」


 って、この箱えらくしっかりしてるな。どうやって開けるんだ?


「市長。箱ごとアイテム欄にいれて、箱を選び、装備を選択していただければ直ぐに装備できますよ」


 アイテム欄に入れて、箱を選択。《鳳仙の愛》……なんか凄まじい名前の装備品だな、おい。

 ………これ、装備しなきゃダメなんだよな?


「どうしたのかしら? ご主人さま」


 く、ええい!折角作ってもらったんだ、迷ってる暇はない! 装備を選んで実行だ!


 《鳳仙の愛を装備しました》


 おお、装備が一瞬で切り替わるのか。この辺はやっぱりゲームなんだな。


「って、なんじゃこりゃ!?」


 上半身裸にサスペンダーしかも、半ズボン!?


「流石ご主人さま! 見事な着こなしよ!」


 流石?なにが流石なんだ?この格好で誉められても、一ミリも嬉しくないぞ。


「アタシの目に狂いはなかったわ!」


 いや、1から10まで狂いっぱなしだろ。なんだよ裸にサスペンダーって俺は戦うマッチョな市長かっての。

 しかも下半身の装備が半ズボンて。サスペンダーつながりで頭脳は大人な名探偵とコラボかよ!


「ぶふ。お、お似合いですよ。ぶぷ、市長」


 セリスさん。もうそこまで無理するくらいなら、いっそ指差して笑ってくれた方がまだましなんですが。


「ぷははははははははは。親分、なんだその格好はだぞ」


 ロカさんいつの間に!?


「あはははははははははは」


 くそ、前言撤回だ。指差して笑われても全然ましじゃない!

 というか、これ装備としてもどうなんだ?確か初期装備だと防御力がみたいな話だったはず。上半身裸の時点で守備力皆無なんじゃないのか?


「なにやら珍妙な格好でござるな、御屋形さま」


 ごもっともです、ソフィアさん。冷静な評価もそれはそれで厳しいもの

 があるな。


「我が主は、そのような変わった服装を好むのか」


 好みませんよ! 全くもって俺の趣味じゃありませんよ!


「みんな、なんでこの装備の良さがわからないのかしら」


 わからねーよ。いい年した男のサスペンダーに半ズボンの姿について、なにかわかる奴が大問題だろ!


「市長これを」


 これは姿見のアイテム。今の俺に自分の姿を見ろと?


「いえ、え「これを」」


 ここで、セリスさんの強引なドリブルか!こうなったセリスさんは止まらないんだよな。

 くそ、覚悟を決めて使ってやろうじゃないか。


 いい年した男が上半身裸にサスペンダーと半ズボンでたたずんでいる。

 これが今の俺の姿か、最悪の絵面だな、おい!


「あははばばはは、二人に増えた。あははははははは!駄目だボク死んじゃうぞ!」


「ロカさん。くく、そのように笑っては、ぶふ、市長に失礼ですよ」


 鳳仙さん、流石にこれはない、これはないよ。


「鳳仙さん。申し訳ありませんが、このように皆さんの評価もありますし、この装備は」


「うーん、ワタシは素敵だと思うのだけど……。しょうがないわ、無理強いは良くないものね。じゃあ、はい、ご主人さま」


 また箱が!? しかもさっきのより大きい。


「これは?」


「ご主人さまの為に作った、別の装備よ」


 え、まだあるんですか?


「あら?どうしたの? もしかして、その装備のほうがよかったかしら?」


 く、この装備は無しだ。それは確定している。だが、次の装備も同じ路線ということはありえないか? いや、大いにあり得る!


「あはははははははは」


「ぷ、くすくす」


 あの二人に燃料をくべるだけになるだけとか。これ以上は俺の心が持たないぞ。


「ご主人さまどうするの? これいらない?」


 ええい!迷ってる場合じゃない!やってやるぜ!


「いえ、いただきます」


 アイテム欄に入れて!選んで!装備だ!


 《アルカルデ・デシェルトを装備します》


 これは……スーツ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る