第27話 スーツの力

「どうかしら、ご主人さま?」


 どこからどう見てもスーツだよな、これ。色は黒?ダークグレー?スタイルは結構細身だな。革靴にネクタイにタイピン、カフスもついてるのか。


「気に入ってもらえたかしら? やっぱり前の奴の方がいいかしら?」


「この装備でおねがいします」


「そう、ちょっと残念だけど。こっちの装備もとっても素敵だものね」


 ……。


「どうしたのかしら?ご主人さま」


「いえ、少し体を動かしてきても?」


「そうね、慣らしは必要だものね」


 それにしてもあのサスペンダーセットどうするかな。


「市長!私はこちらの方が、ぶふ、よろしいかと」


 あの等身大姿見、まだあのままだったのかよ。


「あははははははは、親分。駄目だボクお腹が。あははははは」


 この二人鬼だ、鬼!俺の心の安定のためにもう処分だ処分!


 《それを捨てるなんてとんでもない!》


 捨てられないのかよ!


 このサスペンダーセット、なんかの重要アイテムなのか? もしかしてスプーンの時みたいな何かがあるのかね?


「ご主人さま?」


 もういいや。


「それではちょっと外に出てきます」


「いってらっしゃいませ、くく。市長」


 気分を切り替えてスーツの試運転だ。


 うん、歩いたり普通に動いたりする分には凄く動きやすいな。あとは動きの強度をあげるとどうなるかだが。

 まずは急加速からの急ブレーキ、そして急加速! うん、全然問題ない。

 次は急加速、急ブレーキ、からの左右への急加速! これも問題なし。


「どうかしら、ご主人さま?」


「凄く動きやすいですね」


 このスーツ凄いな、靴も革靴のはずなのに。理屈はさっぱりわからないが、全くといっていいくらい体を動かす邪魔にならない。


「それは良かったわ。じゃあその装備について簡単に説明するわね」


「お願いします」


「その装備、ソフィアちゃんをはじめ私たちの素材をふんだんに使っているの」


「なるほど」


「だからね、かなーり頑丈。多分ほとんどの刃物、魔法やブレスは防いでくれるし、ちょっとした災害くらいならびくともしないわ」


 ほとんどの刃物や魔法、ブレスを防ぐってのもすごいが、災害って……。だがそれだけの装備なら、今までのように簡単に死に戻りもないはず。これは早速体験せねば!


「あ、ご主人さま」


「ちょっと性能を試してきますね!」


「ま」


 獲物、獲物はどこだ! 散々ぼこぼこにしてくれやがった、今までの借りを返してやる!


 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼


 いた!でかい牛みたい奴!


「怒りの拳をくらえ!」


 うん、やはり俺の拳ではびくともしない。まあ上がったのは防御力で攻撃力じゃないしな、当然のことだな。だが注意をこちらに向けさせるには十分。おかげで明確にこちらを敵として認識したようだ。


 お、なんか牛の眉間に赤い光が集まって……うおお、火の玉飛ばしてきやがった。これはスーツの能力を試すチャンス!

 だけどこの火の玉えらい大きいな、ちょっと、いやかなり怖いぞこれ。だが実験のためにも、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だぁぁぁああああ!


 ……なんともない。なんともないぞ!


「俺は生きている、生きているぞおおお!」


 本当に刃物もブレスも天災も防げるのか……これはすごい物を手に入れてしまった!


 そして、防御を気にせず殴り続けられるとなれば。例え火力のない俺の攻撃でもぺちぺちと削りまくって、いつかは魔獣を倒せるはず!


「やってやる、やってやるぞおおおおお!」


 む、またさっきの火の玉か。


「だがその攻撃は俺には効かない!」


 うーむ、攻撃を喰らってそれを、無効化するって気持ちいいな。


 ん? 今度は突進してくるのか。いいだろう、受けて立ってやる!


「さあ、かかってこい牛みたいなつ! 今の俺に、お前の攻撃は無意味だべごあぁぁああああ」


 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼


「おかえりなさいませ、市長」


「おかえりなさい、ご主人さま」


「ただいま戻りました」


 うーむ、ほとんどの攻撃を防ぐって話だったんだが。いつもの死に戻りになってしまった。


「もう、ご主人さまってば話の途中でいっちゃうんだから」


「申し訳ありません。鳳仙さんのお話を聞いて試してみたくなりまして」


「あのね、たしかに刃物も魔法もブレスも天災も防ぐって言ったけど、この辺の魔獣の攻撃はそれだけじゃないのよ」


 どういうことだ?


「この辺はソフィアちゃんはちょっと別次元だけど、紅ちゃんやロカちゃんみたいな魔獣がゴロゴロしてるのよ」


 やっぱりソフィアさんは別次元なのか。


「その皮膚や毛皮は固く分厚く防御力も相当なもの。並みの攻撃じゃびくともしないわ」


 確かに、俺の拳でびくともした相手を見たことがない。


「だからこの辺の魔獣は、その分厚い防御力を抜いて相手にダメージを与える術をもっているの」


「ということは」


「強い装備で身を固めただけじゃ、ご主人さまの一撃で死に戻りは変わらないってこと」


 やはり早々うまい話はないということか。いきなり最強装備でノーダメのRPGとかゲームとしては面白くないし、当然と言えば当然だよな。

 だが、装備だけで防げない攻撃とかどうすりゃいいんだ?


「対策はあるのでしょうか?」


「己を鍛え、その身を守る術を手にいれるしかないでござる」


 ソフィアさん?


「その術とはどんなものなのでしょうか?」


「奴等の攻撃は、皮膚や毛皮という分厚い壁の内側を直接攻撃してくるでござる」


 防御力を越えてくる攻撃かぁ。これってもしかして防御力というステータスがいきなり死にステータスになったんじゃ……。


「それに対抗するためには、己の内側からさらに防御の壁をつくるしかないのでごさる」


 インナーマッスルとかそんな感じか?いや、違うな。えーと、うーん、今イチよくわからん。


「言葉だけでは解りづらいでござるな。御屋形様にも分かりやすいように実践してみせるので、参考にしてほしいでござる」


「ありがとうございます」


「ではいくでござる!」


 お、おお、なんだこれ? ソフィアさんの全身を光の膜が覆ってる? これどっかで見たような……。

 ああ、レイドバトルの時に見たエフェクトのでる攻撃と一緒なのか。


「御屋形様、見えているでござるか?」


「ええ、ソフィアさんが光の膜に覆われています」


「これが【内硬壁】でござる。最初は意識的にしか使えぬでござるが、使い続けることで、常時使用している状態にできるようになるでござる」


 これってアクションスキルがスキルの熟練度を上げることによって、パッシブスキルになる感じなのかね?


「勉強になりました。ちなみにその【内硬壁】を使えるようになるためには、どのようにすれば?」


「特訓しかないでござるよ」


 当面、死に戻り生活は続くということか……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る