第23話 未知への船出

「おかえりなさいませ、市長」


 ふう、またもや溺れることになるとは。一体あの水はなんだったんだ? だかそれよりも。


「セリスさんは大丈夫でしたか?」


「はい、問題ありません。ご心配いただきありがとうございます」


 後ろ振り向いた時には、既にいなかったから大丈夫だとは思ったけど。ぱっと見何か変わったところもないし、うん、本当に大丈夫そうだな。


「それにしてもあの水は一体なんだったのでしょうか?」


「女神像から流れ落ちる水に合流していたようですが」


「ということは、どこかにあれと同じ像が立ったのでしょうか?」


「申し訳ありません、私にもわかりかねます」


 うーん、でも全く同じようなタイミングで、この荒野のどこかにあの像が建てられるってのもなぁ。


 まてよ。たしかあの像の説明に、女神像を中心に水が巡り続けるって書いてあったよな。ってことはもしかしてあれは、どこかに流れていって戻ってきた水ってことか?

 普通なら信じられない事なんだが、紅さんもあの女神像には力があるって言ってたし、女神の祝福ってのが凄い力をもってるならあり得ることなのかもしれないな。


「ということで市長、是非とも調査に」


「セリスさん、何で板切れ持ってるんですか? 何度も言いますが行きませんよ」


「何度も言いますが、是非とも調査に」


 ちょ、嬉々とした目をしながら、板でグリグリしないでください。


「是非とも調査に。大丈夫です、流れも落ち着いたようですし。落ちて溺れることはないかと」


「いや、でも「大丈夫です」」


 く、だが確かに、俺の予想があっているか検証する必要はあるよな。それに、こうなったセリスさんが諦めるとは到底思えない。ここは腹をくくるか。


「一度だけですよ」


「かしこまりました、それでは早速向かいましょう」


「はあ、わかりましたって、なんだこりゃ」


 女神像の足元にでかい湖ができてるんですが!?


「我が主、戻ったか」


「親分、お帰りーだぞ」


「おかえりなさい、ご主人さま」


「ただいま戻りました。しかしこれは一体……たしかさっきまでは河だったはずでは?」


 大きな湖とそこにたたずむ女神像、絵面としては良いのかもしれないけど。領地の半分が完全に水に浸かってしまった。


「流れ落ちる水と流れ込む水が合流して、あっという間にな」


「ですがこのままだと水が溢れてくるのでは?」


「それが不思議なことにこの湖、これ以上広がることも小さくなることもないようだ」


 信じられんが、信じるしかないな。なんせ俺には移る場所がないしな。

 それに減りも増えもしない湖。もし本当なら使い道はたくさんありそうだ。流れの急な河から水引くよりも、色々とやりやすそうだし。


「溢れる水は河となって流れ、流れ落ちた水は河となって注ぎ込む。力のある女神像とは思っていたが、このような奇跡を起こせるとは」


 女神の名前は伊達じゃないってことなのかね。


「市長。さらに流れも穏やかになっているようですし、調査もやりやすくなっていますよ」


 そしてセリスさんはぶれないねぇ。俺が板一枚で河下りするのは逃げられないってことなのね。


 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼


「親分、そんな板切れ一枚で大丈夫なのか?だぞ」


 全然大丈夫じゃないですよ。既にぐらぐらしてますし。


「ご主人さま、そんな無理して冒険しなくても」


 正確には俺が冒険したいわけではないんですけどね。


「ここには魔獣がいないが、この先にどのような魔獣がいるかもわからん。気を付けるようにな、我が主」


 いや、もう魔獣がでたら確実に俺アウトですよ。


「いってらっしゃいませ、市長」


 とても素敵な笑顔ですねセリスさん。明らかに俺が困ってるの見て喜んでますよね?

 まあでも、この水がどこに流れてるのかは興味あるし、行くだけ行ってみよう!


「では、ちょっと行ってきます」


 思ったより穏やかだな。でも漕がなくてもいい程度には流れもあるか。最初は不安定だったけど、板に乗るのもなれてきた。


「市長!そろそろ領地の外になります、お気をつけくださいませ!」


 危険地帯に放り込んだ張本人がお気をつけくださいって。いや、まあ、いいんだけどさ。

 おっと、そろそろ領地の外だな。取りあえず見える範囲に魔獣は見当たらないがセリスさんの言うとおり気を引き締めないとな。こんな板切れじゃ、下からちょっと突き上げられただけで転覆だ。


「親分、気をつけてだぞ」


 ロカさんの声がえらく近くに聞こえるんだが、一体どこから……っては?空!?


「ロカさん、空が飛べるんですか?」


「ボクは風華霊鳥の化身。空を飛ぶくらい簡単なことだぞ」


 うーん、魔獣転生は元の姿の特性を、かなり引き継ぐってことなのかな?それにしたって、羽もないのにどうやって空飛んでるんだ?


 しかし、今はそれどころじゃない、それ以上に大きな問題が!


 ロカさん、空中でうつ伏せホバリングはやめてください!目のやりどころに困ります!しかも微妙に見易い距離感で!


「親分、突然目をそらしてどうしたんだ?だぞ」


「いえ、ちょっと日差しが目にはいっだけですよ」


「わかった、ならこうするぞ」


 お、体をたててくれたかって、あれ?何でちょっと上の方にいるんだ?


「これなら日差しがあたらないぞ」


 おお、わざわざ日光を遮ってくれ……ロカさん今度はちょっと近いかなぁ、両巨頭のお陰でお顔が見えません。というかこれだとロカさんも俺のこと見えなくないか?


「む、これだと親分の顔が見えないぞ」


 やっぱり見えないのか……。


「日差しはもう大丈夫です。ありがとうございます」


「そうなのか?」


「ええ、それよりも」


「む、これ以上前に進めないぞ!」


 どうやら領地から50メートル以上離れたみたいだな。


「ロカさんが動ける範囲を過ぎてしまったようですね。お見送りありがとうございます」


「親分がんばってーだぞ!」


 ロカさんの無邪気さに暴れまわる両巨頭。目を奪われるのは男の性と言うのは多分言い訳なんだろうなぁ。


「私は、破廉恥な男なのかもしれおぶふぅぅぅう!」


「おやぶーん!」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る