第20話 天災

 外といっても狭い領地、ドアを開けたらすぐそこなんだけどね。


 それで、みんなは何をやってるんだ? 何かを作ってるって感じじゃないけど。


「ソフィアさん、紅さん、鳳仙さん、ただいま戻りました」


「御屋形様」


「我が主」


「ご主人さま」


 三人でなにを見てるんだ?


「それで皆さんなにをしているのですか?」


 火を囲んで……焚き火?


「いま、我の力で不要な物を燃やしていたところだ」


 燃えるゴミの処分て感じか。ゲームの世界でもしっかりとゴミ処理はしなきゃいけないとは、また無駄にリアルだな。


「ちなみに、なにを燃やしているんですか?」


 魔獣も倒せばドロップアイテム以外は消えてなくなるし、燃やして処分しなきゃいけないようなものは特になかったはず。


「知らぬ女の気配がするものを」


 なんか、紅さんから凍てつくオーラが。さ、寒い、心が寒い!


「知らない女の匂いがしたでござる」


 ぬお、ソフィアさんから狩りの時とはまた違うプレッシャーが。な、なにもされていないのに胃に穴が空きそうだ!


 しかし、知らない女性ってのは一体なんのこと……って、あれは春香さんにもらった作業用の道具一式!


「なぜ作業用の道具を燃やしているんですか!?」


「知らぬ女の気配を感じたからな」


 さ、寒い。こ、心が凍死しそうだ!!


「知らない女の匂いがしたでござる」


 い、胃が。それだけじゃなく、なんか他の内蔵も悲鳴を!!!


 不味い、このままだと意味もなく自主的に死に戻りしそうだ。何か、何かないのか?

  そうだ!背中の幸せに意識を集中するんだ。軽蔑されようがかまわない、今はなりふりなんかかまってられない!


「お、や、ぶーん」


 な、背中からも!? 柔らかさをはるかに越えた鋭い何かが。

 しかもなんか首にまわされた手が徐々に締まってきているような……このままだと、自主的にする前に死に戻りしそうだ!


「紅ちゃん、ソフィアちゃん、ロカちゃん、ちょっとご主人さまを借りるわねん」


 鳳仙さん!


「ご主人さまん、ちょっとこっちへ」


 おお、ごっついおっさんが今だけは救いの魔神に見える!


「ご主人さま。失礼なこと考えてるなら、またあの三人の前に放り込むわよ」


「大丈夫です、そのようなことは一切考えていませんよ」


 あの危機的状況から救ってもらった魔神さま相手に、そんな事あるわけないでしょう。


「本当かしら?」


「本当ですよ、感謝の念以外ありません」


 ありがたや、魔神さま!いつか街に銅像……はやめておこう。心ない人にイタズラされたりしたら悪いからな。でもそれぐらい感謝しています。


「全然そんな風におもえないけど、まあいいわ。それよりもこの状況について話しておかないとね」


「是非に!」


「まあ、そんな難しい話ではないのよ」


 難しくない?ということは俺が死にたくなるようなこの空気が、簡単に作られるってことか!?

 それは勘弁してほしいな……ストレスで死に戻りするゲームとか斬新過ぎる。


「また、くだらないこと考えてるわね」


「そんな事ありませんよ、私にとっては死活問題です」


「死活問題って。そんな大袈裟……でもないわね、あの三人相手なら」


「そうですよ。ですから対策を練るためにも、是非その難しくない理由を教えて下さい」


 理由さえわかれば対策を練ることができるからな。避けられる死に戻りは避けないと。


「このままだと領地まで危険地帯になってしまいますから」


「それは既になっている気もするけど」  


 ……確かに。身内による頭蓋骨粉砕による死に戻りと窒息による死に戻り。全て悪気がない分、戦闘での死に戻りよりもひどいかもしれない。


「まあいいわ。それよりも、今の状況についてよ」


 全くもってまあ良くはない気もするが。確かに、今のこの状況の理由も大切だ。

 物理的な死に戻りも避けたいが、精神的な死に戻りはもっと避けたい。さらに言えば物理と精神の合わせ技はもっと嫌だ。


「説明おねがいします」


「ええ。まあ、理由についてはさっきも言ったように難しいことじゃないのよ。彼女達はね、とっても焼きもち焼きさんなのよ」


「焼きもちですか?」


「そ。ご主人さま、あの道具一式に女性が関わってないかしら?」


「あれらを手にいれるのに関わっています」


「でしょ。彼女達は焼きもち焼きさんだがら、そういうわずかな部分にでも知らない女性が関わっているのを見抜くのよ」


 いや、見抜くのよって、それはもう焼きもちとかそういう可愛らしいレベルをはるかに越えているのでは?


「感覚が鋭い、強い魔獣に多い傾向なんだけどね」


 とんでもなく強くて、その上鋭く色々気付く焼きもち焼きとか恐怖でしかないですよ。折角強いんですから、もう少しおおらかでいてください。


「それでね、彼女達のような強い魔物には一妻多夫が多いんだけど」


 ほー、逆ハーレムか。しかし、やばいくらいの焼きもちやきが、一妻多夫って上手くいくのか?


「どうしてかわかる?」


 わかると聞かれると。うーん、単純に考えれば強さだよな。


「強いものに惹かれる傾向があるということでしょうか?」


「はずれね」


 違うのか。じゃあなんだ? 一人の女性に複数の男性が集まる理由……。


「女性の数が圧倒的に少ないとか?」


「うーん、そんなこともないわね。むしろ男性の方が少ないかもね」


 となると……なんだ?


「正解はね、一人だと心労で死んじゃうからよ」


 は?


「彼女達はなんの非もないような些細なことにも、ものすごーく、焼きもちを焼いちゃうの」


 ……。


「ご主人さまが持ってきた道具一式を、問答無用で燃やしちゃったでしょ。あんな感じのことが日常茶飯事で起こるから、一人の男性だと耐えきれなくなっちゃうの」


 あれを毎日かぁ。


「うん、その表情は間違ってないわ。想像するだけで耐えられないでしょ?」


 うん、耐えられないな。


「だからね。仲間を増やしてみんなで肩を寄せあって、耐えるのよ」


 理不尽に耐えるために、男性陣が集まった結果の逆ハーレム。色気の欠片もない話だな、おい。なんでそこまでして女性と共にいるんだ?


「ですがなぜ、そこまで? 逃げるなり、近づかないようにするなりできるのでは?」


「ご主人さま、突発的な天災から逃れる術ってあると思う?」


「それは難しそうですね」


「彼女達に見初められるっていうのは、そういうことなのよ。逃げることも防ぐこともできない天災」


 ……。


「長々と話しちゃったけど。結局何が言いたかったかと言うとね」


 は!


「まさか!!」


「そのまさか。天災×3よ♪」


 ……。


「頑張ってね、ご主人さま♪」


 うん、でもまあ、惚れたはれたって話じゃないしな。上司への敬愛とかそんな感じだろ? なんとかなるさ!


「我が主。たった今、全ての処理を終えた」


「チリも残さぬ見事な処理でござったな」


「綺麗さっぱりだぞ!」


 なんとか……なんとかなるよな?

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