第13話 戦の前の腹ごしらえ
『要請受理されたプレイヤーに通達。あと5分で緊急防衛レイドバトルが開始されます』
「あら、もうそんな時間」
やっと終わった……。
「まだまだ話したりないけど、まあいいわ」
あれだけ話してまだ足りないんですか?途中から俺の説教されっぷりに、遠巻きながらの見物客がでてきてましたよ。
なにか途中からリアルなお仕事の愚痴とか混ざってましたし。色々とストレスがたまってらっしゃるのでしょうか?
「ええとあなた。あら? そういえば、お互い自己紹介もしていなかったわね」
そうですね。いきなりお説教モードでしたから。
「私は
「私は
「えらく変わった当て字ね。まあ特徴があって覚えやすそうだけど」
たしかに、そういわれると覚えやすくはあるのか?
「それじゃあⅩⅣ狼。手を出してみて」
「こうですか?」
「よいしょっと」
握手?なんだこの音?
「今、鈴の音が鳴ったでしょ?」
「ええ」
「メニューを開いてみて」
「わかりました」
なんだこれ? クルムの申請?
「クルムとは何なのですか?」
「はあ、そこまで知らないのね。あなた他にもオンラインゲームをやったことは?」
「それはあります」
「なら話は早いわ。要はほかのゲームでいうフレンドみたいなものよ」
「なるほど」
「クルムで繋がっていれば、遠方にいても会話ができるし、色々制限はあるけどアイテムなんかのやり取りもできるの」
それは便利だな。
俺の領地には本当に何もないからな。
「それで、どう? 私のクルム申請受けてくれる?」
「もちろん。喜んで!」
「ありがとう。とりあえずこれは私の話を聞いてくれたお礼よ」
また鈴の音?
≪春香様からアイテムが届いております≫
アイテム?ってこれは!?
「メイカーの作業道具よ。初心者用のものが大半だけど、ほぼすべての作業道具があるわ」
「よろしいのですか?」
「それほど高価なものじゃないしね。ⅩⅣ狼に話していたらなんか色々すっきりしたし」
それはよかった。よくわからないまま叱られた甲斐があったというものだ。二度とご免こうむりたいけど。
「だからさっきも言ったようにお礼だと思って受け取ってよ」
「わかりました。ありがたく頂戴します」
「うんうん。おっと、そろそろレイドバトルが始まるわね。ⅩⅣ狼お互い頑張りましょう!」
「そうですね、がんばりましょう」
「じゃあまたね!」
「それでは」
なんか精神的にやられた気がするけど、作業道具が手に入った。春香さんっていうクルムも増えたし。バザーについても学べたし。今回のレイドバトル参加は大成功だな!まだ始まってないけど。
ん? 大きな街道の人だかりが多くなってきたな。そろそろ始まるのか?
しかしこれだけの大人数が移動となると……。やっぱ、渋滞するよなぁ。連休のテーマパークの入り口みたいになってる。
屋根の上も結構人がいるな、屋根の上を走れないかと思ったが考えることはみんな同じか。しかし大量の人が屋根を伝ってぴょんぴょん飛んでいるのを遠目に見ると、大量のカマドウマに見えなくもないな。
……大量のカマドウマか、想像したらちょっと気分が悪くなってきた。軽いトラウマになりそうだ。
さって、この混雑が今すぐどうなるわけでもなさそうだし、どうするかね。
ある程度待てば空いてくるだろうし、もしレイドバトルが終わったらそれまでだ。色々収穫があったし俺、としては特に問題もないしな。
「おい、そこの初期装備の兄ちゃん」
なんだこれ?引いてるのは屋台か?
しかし屋台の雰囲気と格好も相まってまさにおでん屋!って感じの人だな。
「私ですか?」
「ああ、こんなところをウロウロしてどうしたんだい?」
「この流れに乗り遅れてしまったので、少しのんびりしようかと」
「なるほどな、確かに始めたばかりだといろいろわからんことも多いしな。こんな大規模イベントだと乗り遅れちまうわな」
「ええ、まさにそんな状況です」
「まあ、これだけの大規模レイドだ。そんなすぐにも終わらんだろうし、どうだい一杯やっていくかい?」
「うれしいお誘いなのですが、いかんせん私は一文無しで……」
「ああ、いいよいいよ。どうせレイドに行くんだろ? それまでの時間の飲み食いくらい俺のおごりだ。いまから噴水広場にもどって店ひろげっから、ついてこい」
「え?」
「ほらグズグズすんな!」
「は、はい!」
いかついおっさんの像を中央に置いた噴水と荘厳な雰囲気の建物。これは雰囲気的に教会みたいなもんなのかね?そしてこの噴水を囲むような広場とそこから東西南北に延びる大きな街道。どうやらここは街の中心みたいだな。
「よしできたっと。兄ちゃん、椅子出したからそこに座ってくれ」
「ありがとうございます」
やはり見たまんまおでん屋さんだったか。それにしてもうまそうな香りのおでんだ、ここゲームの世界なんだよな?
「どうした、早く食ってくれ」
ゲームの中で食事かぁ、何とも不思議な体験だ。
「それではいただきます」
「おう、くいねえくいねえ」
……うまっ!
このがんもどきみたいのもちくわみたいのも、うま!
「どうだ、うまいだろ?」
「ええ、こんなうまいおでんは中々お目にかかれませんよ」
「おうおう、うれしいこと言ってくれるねぇ」
「いや、ほんとに。この厚揚げも、うまい!」
「うんうん、いい食いっぷりだ。そんなにうまそうに食ってもらうとメイカー冥利につきるってもんだ」
メイカーってことはやはりこのおでんはプレイヤーが作ったのか。まあ、普通に考えて中世ヨーロッパな世界観に完全和風のおでんはないよな。このゲーム、もしかすると制作物に関してはものすごく自由度が高いのかもしれないな。
「これはおでん種からご自身で作られているのですか?」
「ああ。だしも種も全部、現段階で手軽に手に入るものの香りや味をリサーチしまくって作った、俺の自慢の一品たちよ!」
「なるほど……」
やっぱり、かなり自由度が広いみたいだ。
「あ」
「ん?どうした?」
「いえ、一つ疑問に思いまして。この世界でも空腹みたいな現象ってるのですか?」
「ん? そりゃあるさ。空腹度が高くなると能力低下を招いちまう。まあ死に戻りしたら空腹もリセットされちまうがな」
ああ、死に戻りしかしてないからな。道理で俺が気付かないわけだ。
「そのためにも食事は大切なんだよ。それ以外にも能力にプラス効果が付くものが多いしな」
「なるほど、だからここでお店を出していたと」
「おう、そういうことだ。おかげさまで今日は入れ食い状態だったぜ」
まあ、能力云々の話がなくてもこのおでんなら普通に食べに行こいうと思うけどな。
「っと兄ちゃん、そろそろ人もはけてきた。そろそろいいんじゃねえのか?」
お、本当だ。みんな我先にって感じだったせいかな?思ったより人が減るのが早かった。まさにテーマパークの入り口って感じだな。
「おでん、ありがとうございます。また食べに来ますので、よろしくおねがいします」
「おう、そんときは金持って来いよ」
「はい。それではいってきます!」
「おういってこい!」
さてさて、一番人が少なさそうなのは……街の東側かな? 屋根にも人はいないし、街道も人がまばらにしかいない、これなら直ぐにでも外に出られそうだ。
と歩き始めたのはいいが、何でわざわざ石畳なのかね?
普通に画面上だけのゲームなら、雰囲気があっていい感じだが、いざこの足で歩くとなると、凸凹やら継ぎ目に足がとられたりして歩きにいくい。舗装された道ってのは思ったよりも楽で便利だったんだなぁ。
ん?あれが東側の出口かな?
あとはあの門をくぐるだけか。
しかしまた、でかい門だね。たくさんの人達の出入りがあるから横に広いのはわかるんだが、縦の大きさはどういうことなんだろうな? こんなにでかいものの出入りもあるってことなのかね?ま、何時かその辺もわかるか。
さて、それじゃあレイドバトル、やってみますか!
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