第12話 メイカー

 そういや、ソフィアさんまだ寝てるのか?

 ……寝てるな。どんなに美人でも、よだれ垂らして寝てるとなんかアレなんだな。


 あ、すすった。


 新しく来た三人に紹介したいんだが、今近づくとまた死に戻りさせられそうだからな。


『現在ログインされている全プレイヤーに要請』


 なんだ?


「どうかしましたか、市長」


 あれ?みんなには聞こえてないのか。


『緊急防衛レイドバトルか発生しました。参加可能な方はメニューにある、緊急要請ボタンをタップしてください。フヌースの街に強制転送いたします』


 レイドバトル?


「どこかの街を防衛するレイドバトルが発生するそうで、参加のお誘いが来たようです」


「なるほど。それで、市長はどうされるのですか?」


 どうしようかね。新しくきた住人達のこともあるしな。

 でも、他のプレイヤーと会えるチャンスでもあるんだよな。


 どうするか?


 んー、よし。決めた!

 メニューを開いて、緊急要請をタップと。


『レイドバトルへの参加を受け付けました。1分後にフヌースの街へ転送開始します』


「市長、参加されるのですね?」


「はい、他のプレイヤーと会える数少ない機会でしょうし。もしかしたらロカさん達の使う道具を仕入れる機会もあるかもしれません」


「わかりました。では出発の前に」


 !?

 セリスさん?

 顔、近っ!


「メニューやアイテム欄はクローズにしてください。プレイヤーの方々はここの住人のように、市長の味方のみではありません。無条件に信用するのもお控えください」


 な!?

 メニューもアイテム欄のことも知ってたのかよ。それに他のプレイヤーに気をつけろって。


「それでは市長、お気をつけて。御武運を」


『転送を開始します』




 ここがフヌースの街か。流石街というだけあるな、きちんとした建物がたくさんある。俺の領地とは天と地の差だ!それに人も多い!どんだけいるんだよ、人しか見えないぞ。

 これ、全部プレイヤーなのか? ソフィアさんみたいな人に、羽のある人、耳の尖った人。かなり多種多様な種族があるみたいだな。まあ、市長なんて種族があるくらいだしな、そんなもんか。


 さてと、どうやらすぐに始まるわけでもなさそうだ。折角のファンタジーの街だ。楽しみながら、ロカさん達の使う道具でも探してみるか。




 しかし、こういうゲームの街ってなんで石造りの中世ヨーロッパ風なんだろうな? まあ、全く理解できない謎材質のよく分からない形の集まりとかよりはわかりやすくていいけどさ。


 お、あれは。

 一定スペースに区切られたシートの上に出店者らしき人が一人。なんか大規模のフリーマーケットみたいな感じだ。

 凄い数の出店数だな。これなら道具の一つや二つすぐに見つかりそうだ。早速、覗いてみるかね。




 ……。

 駄目だ、全然見つからん。そもそも売り物はどこにあるんだ?どこに行ってもシートと店主しか見当たらないんだが。


「そこの初期装備のお兄さん」


 これまた、綺麗な人だね。俺の外見がほぼ俺ベースってことを考えると、こんなに綺麗な人がこの世のどこかにいるってことか。うーん、世界は広いね。

 まあ、それ以上にやり手って感じのオーラが半端ないが。ちょっと切れ長の目と高めの身長と相まって、何とも言えない迫力だね。


「ちょっと、聞こえていないの? 初期装備のお兄さん」


 おっと、不味い不味い。これだけ直視したんだし、何か返事をしないと。


「私ですか?」


「そうそう。何か困ってそうだけど、どうかしたの?」


「それがですね、ここで何かを売っているようなのですが、商品が見当たらなくて困っていたのです」


「ん? 商品ならそこの看板を見てくれればメニューが開くよ」


 なんと、そんなシステムなのか。


 どれどれ。

 お、ほんとだ。メニューが開いた。


「お兄さん、もしかしてソロの初心者さん?」


 !?


「いや、なんでわかる!みたいな顔されても」


 初心者とわかって声をかけてきた!?

 これがセリスさんが言っていた、気を付けるべきプレイヤーか!


「そんな警戒しないでよ。その装備にバザーの使い方をしらないってだけで、だいたい察しがつくだけよ」


 む、そういえば最初に初期装備と言っていたな。


「それにね。そんな初期装備の人騙すつもりなんかないわよ。あなた騙されて散財する程お金持ってる?」


 無いな!

 一文無しだ。それどころかこの世界の通貨も知らん。


「あらら、本当にお金持ってないのね」


 な!

 俺の心を読んだ!?


「読んでないわよ。あなたが分かりやすすぎるだけ」


 うーむ。ゲームの中なのに心理描写が読めるほど表情に出るのか。気を付けないとな。


「それで私の予想は当たってるかしら?」


「当たっています。右も左もわからない無一文ですね」


「でしょうね。少しでもお金があるなら、その装備の一か所くらいは買い替えていそうだものね」


 そもそも買い替える場所もなかったからなぁ。といっても、あの魔獣達相手に装備を変えたところで意味があるとも思えないけど。


「それで、何を探していたのかしら?」


「製図用の道具やノミ、鉋等ですね」


「あら、あなたもメイカーなの?」


「メイカー?」


「ええとね。私みたいに防具を作ったり、他には武器だったり、薬だったり、ようはモノづくりを楽しむ人たちの総称よ」


 うーん、俺はちがうんだが……説明するのも面倒だしな。適当に濁しておこう。


「そんな感じです」


「……」


 視線が痛い。これ確実に信用されてないな。


「まあ、いいわ。あまり人を詮索するのはマナー違反だしね」


 助かった……。

 しかしこの人、何者だ? いくら何でも鋭すぎるだろ。


「それでお探しの物のあてはあるのかしら?」


 あて? そんなものあるわけがない!


「はあ、その顔はどうやらなさそうね」


「はい」


「あなたね、これだけの膨大な出店者から一軒一軒確認して探すつもり?」


「それしかないかなと」


「もうすぐレイドバトルが始まるのに?」


「それはもう仕方がないかなと」


 カロさん達の道具が手にはいれば、街は多少なりとも発展できるからな。レイドバトルは今回はおまけみたいなもんだ。


「ちょっとここ来て座りなさい」


 ええ!?


「グズグズしない!」


「はい!」


「なんで膝崩してるのよ」


 ええ!?

 正座ですか?


「何!」


 ですよねー、やっぱ正座ですよねー。


「いい? ここは確かにゲームの世界よ。でもね楽しめることは、やっぱり全力楽しむべきだと私は思うのよ!」


 お、お説教が始まってしまった。これはまずいお方につかまってしまったような……。なんとかして抜け出さないと。


「ちょっと聞いてるの!」


「は、はい!」


「だからね、私は思うのよ!」


 えーと、どうしようかな?

 周りの人たちに助けを……駄目だな。目を逸らされる。


「ちょっと、ちゃんと聞いてる?」


「はい!」


 これはもうあれだな、あきらめるしないな。人生諦めが肝心な時もある。


 今この瞬間がその時だ!

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