第8話 海と溺死と本能と

「おかえりなさいませ、市長」


 うーん、ソフィアさん強いわ、パワーも速度も尋常じゃない。あれを避け続けて説得かぁ。


 できるのか?


「市長?」


 いや、やるしかないのか。


「市長?」


「っと失礼しました。何かありましたか、セリスさん」


「ソフィアさんが帰ってきました」


「は?」


「御屋形様ー」


「おぶっ」


 く、これは!?柔らかい海が!


 って、それどころじゃないな。


 あれ、離れない。ちょ、なんか苦しくなってきた。ゲームなのに呼吸とかもちゃんとあるのか。


「ちょ、おぼ、ソフィ、おぶ」


 まずい!

 マジで苦しい。柔らかい海、息継ぎできない!


「そ、ソ、もごごご」


 い、意識が……。

 ……と……。

 ……。




「おかえりなさいませ、市長」


 まさかの溺死。まあ、あの海なら本望だな、っとそんなことより。


「ソフィアさん!」


「御屋形様ー!」


「あぐっ」


 こ、今度は鯖折りか。だが、これなら話はできる。


「ソ、ソフィアさん、大丈夫でしたか?」


「何がでござるか?」


「いえ、なにか普通ではない状態に見えましたので」


「?」


 なんだ? 記憶がないのか?


「ああ! あれは拙者の狩りでござるよ」


「は?」


 狩り?

 狩りって言うのか、あれ。只の虐殺にしか見えなかったんだが。


「拙者、獲物を探すのが下手くそでござって」


「はあ」


「なんとか楽にならないかと願っていたら、獲物を酔わせて引き付ける赤いオーラが出せるようになっていたでござる」


 は?

 そういうのって、願ったらもらえるものなの?


「ですが無差別攻撃みたいになっていましたが」


「あの赤いオーラ、獲物を酔わせるだけでなく、拙者も酔ってしまうでござる」


 この世界、馬鹿なの? 明らかにソフィアさんに渡しちゃいけない力だろ。

 はあ、突っ込む相手もいないしな。持ってしまったものはしょうがない。一種の災害だと思って、対策を考えるのみだ。


「それで、あの状態はなぜ収まったのですか?」


「周囲の獲物を狩り尽くすと収まるでござる」


 は?


「なるほど」


 なるほどって。

 住人愛とか、心の叫びとか関係ないじゃん。セリスさん、適当なこと言ってたのかよ。


「市長」


「なんでしょうか?」


「ドロップアイテムを回収されたほうがよろしいかと」


「ああ、そうですね。ちなみにセリスさんやソフィアさんに手伝っていただくことは可能でしょうか?」


 かなり量が多そうなんだよね。


「市長のアイテム欄の設定を開いて、回収を共有にしていただければ」


「そんなことができるんですね」


 アイテム欄をひらいて、設定、設定……。お、あったあった。回収の他に使用も共有できるのか。


 ……。


 取りあえず、回収だけだな。あとは対象キャラクターにチェックで、終了。


「使うことは許してくださらないのですか?」


 ち、見られてたか。というかアイテム欄、周りから丸見えすぎるだろ。なんとかならないのか?


「市長は私たちを信用されていないと」


「いや、そんなことは」


 あるよ。

 なにするかわからないソフィアさんに、なに考えてるかわからないセリスさん。どう考えても不安しかないから。


「ソフィアさん、どうやら私達は市長から信頼されていないようです」


「なんと!? それは寂しいでござる」


 卑怯だ!

 ソフィアさんの耳と尻尾が、しゅんとしょげるのは卑怯だ!

 そして、明らかにそれを煽ったセリスさん。表情は変わらないのに、変わらないが!放つ気配が、してやったりって感じだ。


 くそ、全然信用できねえ!


「御屋形様」


 く、仔犬のような純真な目で!だけどソフィアさん!あなた今さっき、俺をあっさり死に戻りさせたばかりですからね?


「御屋形様」


 体を寄せて上目遣いきたー!これわかってやってるのか?


 く、ま、負けるか!


「御屋形様」


 負け、まけ、ま、ああああああ!


「わかりましたよ、お二人とも無駄遣いはしないでくださいよ」


「ありがとうございます、市長」


「御屋形様ー!」


「おぶ」


 はあ、これは無理だろ。少なくとも、今の俺に勝つ術はない。


「さて、それではドロップアイテムの回収に向かいましょう」




 あれ?


「セリスさん?」


「私は戦闘力が皆無ですので、領地から出るのは控えます」


 たしかに、領地の外は危険過ぎる。ただ戦闘力皆無の俺は貴女に送り出し続けられたけどな。


「わかりました。それではソフィアさんと二人で行ってきます」


「申し訳ありません」


「いえいえ、得手不得手は誰にでもありますし。セリスさんには他の部分で助けてもらってますから」


「そう言っていただくと助かります」


「ではいってきますね」


「いってらっしゃいませ、市長」




 うん、まあ、こうなってるよね。ドロップアイテムで地面が見えないとかもう何て言っていいかわからないよ。これ、アイテム欄に入りきるのか?


「ソフィアさん、急いで拾ってしまいましょう」


「承知したでござる」


 これだけあると、ものを確認するだけで一作業だな。


「御屋形様、セリス殿は?」


「セリスさんは戦闘が出来ないそうなので、留守番をお願いしました」


「戦闘ができない? セリス殿が? はて?」


 ん?


「まあ、御屋形様がそう言うなら、そうなのでござろう」


「ソフィアさん、何かありましたか?」


「いや、なんでもないでござる」


 なんだったんだ?っとそれよりもアイテム回収だ。




 終わった、拾いきった。しかしアイテム欄、どれだけアイテムが入るんだこれ?


「セリスさん、戻りました」


「戻ったでござる」


「おかえりなさいませ、市長、ソフィアさん」


「流石に疲れました。少し休もうかと思うのですが」


「では、こちらのベッドをお使いください」


 ベッド? どこにそんなものが?


「こちらのベッドをお使いください」


「いや、ベッドなんてありませんが?」


「よく見て触ってください」


 さわる? この辺か?


 !?


【簡易ベッド】


 本当にベッドだ。どっからどうみても床だけど。


「どうぞ、そちらでお休みください」


 もうなんでもいいや。とにかく少し横になろう。


「それでは失礼して、少し横にならせていただきます」


「お疲れさまでした、市長。ゆっくりとお休みください」


 ……。

 …………。


 《ログアウトされますか?》


 これだったのかよ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る