第7話 愛があれば大丈夫

「おかえりなさいませ、市長」


 ふう、ひどい目にあった。まさか助っ人が助けに来ないとは。


「お早いお帰りでしたね」


「セリスさん、ソフィアさんの移動範囲に制限が有るようなのですが」


「そうですね」


「知っていたのですか?」


「ええ、魔獣転生で生まれた住人が領地外に出られるのは、領地の範囲の半分ほどです」


 ということは。今の領地の直径が100m程だから、だいたい50mくらいか。


「こういう大事なことは早めに教えて下さい」


「聞かれませんでしたので」


「確かにそうですが……。お陰でひどい目にあいましたよ」


「ぶふっ。以後気を付けます」


 笑った?今のは笑ったよな?


「なにか?」


 うーん。気のせいか? まあ、これだけ良くできたAIなんだ、笑うくらいは普通か。


「それで市長、ソフィアさんはどうされたのですか?」


「ソフィアさん、戻っていないのですか?」


「ええ」


「ということは、ソフィアさんだけまだあそこに!?」


 まずい。ソフィアさんがいくら強いとはいえ!


「いってらっしゃいませ、市長」


「いってきま、あぶな!?」


 なにか飛んできた?


「なんじゃこるゃあああ!?」


 さっきの石の巨人の頭部じゃないか。


 ソフィアさん、岩の上で何をしてらっしゃるのでしょうかね?なんか、大量の魔獣が集まって来ているのですが。

 なるほど、その中心で次々と魔獣を引きちぎるんですね。うんうん、破壊の化神は伊達じゃないですね。


「あぁぁぁあああああ!!!」


 な、なんかソフィアさんの体から赤いオーラが出てるし。あきらかに、なんか不味いやつですよねそれ? ほら目の色も真っ赤ですし。


「殺!」


 殺ってもう、言葉が物騒過ぎる!

 そして俺が手も足もでなかった、魔獣達がプリンみたいにサクサク狩られていくんですが。


「市長、頑張ってください!」


「え? 私ですか?」


「勿論ですよ。市長の為にあんなに頑張っている、健気なソフィアさんを救ってあげてください」


 頑張ってる?

 頑張ってるって言うのかあれ? 楽し過ぎて周り見えてない感じだろ。


「いや、でも多分私の事を認識していませんよ?」


「そんなことはありません。少々我を失っているだけです」


「少々!?」


「ほら聞こえませんか? ソフィアさんの心の叫びが!」


「ぐるぁぁぁあああああ!!!」


「明らかにヤバい咆哮しか聞こえませんよ」


「大丈夫ですよ、愛があれば」


「愛?」


「そうですよ。市長の街の住人ですよ! 市長の住人愛があれば、住人の暴走なんて!」


 完全に感情論だと思うんだが。いや、もしかすると忠誠値とか愛情値みたいな、そういうパラメーターもあるのか?


「わかったよ、セリスさん」


「はい。逝ってらっしゃいませ、市長」




 完全に本能のままに楽しんでるようにしか見えないんだが。

 いや、そんなことはない!なにかなにかあるはずなんだ!


「ソフィアさん!」


 ……。


 殺戮の手が一ミリも止まらないぞ、これ全然聞こえて無いんじゃないのか?


 ……。


 いや、そんな事はない。俺の魂の叫びは聞こるはずだ!多分!


「ソフィアさん!」


 これはあれか? 領地の中からじゃダメなのか?


 なら!


 いやいやいや。無理無理無理。

 あんだけ魔獣が集まってるところに、出てくとか無理。領地から出た瞬間、死に戻りだ。


 どうする?


 考えろ、考えろ、考えろ!

 魔獣はみんなソフィアさんに集まってる。なら、これはソフィアさんの何らかの能力で、ソフィアさんしか認識していないのでは?


 ということはもしかして、俺が外に出ても気付かない?


 とにかく実験だ、失敗しても死に戻りするだけだしな。

 領地の外に、そーっと、そーっと……だれもこちらを気にしないな。


 よし、いける!いけるぞ!

 あとはソフィアさんに話しかけるだけだ!


「ソフィアさん!」


 お、耳がピクついた。これは脈ありだ。


「ソフ、あぶなっ!」


 あんなでかい牛?に轢かれたら即死ものだ。魔獣が俺に気づいていなくても、結局俺の命は危険なままかよ。


 だが! ここで挫けるわけにはいかない!


「負けてられるかー!」




「おかえりなさいませ、市長」


 あともう少しだったんだけどなぁ。

 牛と熊はかわせたが、さすがに竜は無理だったか。あいつデカすぎるだろ!


「逝ってらっしゃいませ、市長」




 くそ、魔獣の種類が変わってる。さっきの牛と熊と竜はもう殺られたのか。ってかソフィアさんたどんだけやるんだ? 地面がドロップアイテムで埋まってるぞおい。


 だが! 俺はなんとしてもたどり着いてみせる!




「おかえりなさいませ、市長」


 あれはない、あれはないわー。

 空から来て、人を掴んで落とすとか。しかも命中してないし、全然関係ないとこに落とされるし。

 頭から岩にあたって首がグキってなったわ!


 デカい鳥のノーコン魔獣め!

 俺、落下損じゃん。


 だが、次こそは!


「逝ってらっしゃいませ、市長」




 そういえば死に戻りは一定時間の能力低下だよな?生き返る度に直ぐ行動してるが、魔獣の動きがどんどん見えるようになってるんだが。

 もしかして、低下する能力より、上昇してる能力のほうが大きいってことか?

 なら、能力低下が解消されてからのほうが。


 いや、違う!


 ソフィアさんがあそこで待っているんだ! 一刻も早く彼女のもとへ!


 ほとんどの魔獣の動きが見える。色が変わっても、かわせる。

 視界の外からの接近も感じられる! 凄い凄いぞ俺、伊達に殺されまくった訳じゃないってことか。

 牛も熊も竜も鳥も巨人も。見える、見えるぞ、私にも魔獣の動きが見える!


 いける、いけるぞ!

 あははははははは!

 無駄無駄無駄!




 はあ、はあ、はあ。

 ひたすらかわすってのは駄目だな。無駄に疲れる。あと無駄にテンションあげたのも不味かった。精神的にも疲れてきた。


 だが!


 やっとだ。やっと、たどり着いた。

 岩につまずき、ドロップアイテムにつまずき、数多の魔獣の妨害され、それでもここまでたどり着いた!


「ソフィアさん! もう大丈ぶぉう!!」


 あ、危なかった。なんて速さの右フックだよ。熊とか竜の突撃なんてなんて目じゃないぞ。

 だがかわせない訳じゃない!


「ソフィあさわぁほう」


 今度は左ストレート、くそ、これ本当に話聞こえてるのか?

 ソフィアさんの目が獲物を狙うそれにしか、見えないんだが!適当なこと言ってるんじゃないだろうな、セリスさん。


「ソうおぅ!!」


 右アッパー!

 だが、当たらなければどうということはない。こうなりゃ持久戦だ!


「ぐるぁぁぁあああああ!」


 ひいいいい!

 当たらないけど、当たらないけど……怖ええよ。あまりの怖さで100年の住民愛も裸足で逃げていきそうだ。

 いや、俺の住民愛はこんなことでは挫けない!諦めたらそこで試合終了だって誰かも言っていた!



 はあ、はあ、はあ。

 持久戦になってるのか、これ?ソフィアさんに全く疲れが見えないんだが。


 止まった?

 赤いオーラも消えた?

 元に戻ったのか?


 ……。

 違うっぽいな。なんだこれ、大気が震えてる。周囲の魔獣もいなくなった。

 いや、逃げ出したのか?


「ソフィ」


 !?

 消えっ?


「おぶぇー!」

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