第6話 ソフィアと特訓

 破壊の化神とか大丈夫なのか?

 いや、住人(破壊の化神)とか大丈夫なわけがない。


「御屋形様、狩りに向かうでござる!」


「狩りですか」


「狩りでござる。拙者の本能がささやくでござる」


「本能?」


「でござる」


「ちなみになんと囁いているのですか?」


「殺れと」


 怖えよ。何よりもその目がやべえよ。なんで急に赤くなるんですか?


「というわけで、早く行くのでござる」


 どういうわけかは知らないが、どうやら逃げられないようだ。

 普段なら腕ぎゅ!胸むにゅなんて嬉しい限りなのに。これっぽちもうれしくないのはソフィアさんの醸し出す雰囲気の所為かな?


「早く行くでござる」


 死とか殺って空気、全開なんだよね。


「わかりました。ただ私はものすごく弱いですよ」


「大丈夫でござる!」


 大丈夫、大丈夫かぁ。

 でもなぁ、大丈夫と言っている人に一番不安を感じるんだよ。全く大丈夫じゃないって俺の勘がささやいてるんだよ。

 でもまあ、どうにもならなさそうだ。なんせソフィアさんの目が半分いきかけてるし。NOという選択肢はないんだろうなぁ。


 っと、そう言えばセリスさんに聞きたいことがあったんだ。


「セリスさん、教えていただきたいことが」


「なんでしょうか?」


「この世界は強くなる概念というか制度は、どうなっているのでしょうか?」


「といいますと?」


「簡単に言うとレベルと経験値のようなものがあるのでしょうか?」


「?」


 あれ?通じていない?

 ということはレベルといった概念はないのか?


「えーと、強くなる為にはどうしたらよいのですか?」


「鍛えるしかありませんね」


「?」


 鍛える?ゲーム内で筋トレでもすればいいのか?


「ふむ、御屋形様は強くなりたいでごさるか?」


「それは弱いよりは強いほうが良いですから」


「では特訓でござる」


「ちなみにその特訓とは?」


「魔獣との戦いでござる」


 経験値もレベルもないのに?


「ソフィアさん、申し訳ありません。その魔獣との戦いでどのように強くなるのですか?」


「戦っていれば戦う為の力がつく。そして魔獣を倒せば倒すほど器が広がるでござる」


 戦う為の力。使った能力に経験値のようなものが貯まるのか?器っていうのは能力の限界値みたいなものでいいのかな?


「補足しますと、戦闘行為以外の様々な行動も能力上昇の対象になります」


「なるほど。では重いものを持ち上げ続ければ力が強くなると」


「そこまで単純ではありません。例えば重いものを持つにしても、使っているのは筋力だけではありませんから」


「?」


「重いものを持ったときに使うのは、筋力だけではありません。体勢を安定させる感覚やどこをどう持つかの判断等々、意識していない様々な作業が存在しています」


「それら全ての能力に影響がでると」


「そういうことです」


 なかなか複雑なステータスシステムだな。数字で見られると分かりやすそうなんだが。もしかすると項目が多過ぎるせいで、数値化されていないのかもな。


「それと器に関してですが、これはやはり強い魔獣を倒すほど大きくなりやすいそうです」


「ということは?」


「ソフィアさんを倒された市長は、なら既にかなりのものになっているかと」


 ポテンシャルが凄まじいが、能力は雑魚ということか。例え今は雑魚でも可能性があるなら、気分的には嬉しいけど。


「という訳で魔獣相手に特訓でござる」


「わかりました。ですが今のセリスさんのお話だと、魔獣相手でなくとも体を鍛えられるのでは?」


 というかこの辺の魔獣とか無理だよ。

 スプーンも失くなったし。


「? よくわからないでごさる。さあ、御屋形様、魔獣と特訓でごさる」


「いや、え?」


「拙者、戦い続ける以外の強くなる方法は知らないでござる」


「いや、だから、セリスさんが言っていたようにですね」


「よくわからないでごさる。大丈夫でござるよ」


「いや、「さあ、特訓でござる」」


 くそ、力強えええ。全く抵抗できない。


「セリスさん!」


「いってらっしゃいませ、市長」


 いつも綺麗な笑顔ですね。リアルで言ってもらえたら最高です。そして今ほしいのはそのセリフではありません。


「さあ、特訓でごさる!」




 ああ、あっという間にフィールドに。しょうがない、諦めも肝心だ。


「ソフィアさん、特訓は構わないのですが。私ではこの辺一帯の魔獣相手に歯が立ちませんよ」


「危なくなったら、拙者が助けに入るので大丈夫でござるよ」


 おお、やっと戦闘の助っ人が。これでまともに戦闘ができそうだな。


「まずは御屋形様が自分で獲物を探すでござる」


 俺の特訓だし当然だな。

 ……当然なのか?まあ。いいや。


 獲物、獲物っと。草木もなくて殺風景なのに、岩が多くて見晴らしはそんなによくないんだよな。

 この土地を開拓かぁ。地面が固くて歩きやすいのはいいんだけど、これを畑にするとかできるのか?まあ、ゲームだしその辺はちょいちょいっといけるのかね?

 まあ、それも今の小屋一軒から発展できてからのことだしな。まずは狩の相手だ。


 いた、石の巨人。あの時のリベンジだ。素手しかないが、大丈夫だ。今度はソフィアさんもいる!


「このやろー!」


 お、前に殴った時より痛くない。素手で色々殴った成果がでてるのか?

 巨人の拳も見える!見えるぞ!


「わははははは、当たらなければどうということも無い!」


 行ける。これは行ける!って、なにかしている?

 巨人が緑の光に包まれた……だが、色が変わったくらいで!


「わははははっびう」


 な、急に、拳が見えなくなった。速度が上がったのか?


「うぶぇい!」


 く、だが以前よりは耐えられる。もう限界だけど。だがしかし、こっちには最終兵器が!


「ソフィアさん!」


 ……。


 あれ?


「ソフィアさん!?」


「御屋形様、拙者ここから前に進めないようでござる!」


 は?いやいや、ござるじゃないですよ。


「でも大丈夫でござるよ!」


 なにか秘策が!?


「理由はないでござるが、多分大丈夫でござるよ!」


 くっそ、一ミリも大丈夫じゃない!

 なにか何かないのか…………だめだ、何もない!


 しまっ、拳が! 


「おぼぇ、あぶぇ、うぼふっ」


「御屋形様ーー!」

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