~放課後の告白~

かさかささん

放課後の告白

「おっぱい触らせて下さい!」



 ――放課後の教室。


 わざわざ放課後の誰も居ない教室に呼び出された女子生徒。一年の時から同じクラスの、ちょっと気になる男子に呼び出された女子生徒。


 一体何の用だろうか。もしかしてだけど、愛の告白でもしてくるのではないかなんて妄想は冒頭で阻まれた。


「あっ、急にゴメン。でもさ、俺達もう一年経つだろ。そろそろおっぱい触ってもいいかナって」


「いやいや、それって付き合ってる相手に言う言葉だよね。私とは一年の時から同じクラスってだけだよね。付き合って一年みたいな言い方は違うよね」


 呆れる女子生徒。しかしめげない男子生徒。


「あいわかった。じゃあパンツ見せてくれるだけで良いから」


「君は一体何を理解したの? しかもちょっと妥協案を出して納得させようとしても説得力皆無だからね」


 生ゴミを見るような目で男を見つめる女子生徒に対し、ここで引いては男が廃ると言わんばかりに粘る男子生徒。


「あー全くもーしょうがないなー、それじゃあメガネかけてくれるだけで我慢するからさー」


「何で私がちょっとワガママ聞いてやる感じで言われて……ん?」


 メガネ。


 おっぱいやパンツは男子にとって分かりやすい欲望。性欲の象徴のような代物に対し、男子生徒は何故メガネを要求してきたのか気になって言葉が途切れた。


「えっ、メガネ?」


 女子生徒が聞き返すと、男子生徒は大きく頷いた。


「まぁメガネかけるだけなら……」


 男が周到に用意してきたメガネを手渡され、それをかけようとした時にふと違和感を覚えた。


「ん……でもこれって」


 ドア・イン・ザ・フェイス。


 段階的に要求を下げることで、断った罪悪感から相手の承認を得る話術。そして、そもそもの要求が断られる前提の物だとしたら……。


 女子生徒はメガネをかける寸前で、男子生徒に聞き返した。


「ねぇ、メガネをかける代わりにパンツを見せるって言ったらどうする?」


「ええっ!?」


 男子生徒は驚いた。あと一息でメガネをかけてもらえる所まで来ていたのに、それを寸止めされたからだ。


「いいい、いやぁメガネかけてくれるだけで良いよ」


「ふーん、じゃあおっぱい触るのとメガネかけるのだったらどっちが良いの?」


 おっぱいを突き出すように胸を張る女子生徒。しかし、男子生徒の視線はおっぱいではなく、女子生徒の目元に届かなかったメガネを追っていた。


「あの……その……」


 間違いない。


 この男子生徒は、そもそもおっぱいやパンツには興味が無かった。真性のメガネフェチだった。元々断られるつもりで要求をして確実にメガネをかけさせようとしていたが、おっぱいやパンツからのメガネ。そもそも要求する方向性が異なり過ぎていた。


「へぇ、おっぱいやパンツよりもメガネに興奮するんだ?」


「あっ、あっ」


 羞恥心。


 おっぱいを触らせて欲しいと頼む事よりも、自分の本当の性癖を人に知られる事の方が何倍も恥ずかしかった。


「じゃあ私がクラスの……ううん、学校中のメガネをかけてる女の子に忠告してあげなきゃ。メガネかけてたら、メガネ好きの君に欲情されるよって。そう伝えたら明日から女子は誰もメガネかけてこなくなるだろうね」


「うっ、うわぁああああああああ!」


 学校中の女子全員がメガネをかけない世界を想像した男子生徒は絶望した。


「ごめんなさい。どうかこの事は秘密でお願いします!」


 男子生徒が謝罪する。心から謝罪する。頭を下げて謝罪する。


「……ま、別に良いよ。その代わり、私の秘密も守ってくれたらだけどね」


 女子生徒の言葉を聞いた男子生徒が、頭を上げたその時だった――。



 チュッ。



 口付け。接吻。俗に言うKISSと言うやつだ。


 不意に男子生徒に対してそれを行った女子生徒の顔には、男子生徒が夢にまで見たメガネが装着されていた。


「今のは……二人だけの秘密だからね」

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