各学年が進級するには進級テストでの満点が必要で、当然ながら不合格者もいる。


 しかし再テストもあるため、多くは補習の後、順当に上がっていくらしい。


 その補習内容はプログラムのバグ取りに似て、覚えなおすのではなく、間違えて覚えてしまったものを正しく治す、ただの確認作業だった。


 ただし情報量は膨大だ。


 試しに最も基礎的な最初の授業の内容を、石で作った紙に印刷してもらったところ、辞書ができた。


 彼らはこれを一時間足らずで暗記する。地球人には届かない領域の記憶力だった。


 なので早々に諦め、教室の一番前で子供たちを見守りながら教師とお喋りする。


 内容は地球での教育、どこに問題があるかの洗い出しだった。


 そんな中、一番食いついたのが、自由研究だった。


「……つまり、研究を再確認するんですか?」


「少し違いますね。学ぶのは、知らないものに対してどのように対応するか、ですかね」


「対応、ですか」


「そうです。全く予期してなかった問題に自力で対応し、何とかするための方法を学ぶのです」


「はぁ」


 また何か、無知が間違ったことを言っている、そんな反応だ。


「……正直、あなたたちは記憶力はずば抜けてますが、逆に想像力や応用力が劣ってるように思えます。初めての問題に出くわすと、どうしていいかわからずに固まるんです」


「そんなのないですよ」


「なら、実践してみますか?」


 チラリと見ると生徒の一人が、手を止めてこちらを見ていた。


「すみませんが、こちらが合図するまで耳を塞いで聞こえないようにしてもらえますか?」


 生徒はすぐに耳を塞いだ。


「地球では、木の枝をわざと折るんです」


 途端に震え出す教師、それと生徒たち。


「地球では環境が酷すぎて木は予備として必要以上の枝を生やします。結果、大丈夫な状態でも無駄が多く、栄養不足になってしまう。それを解消するために不必要な枝を選んで切ってあげるのです。彼らのための処置なのです」


 ……震えが収まった。


 彼らの脅威は規則正しい天災だけ、悪意ある外敵がいない。


 だから騙されたり隠れられたりといった経験がなく、それに対応する想像力が育たず、瞬間的に対応しなければならない状況、悪意に触れた時に考えがまとまらずに固まるのだろう。


 この現象、彼らは知らなかったことらしく、耳を塞いでいた子が大いに驚いていた。


「恐らくですがこれが探検で全滅する要因なんじゃないかと」


 初めて勝った気分だった。


 そして、これがヒントとなった。

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