子
自分が天才だとは思っていないが、それでも国立大卒、馬鹿ではないつもりだ。
それなのに彼らのいうことがわからないのだ。
使われている単語は普通のもの、通訳装置も正常に働いているらしい。だけどもそれらをつなぐ間がすっぽり抜け落ちていて、彼らにとってわざわざ言わなくても通じることがこちらには通じないのだ。
彼らは賢すぎて、こちらが何を理解できてないのか理解されない。
その差は、盲目の相手に色の説明をしているような絶対の隔たりがあるのだろう。
それでもわかること、まず金融や銀行のようなシステムがない。というか通貨がない。完全な社会主義、全てのサービスはただで利用でき、欲しいと言えば何でも燃えら得る。
犯罪などへの監視もない。ミスがないか外部からのダブルチェックは存在するがただの形式でしかなく、不正を行うと言う発想自体が存在しない。
なので警察も軍も警備員もいないのだが、レスキュー隊や探検隊は存在している。なので勇気がないわけではないが、肉体的な強さがなくても成り立つため、専門のトレーニングはしてないようだった。
そこまで高度にもかかわらず、病院も存在し、診療、治療、投薬、手術、そして検死も行っており、死体が怖いわけではないらしい。
宗教も存在しており、輪廻転生を基本とし、だけども神という疑似人格はないもので、深く聞くと何故か次元の話になってわけわからなくなる。ただ墓はあっても寺院や聖域などはなく、聖職者もいなかった。
芸術やエンターテイメントはほぼない。小説、演劇、音楽もない。彼らの娯楽は勉学だけだった。
だから当然、学校も存在した。
ただし全部が同一規格、入試はなく、進級試験だけがある。学部学科の区別なく全部学ぶから専門知識が存在しない。
小さな彼らが並ぶ教室、白くて丸い椅子に机に、正面には立体映像な黒板、この雰囲気は地球のと同じだった。
その列の一番後ろに入れてもらった。
最年少のクラス、もうすぐ学年が上がるらしいが、それでも何も知らない身ならばちょうどいいんだろう。
「それでは、ゲストもいますがいつも通り、計算ドリルから始めますね」
フォン、と目の前に立体映像が出る。
並ぶ文字、読める文字だった。
そして問題は、ナブラ演算子だった。
基底を微分して相手を0次元にする、アレだ。
それが百マス計算の要領で並んでいた。
周りはそれを暗算でザクザク解いていた。
…………ここで理解できるのは、ここまでだった。
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