高い知能の彼らでも、他の星の生物と出くわせたのは地球人が初めてらしい。


 広い宇宙、多くの惑星を探検していたが、大抵は全滅、返ってこれても生物は見つけられなかったらしい。


 そんな彼らにとって、やはり地球人は特別な存在らしく、積極的に色々と教えようとあちこちへ連れましてくれた。


 発電所、病院、工場、研究所、ワープ一つで飛び回る社会科見学は、どこもやうやうしくで迎えてくれて、教えた握手をこの上ない大事な儀式としてたっぷりと繰り返した。


 ただ、そこから先は何を言ってるか全然わからなかった。


 部屋も、全部同じ白にしか見えない。


 そこへ何処かからビームが出てきて、何かやって、物が出たり浮いたり変化したり回ったり、なんかする。それらの違いに事細かく何度でも説明してくれるのだが、これがさっぱりだった。


 それでもこちらは興味があることを示すため、質問をひねり出す。


「あーーえっと」


 出てきたのは、素朴だが大事な疑問だった。


「どこにも窓がないみたいで、ひょっとして全部地下何ですか?」


 監禁されてたり? とは言えなかった。


「あぁ、ここは地上五千七階です。窓は安全のために今は塞いでます」


「安全?」


「今は糸風の季節で、で通じますかね」


 初めてわからない単語が出てきた。


「わからないです」


「近くの火山から、溶けた重金属が穴だらけの岩から噴き出すんです。それが空気で冷えてあなたの髪より細い糸に固まって、風に乗って飛んでくるんですよ。これが鋭くて、首とか飛ぶのでこうして籠るようにしてるんです」


 想像よりえらいことになっていた。


「それは、大変な時に来てしまって」


「いえいえ、後でその糸お見せしますよ。私たちの最初に手にした衣服なのです。それに最低気温もいって七十度に届きませんし、放射線も低いですし、何より重力が一定ですから」


 ……さりげなく凄いこと言っている。


「実に過ごしやすい環境ですよ」


「はい?」


「だってそうでしょ? 私どもの探検隊は、多くの惑星に探検に出てますが、その奥は悲しいことにほとんど全滅してしまうぐらいに虚弱でして、あなたの惑星だって、生きて帰れたのは貴方の国へ向かった隊だけです。それも十分の一しか残ってなくて、いやはや、我々は弱いですね」


 ……なんて答えるべきかはわからなかったが、真実は言うべきじゃないとはわかった。


「地球って、どんなところなんですか?」


 ……質問に、少し迷って、思い切って地球を地獄にした。

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