家
彼らのテクノロジーの高さに驚かされる。
わかりやすいのが光だ。
それらしい光源もないのにどこでも明るい。それどころか影がないのだ。試しに、両手で穴を作り中を覗くと、そこにも影はなく、指紋までくっきりと見えた。
最早光自体が別のものでないと説明がつかない現象、聞きたいのだが、蚊の葬儀でそれどころではなかった。
誰も彼もがあの小さな事故被害者に哀悼の意を示し、片っ端から慰めの言葉をくれて、優しく抱きしめられもした。
そして蚊とはどのような生物なのか、嘘をつき続けるだけの、じれったい日々が続いていた。
そんな彼らに用意してもらった部屋は、角のない暖色だった。
椅子、机、ベット、全てが丸みを帯びていて、暖かな色合い、触れるとほんのりと温かい。
トイレは思ったより普通、ただし出したものは見る前にどこぞへと消える。
風呂はなんか光を浴びるだけ、五秒もかからずすっきりだった。
そんな部屋の中で、一番すごいのはドアだった。
薄い青色の壁、そこに近づくと消えるのだ。
上でも横でもスライドするのではなく、パッと、音もなく消える。原理が全く分からない、これは魔法だった。
不思議で不思議で何度も丸めた靴下を投げつけて、気が付けばずっと消える瞬間を観察し続けていた。
「あ、あの?」
そこを見られた。
「あ、いや、向こうの星になかったもので、つい夢中になってしまいました」
慌てて照れ隠す。
「そうなんですか? あなたの星って何にもないんですね」
そこそこの付き合いながら彼らに悪意がないのは知ってるが、それでも刺さる。
「いや―そうなんですよ」
だが実際、彼らの技術に負けてるので下手に出るしかなかった。
「しかしいい部屋ですね。他の部屋もこんななんですか?」
……返事がない。
見れば軽く震え始めてる。ちょっとした皮肉のニュアンスを嗅ぎ取られてしまったらしい。
「あ、いえ、ここの椅子とか私らの体に合わせてもらっているようだったので、わざわざ作っていただけ他のかと思いまして」
慌ててのフォローに、震えは収まった。
「あぁそれなら」
何事もなかったかのように震えが止まり、そのまま椅子へと向かう。
……すると、レンズ越しのように、歪んだ。
音もなく、伸びて、凹んで、細くなって、体が椅子にぴったりのサイズへと変貌した。
「ユニバーサルディメンジョンシステム、家具に慌てて自動で次元を調整するソフト、まさかこんな古いのもないんですか?」
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