あっさりと彼らの星に着いた。


 宇宙船はなくともワープゲートでもあるかと思ったら、指定の位置に立ってたら光に包まれて、着いてた。


 完全なSF、オーバーテクノロジー、これを理解しろとか、先が重い。


「ようこそ!」


 真っ白い空間、出迎えたのは写真通りの彼らだった。


 ピースリアン、想像よりも体は大きく、動く姿はより着ぐるみっぽい。タプタプ揺れる肌は柔らかそうで、愛らしくもある。


 写真で見たのはベージュ一色だったが、目の前に進み出たのは体の大部分を薄い緑色にしてある。どうやらこれは服を着た姿らしい。


 そんな彼らと友好的な関係を築く、地球代表としてのミッションだ。


「初めましてよろしくお願いします」


 渾身の笑顔を浮かべて一番近い一人へ、右手を差し出す。


「……これは?」


 あぁそうか、握手の文化も彼らは知らない宇宙人だった。


「これは失礼しました。これは握手と言いまして、お互いの手と手を握り合う挨拶です。元は転んだ相手を助け起こす動作で、そこから初めての相手と助け合いましょうという儀式の一つだと伝わっています」


 嘘だ。


 本当は互いに武器を持っていない証明として手と手を握り合うのだが、その説明では彼らはショック死する。


 後で検証が入るとはいえ、その場を誤魔化す嘘は認められていた。


「そうでしたか!」


 宇宙人でもわかる笑顔を浮かべて、差し出した手を握り返してくる。


 温かく、柔らかく、艶めかしい感触だった。


「……あの、今落ちたのって?」


 後ろに控えていた一人が、そろりとすぐ近くの床を指さした。


 白地だから目立つ粒、目を凝らしてみれば、蚊だった。


 ……立たされてる間に、叩き潰した覚えがあった。


「し、死んでるのではないですか?」


 背後の一人がそう言うや震え出し、その震えが伝染していく。


 聞いている。これは悪意に触れた彼らが、ショック死する前の反応だった。


 最初で死人は不味い。


 慌てて跪き、蚊を拾い上げ、両手で包む。


「……これは蚊という生き物で、見ての通りとても小さいので、荷物などに紛れ込んでしまう事故が多いのです。それで、出会っていきなりで申し訳ありませんが、この蚊を弔いたいのですが」


 我ながら臭い演技、だが彼らは黙祷で応えてくれた。


 ◇


 それから、星を上げた蚊の葬儀が執り行われた。


 音楽、儀式、宗教、死生観、得るものは少なくなかった。

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