第102話 ごねて自由を得る
大変申し訳ありません。
商人グレイの母親の名前を変更いたしました。
『ダリア』→『エーデル』
変更理由なのですが……最近どっかで使った名前のような気がして、数話読み返していて見つけました。『ダリア』という名前は、ララのお友達のダリアちゃんと同じでした。
グレイの母親の再登場の可能性は全くないので、ララのお友達の方に『ダリア』という名前を使いたいと思います。
修正はしたものの、残っているのを見つけたらお知らせくださるとありがたいです。
極力数回しか登場しないであろう人物名や地名は出さないように書いているのですが、会話内で言わないと違和感の出る場面ではね……。
夏休みに実家に帰った時に、お姉ちゃんとお兄ちゃん(次男)の名前を出さずに書けないかなぁ~
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今日は朝早くから慌ただしい。
ゼノ国王とミーファたちが王都に帰るので、早めの朝食やお見送りの準備をするために使用人たちが忙しなく動いているからだ。
イリスと二人で公爵家の広い敷地内を散歩しながら、屋敷内の使用人たちを窓の外から観察していた。
『そういえばナビー、昨晩頼んでいたものは出来た?』
『♪ はい、寝ている間にアバターたちが作ってくれています。ただ、どちらも検証実験ができていないため、実際に上手くいくか、どれほどの効果があるのか分からないあたりは不安ですけど……』
『それは仕方ないよ。それにまだこれを使う機会があるのかも分かんないしね。でも、一つは出発前に部屋で実験しとこうかな――』
朝食を皆で食べた後は、俺もお屋敷の玄関の前でミーファたちのお見送りをする。
お屋敷から馬車で城壁の外にある竜専用の竜舎まで向かうため、ここでのお見送りなのだ。
ちなみにミーファが襲われた際に、竜騎士であるガイルさんが駆けつけてこなかった理由もこの辺にある。もともとこの商都に竜騎士はガイルさんも含めて3騎しかいなく、事件のあった日は運悪く2騎が王都へ出張していて不在だったらしい。距離的に騎竜の準備をして駆けつけるより、城門付近に駐留している騎士たちに騎馬で向かわせた方が早いという判断だったようだ。
それにいくら竜騎士が強いといっても、流石に公爵一人で戦地に行かせるわけにはいかないしね。
「ルーク様、お早くお戻りくださいね。学園でお待ちしております」
離れたくないオーラ全開のミーファ、可愛すぎだろ!
「うん。今日明日には全員完治すると思うので、すぐに俺もそっちに帰るよ」
「では兄上、エミリアのことよろしく頼みます。俺も領内の雑事を終えたらすぐに向かいます」
「うん、エミリアは安全に学園まで届けるから心配いらないよ。それよりなるべく早く手伝いに来てね」
『♪ ゼノはマスターへの言い掛かりを持ってきた使者たちの対応にうんざりしているようですね。信頼しているガイルにもそっちの対応をいくつか任せたいようです』
『旧カスタル侯爵領の諸問題に加え、俺案件が忙しさ増し増しにしているんだね』
あ~~マジで公爵家の領主とか成りたくねぇ~~。そのうちガイルさんのように王家の雑事をいろいろ回されそうで怖い。
『♪ マスターにそんな雑事をさせることはないでしょう。ゼノはそんな暇があるのなら子作りに励んでほしいと言うでしょうね。ゼノが美しい女性を回してくる可能性は大ですけど』
俺に回ってくるのは雑用じゃなくそっちかよ!
お見送りの後は介護娘3人を連れて診療所にしているお屋敷に向かう。グレンさんに面通しをしておくためだ。
「現在この娘たちの主は、公爵家の執事の一人に紐づけられているみたいなんだけど、それを『終身奴隷』から5年の『契約奴隷』にし、主人は俺になることになっている。で、今晩奴隷商人が公爵家に来て書き換えを行ってくれるように手配したみたいなので、悪いけどグレンにはもう一日商都に滞在してもらいたいんだ――」
この娘たちの事情を掻い摘んで話し、読み書き計算等を含めた一般教養を仕込んでほしいとお願いする。
「褒賞とのことですが、『解放』ではなく『契約奴隷』にするのはなぜでしょう?」
「解放を知った親が再度奴隷商に売る可能性もあるらしい。それをさせないために再就職が可能な知識を5年の間に付けさせたのちに解放してあげようと考えている。世間知らずな少女をお金だけ持たせて街に住まわせたとしても、よくない輩に騙されて金を巻き上げられ奴隷落ちしそうな気もするしね」
「なるほど、ごもっともな話です。では、わたくしめがこの三人を預かり、教育すれば宜しいのですね?」
「グレンが直接面倒を見る必要はないよ。どこかに家を借り、信用できる人を雇って第三者に教育してもらってもいい。ただ、俺はこの娘たちに幸せな生活を保障すると約束したので、衣食住に関してはしっかり様子見を定期的にグレンが直接行ってほしい。ある程度の教育ができたら、俺が何か仕事を割り振るようにする」
「了解いたしました。では明日の朝に公爵家にこの娘たちを迎えに行きますので、門番にその旨お伝えしておいてくださいませ」
面倒な事なのに、グレンは嫌な顔一つしないで引き受けてくれた。
* * *
ウキウキ顔のララとアンナを伴って馬車に乗り込む。イリスとララ付きの侍女も一緒だ。アンナ付きの侍女は戦闘が全くできないようで『護衛対象が増えると面倒』、『侍女は二人も居れば十分』という理由で外され、もの凄く悲しそうにしている。
『♪ 先日マスターがニーニャにハンドクリームをあげたのが侍女仲間の間で噂になっていて、ひょっとしたら自分も運が良ければ何かおこぼれが貰えるかもと密かに昨晩は期待していたようです』
『期待していたのにお留守番と分かって、あのような悲しげな顔になったんだね……ちょっと表情の変わり様が面白かったので、帰宅した際にアンナにお土産を持たせよう。ん? ニーニャ?』
『♪ はぁ~、またですか? ララ付きの侍女の名前です』
う~~ん、特徴のある可愛い名前なので、聞いたら覚えていると思うんだけど……まあいいや。
商店が集まるメイン通りの端に位置する場所で馬車を降り計画を実行する。メイン通りの端、つまり城壁のある門の入り口近くということだ。
護衛の騎士は前日と同じ人物のようで6名付いている。
「今日も護衛よろしくね」
「「「はい、お任せくださいませ!」」」
「で、なんだけど……」
俺は周囲を見渡し、ナビーが【周辺探索】の地図上にマーキングしてくれた、少し離れた場所に居る人物二名に向かって手招きをする。
二人とも俺と目が合った瞬間何食わぬ顔で視線を逸らしてその場を去ろうとしたので、大声で呼び止める。
「ちょっとそこの暗部の人~!」
去ろうとしてた人がギョッとした顔で振り返った。再度視線が合ったので、にっこり笑って手招きをする。
ナビーの調べによると、護衛に付いた暗部は2部隊7人いるらしい。ゼノさんが付けた王国直属の暗部4名、ガイルさんが雇っている私兵の者が3名だそうだ。
で、俺が手招きしている2名は、その部隊のリーダーたちだ。
手招きしてもこっちに来ないので、口を両手でメガホンのように囲って大声を出すジェスチャーを取る。二人は慌てて片手をあげ、大きな声を出すなと制止するよう駆けつけてきた。
「ルーク殿下、このようなことをされては困ります」
「…………」
駆けつけてきた暗部の一人に諭される。一人は無言で俺を見ている。
「ごめんね。でもこれからディアナに乗って街の外を遊覧飛行する予定なので、勝手に出て行くと君たちは付いてこれないで困るでしょ? 全員は乗せられないので、騎士から2名、暗部の方は国と公爵家からの2部隊かな? 各部隊から1名ずつ同行を許可するのですぐに選出して――」
「お待ちください! 本日はアンナお嬢様とララお嬢様と街の散策をなされると聞いております。勝手な行動は許されておりません!」
騎士の隊長が慌てて口をはさんでくるが、悪いけどちょっとゼノさんたちがどう反応するか知りたいのでやらかしてみる。
「許すも許さないも、なんで俺が第三者に行動を指図されなきゃいけない? 俺は国王やガイル公爵に自分の行動を制限させるつもりはないし、これからも好きにするつもりだ。さぁ、3分だけ時間をやる。俺たちの護衛に付く者をそっちで選べ。暗部の方に言っておくが、ララが怯えるような悪人面の者はダメだぞ」
さてどう出る?
騎士の6人はわたわたして「困ります」を連呼しているだけだが、暗部二人の行動は早かった。
『ルーク! 貴様またか~! 勝手な行動はするなと昨日言ったばかりだろうが!』
ガイルさん、コールにて激おこです。
『ルーク君、何やってんの? その人たちは国に命を捧げるほど職務に忠実な人なんだから、困らせたら可哀想でしょ?』
ゼノさんにもやんわりとコールにて怒られた……何気に怒鳴られるより、諭されるこっちの方が効くな~。
暗部の二人は、国王や公爵に直通できるだけの権限を持ってるんだね。
「あんたってやはり馬鹿なのね……」
「ルークお兄様……騎士の方たちに御迷惑をかけてはダメなんですよ」
うわ、黙って見ていたアンナに馬鹿にされ、ララに説教された!
「そう騒ぐでない。妾がおやつのお礼に二人を乗せてあげたいと主様にお願いしたのじゃ。それとも妾を馬鹿にしておるのかや? 妾が側に居るというのに、護衛など必要ないじゃろ」
この発言は、屋敷を出る前に『揉めたら助けてね』とディアナにお願いしていたのだ。
『ですが古竜様、急な不意打ちで数名に一斉に襲われたりしたら、流石に強大な力をお持ちのあなたさまとて皆を守るのは不可能ではありませんか?』
ゼノさんがごもっともな意見を言ってくる。
「主様たちには屋敷を出た時点で妾が【マジックシールド】を張っておる。人ごときが放つ、不意打ちの矢や魔法が効くわけがなかろう。妾のシールドを破りたければ、たっぷりと魔力を練りこんだ最上位の魔法でも撃ち込むのじゃな。まあ魔力を込めた時点で妾に気付かれ物理でプチッと返り打ちじゃ」
『黒竜様の【マジックシールド】……』
「言っておくが妾や主様を利用しようなどと考えるでないぞ。もしそのようなことをしようものなら、城に【暗黒炎】のブレスを放ってやるからの」
何そのヤバそうな名前のブレス!
なんかゴメンナサイ……諦めたように許可が出ました。
まあ、これで一つ大事な確認ができた。怒られはするが、ごねればある程度自由な行動ができる。俺にとってもの凄く大事なことだ。
門から外に出て、街道の開けた場所まで馬車で移動する。
「じゃあディアナ、これを試してみて」
キャッシュカードぐらいの大きさのミスリル製のプレートを手渡し、使い方を簡単に説明する。
「自動で着替えができる魔道具? それは便利そうじゃの」
指輪型だったものをプレート型に変えてある。何も指にはめる必要はないんだよね。これで竜サイズに大きくなったとしても【自動サイズ調整】機能は必要なくなり、服の収容量を増やすことが可能になった。使用するミスリルの量も竜サイズにしなくていいので節約できる。
「うん。ただ竜の姿に戻った時に握りつぶさないよう、手のひらの上に乗せて発動してね」
人化→竜の姿に戻る際は比較的簡単なイメージ付与で済む。プレートに付与してある【亜空間倉庫】に服だけ転移するイメージで出来るからね。
ディアナが人化を解除した瞬間に【ファッションドレッサー】が発動し、ディアナの全身が謎の光に包まれて大きな黒竜に変化する。
「「「!」」」
「うわ~! 大きいです!」
「ディアナちゃんなの?」
騎士たちは驚きの表情のまま絶句。
ララはちょっと驚いていたが、興味津々なご様子。
アンナはあまりの変わりように、ディアナにちょっとビビっているようだ。
今回は自動で鞍を装着させてみたが、上手くいったかしっかりと確認をする。
「ディアナ、背中に付けた鞍の違和感はない?」
『違和感はするが、これはどう付けても無くなるものではなかろう?』
ディアナは背中を激しく揺すって見せたが、特にズレたりゆるんだりはないようなので大丈夫そうだ。
暗部A イリス 騎士A
● ● ●
俺● ララ● アンナ● 〇
● ● ●
暗部B ニーニャ 騎士B
席順をこうし、空に飛び立った。
「うわ~~高いです♪」
「もの凄く速いわね」
どうやらララもアンナも怖がっていないようで一安心だ。
ララの楽し気な笑い声が聞けて、俺はとても良い気分になれた。
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