第96話 得られる領地の選定

 ミーファやエミリアたち三姉妹も一緒に食事を終え、得られる候補地の話になった。


「1番のお勧めだが、一番厄介でもあるのが例のミーファの件で改易した侯爵領だね――」

「ごめんなさい。『改易』の意味が分かりません」

「改易というのは、罪科などによって所領・所職・役職を取り上げることを意味するね。横領が横行していた領地なので、現在進行形でまだ沢山問題を抱えている」


「うわ~面倒そう」

「そうだね。侯爵に従って横領に加担していた配下の貴族や商人たちがまだ沢山残っているしね。一度に全員お取り潰しにしたいところだけど、それやっちゃって商人が急激に減ると食料や物資の流通が滞るし、貴族が減ると防犯面が疎かになって犯罪が多発するんだよね。結局困るのはその地に住む領民たちなので一気にやり過ぎると逆に国へ不満を持たれてしまうことになる」


「あはは、ここはパスですね」

「お待ちくださいルーク様、安易に決断して候補から外すには惜しい領地です」


 なんとエミリアから待ったが掛かった。


「そうなの?」

「はい、特産物こそありませんが、街の周囲にダンジョンが5つも有り、鉱石・肉・野菜・ダンジョン産の武器や魔道具、魔石やアクセサリーなども満遍なく手に入るダンジョンで栄えている都市なのです。うちの公爵領から馬車で南に、ゆっくり行っても3日ほどの距離で、そこに向かう街道の途中にイリスの領地も在るのですよ。他国と隣接していないのも良いところですね」


 正確にはうちのヴォルグ王国と隣接しているが、大きな山脈を隔てているので実質関係ないとナビーから念話で補足説明が入った。急げばここから馬車で二日の距離らしい。


「うちのミハエル領はガイル様の属領なのですが、ダンジョン都市から商都へ行き来する商人や冒険者からの恩恵も大きいのです。商都からダンジョン都市に向かう際は、半日の距離に在るうちは素通りされてしまいますが、向こうから商都に向かう際にはうちで宿泊されることが多いのです」


 イリスからも補足が入る。ダンジョン都市か~、自領で領主なら好きにダンジョンに行って狩りもできるな。


「ダンジョンの等級ってどんな感じ?」


 ダンジョンには等級があり、攻略難易度が冒険者ギルドによって設定されている。

 E~Sまでの6段階に設定されているが、深度はダンジョンごとに違う。


「え~と、確か鉱石が取れるダンジョンがA級、お肉や野菜はどこのダンジョンからもドロップします。B級とC級が1つずつ、E級が2つあります。そのうちのE級の1つはほぼお肉しかドロップしないそうですが、お野菜より単価が高いので人気があるようです」


「凄いなエミリア、よく勉強できているね。俺、そういうのさっぱりだよ」


『♪ 男性が怖いエミリアは、政略結婚等で自分は役に立てないと考え、将来文官として公爵家に貢献できればと考えていたようです』


『それ聞くと、エミリアの頑張りがちょっと可哀想に思えてしまうね』


 侍女を含めた女子たちがワイワイと賑やかに前侯爵領の情報を元に品定めし始めた。流石にララやディアナは退屈そうだ。



「残り2つの候補地の説明してもいいかな? 次にお勧めな候補地は王都から西、この国の一番西にある辺境伯が治める鉱山都市だよ。この国の鉱石類の需要の3割ほどを占めていて、埋蔵量は計り知れないほどあるんだ。今ある施設を利用しているだけでも5世代以上は安泰できるよ」


「うん? ここも現領主が何かやらかしたのですか?」

「いや、ここの領主は超がつくほどまじめな人で、領民からも慕われている。ただ後継者を用意しないで、数年前から『老いてきつくなってきたので引退したい』と言ってきているんだよね。「信頼できる家臣の中から養子を取ったらどうだ?」とアドバイスしたんだけど、「ここを任せられるほどの奴は配下にいない。次期領主は国で用意してほしい」って言われて、現状次の領主を選ぶまでお願いして続けてもらっているんだ」


「なんか開発も終えている施設で、掘るだけで維持できる優良物件に思えるのですが、ここも何か問題があるんですよね?」


「あはは、そうなんだよね。あの地は元々ドワーフが過去に200年ほど採掘していた鉱山らしく、もう千年以上前から放置していた場所なんだ。うちが開発し始めて領有権を主張してから180年にもなるんだけど、14年前から我が家の領地だから返せって言ってきて、隣接しているドワーフの領主と小競り合いが起きている」


「千年以上前の領有権ですか? それって本当かどうかも怪しい話ですよね」


「いや、そこはエルフ国から確認が取れている。エルフ国の帳簿に炭を卸していた記録がしっかりと残っていた。だが、エルフたちからすれば、炭が大量に必要な鍛冶のために木を切って森を荒らすドワーフよりうちが管理した方がありがたいそうで、『千年も前に捨てた土地に今更領有権はない』と応援してくれている。平和同盟条約に参加している周辺国の国々での話し合いの場でも、うちに権利があると認められている。ただ、代替わりしてからかつての自領だったドワーフの領主家の子供たちが、武力行使でうちを追い出そうと毎年のように仕掛けてきてるんだよね」


「外交問題じゃないですか。ドワーフ国の意向はどうなんですか?」

「その貴族家を粛正することもなく、知らぬ存ぜぬだね。友好国ではあるんだけど、今回のディアナちゃんの件も含めて関係が悪化しなければいいけど……。後、現領主が養子を取らないのは、下手に家臣の1つを選んで任せようとしたら家臣同士で内戦になりかねないとのことなんだ」


「成程ね~、1つの家で隣領のドワーフを抑えるほどの戦力はないけど、家臣同士のライバル心が強く、下手に選べないってことですね。優良地ではあるけど、ドワーフ国と俺が関わると事が大きくなりそうでなんか嫌ですね」


『ナビー、その辺どうなっている? ドワーフは戦争を仕掛けてくる気なのか?』

『♪ 少し調べてみたのですが、ドワーフ王にそのような気は全くなさそうですね。その鉱山自体にあまり魅力を感じていないようです。フォレル王国からすれば鉱石需要の3割も占める鉱山なのですが、ドワーフからすれば採れる鉱石の純度が低く、今ドワーフ国が所有している幾つかの鉱山で十分過ぎるほどの産出量があり、数千年鍛冶で使用しても使い切れないほどの貯蔵量が既にあるようです』


『じゃあ、採掘する必要すらないのか』

『♪ ドワーフの種族柄、一部の者は掘らずにはいられないようで、採掘量・貯蔵量は増える一方のようです。輸出はしていますが、そこは値崩れしないようドワーフ国の商人たちが頑張っているようですね。小競り合い問題は、ドワーフ国の辺境伯が病死で代替わりをした際に、欲を出して言い掛かりをつけてきているだけですので国同士の外交で対処できるはずです』


『でもさっき「知らぬ存ぜぬ」で対処してくれないってゼノさん言ってたじゃん』

『♪ 死者が出たとかそこまで大きな問題じゃないので、どちらの国も本腰を入れて対応していないだけです。街道に出没する盗賊や魔獣による被害の方が大きいくらいですので、まあ細事な案件として後回しにされても当然かもしれません』


 ナビーからすれば、領主間の小競り合い程度は些細な事らしい。




「最後の1つはエルフ領と隣接している子爵領だよ。公爵領から北に馬車で七日ほど、王都からだと北東に十日ほどの場所になるね。自領に特産品はないけど、エルフとの交易が盛んで、まあ敢えて言うならそれが特産品かな。土地だけは広く、山間部では林業、平野部では小麦や豆類を作っている」


「ここは問題がないところですか?」

「そうだね。問題は特にないけど、収益が少ない。土地は有っても開発しなきゃ使えないしね。現領主の子供たちは冒険者として活躍していて、とくに嫡男は利益の少ない自領より冒険者の稼ぎの方に魅力を感じているみたいだね」


「子爵位の権力は魅力あるはずだけど、国と土地に縛られますからね。自由な冒険者の方が性分に合っていたんでしょう」


「だろうね。とはいえ領地が欲しい貴族は多いからね。「後継しないのなら是非うちに!」と名乗りを上げている貴族家は多いんだよ。ルーク君がここを選ばないのであれば、この領地は3つか4つに分譲し、何か功を成した貴族に褒美として与え開拓させようと考えている」


 一家だけでは広すぎる領地なので開発もあまり進んでいない。それなら分割して数家で開発させた方が国益になるって話だね。


 元々はエルフ国との国境線を見守るために作った町で、領地内には都市どころか街と呼べるほど発展した所もなく、広い領地に町と村レベルの集落がいくつか点在しているだけのようだ。


 でも、ナビーが言うには、邪神討伐後なら魅力ある領地なのだそうだ。時間をかけて開発を前提に貰うのなら、森林資源や薬草類の群生地、渓谷沿いの鉄鉱資源なども見込めるそうだ。




 3カ所の候補地を長所・短所含めて詳しく説明してくれた。





「どこが良いと思う?」

「「「前侯爵領が良いです!」」」


ミーファ・エミリア・イリスの3人から「ここの一択」だと強く勧められた。


「でも、問題多そうだよ?」

「わたくしたちにはミーファお姉さまがいますので、悪人は全員排除いたしましょう」


 エミリア過激だな~。


「また家族の者たちから恨まれてしまうかもしれませんが、悪人に慈悲は必要ありませんわ」


 ミーファもやる気満々だね~。


「そうですよ! それに家族ならちゃんと家の動向をしっかり見て、悪い事を身内の者がしていたら止めるくらいするべきなのです。知らん顔で不当に得たお金でのうのうと暮らしていたのですから、それで没落したとしても姫様を恨むのは筋違いです。バンバン取り締まっちゃいましょう!」


 イリスの言い分はごもっともなんだけど、なんだかな~。


「みんなやる気満々なのは良いけど、ちょっと過激すぎるよ。それに急に減らすと領民が困るってさっき国王様が言ってたでしょ?」


「ルーク君、その辺の調整はこっちでやるから心配しなくていいよ。優秀な代官を派遣したので、君が卒業して引き継ぐまでに領内はクリーンな状態にしておくよ。卒業までに3年もあるからね。それより、君への 陞爵は結婚式の際に同時にしたかったのだけどユリウス王から少し要望が入った」


「父様が?」


「この国の『公爵位』とヴォルグ国の『王子』と比べると、大国の王子の方が扱いは上なんだよね。そこで、嫡男のジェイル君が即位するまで君の肩書は兼任で残してほしいとの要望だ」


 うん? さっぱり解からん……。


「え~と、つまりどういうことですか?」

「君にこの国でヴォルグ姓を名乗る許可を与えるそうだよ。だから結婚後はルーク・B・ヴォルグとなる。『B』という公爵位が付くが、名乗りはヴォルグ王国第三王子を名乗っても良いとのことだよ。要はあくまで君はヴォルグ王国の者だとなんらかの形を残したいんだろうね」


「あ~~恥ずかしい! それって父様は未だにハティとディアナに未練たらたらってことでしょ」



 姓と名前の間に付くアルファベット記号は、家格が判別できるようにする為のものだ。


A:王族位

B:公爵位(大公を含む)

C:侯爵位 

D:伯爵位(辺境伯を含む)

E:子爵位

F:男爵位

G:準男爵や名誉騎士爵


 一般の騎士爵は家名を名乗れるが、貴族記号は無い。


 含まれるのは現当主の妻とその子供たちまでだ。


 爵位を渡して引退した前当主や、嫡子が当主を引き継いだ際に兄弟たちは家名は残るがアルファベットの爵位記号は付けられなくなる。世襲できない騎士爵家の場合は家名も外れ完全に平民扱いとなる。


「まあそうなんだろうけど、これまでヴォルグ王国は他国でヴォルグ姓を新たに立ち上げることを許可してこなかったんだよ。勝手に名前を使われてヴォルグ王国の庇護下だと誤解させる真似を許さなかったんだ。まあうちとしては大歓迎なんだけどね。本国直系の血筋が家名で明確になるしね」



 とまあ、話し合いの結果、貰う領地は前侯爵領になった。


 俺が実際に引き継ぐのは学園を卒業した3年後なので、それまでに不正貴族や悪徳商人たちをゼノさんたちが排除してクリーンな領地にしてくれるそうだ。


 ナビーもここが良いとのことで、領内でコスメ関連の材料を植える農地の選定を始めているみたいだ。


 俺は5カ所のダンジョンが気になって仕方がない。学園の長期休みに自領のお屋敷で過ごすようにすれば、ダンジョンでレベル上げができそうだ。

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