第79話 付与魔法の実験

 現在あてがわれた自室にて【錬金魔法】を使って金属加工を行っている。


 まずは実験用に小指サイズの指輪を作る。

 鉄にミスリルを10%混ぜただけの簡易なものだ。


「ご主人、なにを作っているのじゃ?」


 ディアナがお風呂上りに侍女からもらったレモン水を飲みながら覗き込んできた。


 ディアナって俺を『ご主人』という時と、『ご主人様』や『主様(あるじさま)』って言う時があるけど、基準はなんなんだろう?


『♪ 特に意味はないようです。気分次第じゃないですか。マスターをどう呼べばいいのか本人も決めあぐねているのかもしれないですね』


 イリスやミーファの『ルーク様』だったり『ルーク殿下』だったり、自分を『わたくし』や『わたし』というのは人前で使い分けている感じがするけど、ディアナのは良く分からん。


 ひょっとしたら本来のドレイクだった頃のディアナの意識と、古竜様の記憶が強く影響した時のものとの差異から生じたものかもしれない。俺が母様や父様の前では『僕』と無意識に言ってしまうのはルーク君の記憶からくる影響みたいなのでその可能性もありそうだ。



「今作っているこれは【付与魔法】の実験用のものだね」

「ふ~~ん、なんの付与をするのじゃ?」


「【亜空間倉庫】の付与ができないかと思ってね」

「ご主人の【付与魔法】の熟練度ならできるじゃろ?」


「どうだろ? 以前はそんなことできなかったけど、今はかなりイメージ次第でできることが増えてるようだから、やってみないと分からない。まぁ、今回のはそこにオリジナリティーを加えたいんだよね」


 オリジナルと聞いて更に興味を持ったようだ。




「う~~ん、この指輪、空きソケットが1つしかない……ミーファたちにあげたものは4つ空きがあったのに」

「空きソケットの数は、ミスリルの純度・量・出来栄えとかで変わってくるからのぅ」


「なるほど、今回10%しか混ぜてなかったのと、物が小さいからなのかな?」 


「おそらくそうじゃろう」

「まあ今回実験用だからこれでいいか」


 指輪の空きソケットに、【亜空間倉庫】の【付与】を付ける。


 【収納の指輪(極小)】(10kg×5マス)


「極小になってるけど、10kg×5マスなら悪くないね」


 この世界の人間は神の恩恵で生まれつき誰でも10kg×5マスの【亜空間倉庫】を所持している。【亜空間倉庫】の属性は闇属性で、適性のある者は10kgではなく100kg×5マスに収納重量が増えるそうだ。


 【亜空間倉庫】の熟練レベルが1で、1枠全て解放されている者の【ステータスプレート】での表示はこんなふうに見える。


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 ・【亜空間倉庫】には熟練度があり、レベル1~10まである

 ・熟練度レベル1の最大容量は1枠

  1枠≪5マス(横)×10列(縦)≫1マス最大100kg収納

 ・1マスの容量は10kgのものと100kgのものしか確認されていない

 ・1マスの最大容量は100kgだが、2マス消費することで

  100kg以上の物も収納可能(最大50マス使用して5トン)

 ・1マスに1つの物しか入れられない

 (風呂敷や箱に詰めることによって、100kgまで1つにまとめられる)

 ・解放は1列ずつで、10列解放されれば熟練レベル2になれて、

  次の枠の1列目が解放される

 ・マスごとに名前が付けられる


 ルーク君は闇適性が高かったので、1マス100kg収納で、2枠と4列所持していた。120マスなので、最大12トン収納可能だ。


 まぁ、今は【インベントリ】を得ているので収納無制限なんだけどね。



 さて、俺の実験はここからが本番だ。

 再度新しい指輪を作り、【付与】を付ける時に【亜空間倉庫】機能と並列して新たにイメージを付け加える。


 完成品をナビー工房に収納し、チェックしてもらう。


『ナビーどうだ?』

『♪ 上手くいったようです』


 ディアナ用にお着替えスキルを創り、スキル名を【ファッションドレッサー】と名付けた。


 ・【ステータスプレート】上に人型の模型を表示させ装備品を登録できる

 ・型の登録数は2つまで可能

 ・登録した型に名前を付けられる

 ・型の登録カ所は、一式を以下の部位とする

  靴・腰(下着)・ズボン・上着(インナー)・上着シャツ

 ・着脱時に光のエフェクトが掛かり、外部から裸を見られることを防ぐ

 ・登録装備より、現在装備している数が多い場合、

  【亜空間倉庫】に自動収納する


  人型に2通りのお着替えパターンが登録できるので、学園の制服バージョンと私服バージョンを仮に登録して、指輪に着替えを収納しておく。


「やっぱ収納マスが5つじゃ足らないな」

『♪ ですね。冒険者装備だと武器や防具、付与付きアクセサリーなども納めておきたいですからね』


 まぁ、今回は実験だ。


 指輪を嵌め、【ステータスプレート】に人型のマネキン模型のようなものを表示させる。


 ・学園の制服(上着)

 ・学園指定のワイシャツ

 ・学園の制服(ズボン)

 ・パンツ(下着)

 ・学園指定の靴


 【ステータスプレート】上で、【亜空間倉庫】や【インベントリ】から人型模型の登録部位に、目線でドラッグ&ドロップするようなイメージをすれば登録保管できた。登録名は【学園衣装一式換装】とまんまな表記にした。


 【インベントリ】内に保管していたものが、指輪の【亜空間倉庫】に移動したことになる。うっかり指輪を無くすと、制服一式ごと失うので気を付けないといけない。顔を洗う時に指輪を外した拍子に洗面所の排水溝に流してしまったとかよく聞く話だ。



 実際に使ってみた。


 発動と同時に俺の体が一瞬ふわっと浮き上がった感覚があり、すぐに眩く光りだした。そして光が治まった時には制服姿になっていた。僅か3秒ほどの出来事だった。


「おお~~~! 主が光ったと思ったら、学園の制服に変わっておる!」


 成功だが失敗だ。


 ワイシャツのボタンが止まっていないし、ズボンのベルトも締まっていなかった。

 試しに付与した指輪ではなく、自分の所持スキルの方で【ファッションドレッサー】を発動したら上手く着れていた。


『ナビー、指輪での失敗原因はなんだろう?』

『♪ おそらく、最初の指輪への付与時にイメージが足らなかったのではないかと。ボタンのある物はボタンを正しくかけるイメージがいるのではないでしょうか。靴下もしっかりしたイメージがないとかかとの位置とかズレそうですね。靴ひもやネクタイ、ブラジャーとかも、正しく装着したイメージを情報として付与時に組み込む必要があるのでしょう』 


 なるほど、スキルとして発動した時は、指輪での失敗で俺がそこを意識して発動したので上手く着ることができたのだろう。


『そうだとしたらいろいろ無理があるな。女子の下着を着けたことないのでイメージが湧かない。どのみち材料が足らないので後にするか――』


『♪ ミスリル鉱なら公爵家の宝物庫に保管されていますので、【耐毒の指輪】との交換で幾らか譲ってもらうと良いでしょう』


『じゃあ、先にララのを作ろうか』

『♪ まずは皮の鞣しからですね。これは既存魔法で簡単にできます。本来この魔法習得には、ジョブに【革職人】というものが必要なのですが、マスターはアビリティーポイントを振るだけでジョブを無視して獲得できます。勿論スキルを使わずに手作業でなめし作業もできますが、非効率ですのでお勧めしません』


 ディアナの鞍に使った革より、今回はちゃんとしたなめし作業がいるようだ。

 勿論専用のスキルがあるのなら、俺は効率よくそれを利用する。


『ずるいと言えばずるい話だけど、俺は利用できるものは利用する性質なので、躊躇なく獲得しちゃいます……ん? どれがそうだ?』


 既存魔法の一覧表を見ているのだが、それらしいものが見つからない。


『♪ 2種類あります。【タンニン】と【クロム】という魔法がそうです……が、これがスキル名なのはちょっと納得できませんね』


 なにが不満なのかよくよく聞くと、日本では植物性のタンニンに浸けることで行うなめしは『タンニンなめし』と呼ばれ、塩基性硫酸クロム塩などの化学薬品をなめし剤として使用する方法を『クロムなめし』と言ってるそうなのだ。


 ナビー的には成分名がまんまスキル名なのが気に入らないようだ。


『♪ スキル名にするなら、ちゃんと【タンニンなめし】と【クロムなめし】にするべきです』


 革職人になりたいわけでもない俺には興味のない話だった。

 でも『なめし』という文字を一覧で探していたので、俺もナビーの意見に賛成だ。


 ポイントを振って、日本の主流である『クロムなめし』を行える【クロム】を獲得した。


『♪ ちなみに【タンニン】と【クロム】を両方習得すると、【混合なめし】という上位スキルが習得できるようになります。このスキルはタンニンなめしの良さであるエイジングを楽しむことができ、なおかつクロムなめしの良さである高度な強度と柔軟性を兼ね備えた革に仕上げることが出来るようになります。もう最初から【タンニング】というスキル名で統一すればいいのに』


『へぇ~、じゃあ両方取って【混合なめし】を獲得しておこうかな』

『♪ 今はダメです! いずれは欲しいスキルですが、今は身の安全のためにスキルポイントは取っておくべきです』


『じゃあなんでいま言うんだよ! 上位スキルって聞いたらそっちが欲しくなるじゃないか』




 なめし作業はナビー工房に任せて、俺は金属部分の加工をする。


 そういえば今回はララがお風呂に突入してこなかったな。


『♪ 実は今回突撃前に侍女に見つかり、ララは自室で捕まっていました』

『あらら、まあ俺はハティとディアナを洗うのに忙しかったから、入ってきていてもあまりかまってあげられなかっただろうけどね』


 思ったより作製に時間がかかったが、予想以上に可愛いものができた。


 明日が楽しみだ。

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