第66話 モフモフ三割増し

 超ご機嫌な王妃さまお二人が、夕飯まで食べていく気満々でリビングでくつろいでいる。勿論イリスとナタリーもそのつもりで多めに夕飯の下ごしらえをしているようだ。


「ルークさん、お肌に良いというこのお薬は、他にも種類がおありなのですか?」

「そうですね。これからの時期なら、この日焼け止めクリームとかが良いかな」


「日焼け止めということは、太陽の光に当たっても日焼けしなくなるということですか?」


「そうです。皆さんは何か日焼け予防はしていますか?」

「夏場外に出るときは日傘などで対策はしていますよ。でも、式典とかで半日お外でいないといけない日などは、ちょっと火傷みたいになってしまいますわね」


 ミーファのお母さんが返答してくれた。そういえば、ミーファのお母さんも軽いアルビノ入ってるので、日差しには弱いと思われる。


 ただこの世界には回復魔法や回復剤があるので、日焼けで軽い火傷のようになってもすぐに治してもらえていたようだ。


 だが、そういうものがあると分かっていてあえて言う。ナビー製日焼け止めクリームは凄い。薄く塗るだけでほぼ完全にUVカットするそうだ。メラニンとかが蓄積する前にしっかり対策しておくほうがずっといいはずだ。


「日焼けの跡が将来シミとなってしまうので、若い頃から日焼け対策はした方が良いです。日傘も有効ですが、下からの照り返しとかもありますからね」


「「「ルーク様! わたくしにもそのクリームをお分けくださいませ!」」」


 横で聞いていたミーファやエリカ、エミリアまで欲しいようだ。

 調理中のイリスやナタリーもこっちを見ているので欲しいのだろう。


 美少女たちのお肌の為ならいくらでも頑張って量産しますよ!




 そうこうしている間に、イリスたちの夕飯の下ごしらえが終えたようだ。


「ルーク様、何時ごろ調理を始めれば宜しいでしょうか?」 


 イリスは王妃二人ではなく、この部屋の主である俺に聞いてきた。


「王妃様たちも食べて帰られるのですよね?」

「「宜しければお願いします」」


 王妃様お二人はミーファの顔色を窺うようにチラ見しながら答える。そういえばさっき釘刺されていたもんね。


 コンコンコン――


 その時、扉がノックされた。

 まさか国王様までまた来たのかと思ったが、近衛騎士のお迎えだった。


「申し訳ありません。国王様より、『明日のこともある。迷惑だから連れ帰れ』と指示されています」


 ご機嫌斜めになった王妃二人に睨まれてちょっと可哀想だ。

 渋々お二人は帰ることになった。


 最初、下ごしらえは終えているのだから食べて帰ってもらっても良いとは思ったが、王妃お二人が一緒だと侍女3人が緊張するだろうと思い、俺から引き留めるようなことは言わなかった。


「それとルーク殿下、国王様よりこちらの品を預かっています」


 あ! ハティの哺乳瓶だ!


「もう用意してくださったのですか。こちらからも後で伝えますが、『ありがとう』とお礼を言っていたとお伝えください」

「了解しました。それではこれで――」



  *    *    *



 夕飯を終えた後、俺とイリスはリビングでいつものダイエットトレーニングだ。


 ほかのメンバーは女子寮に帰った……のではなく、俺の所で入浴中だ。

 エミリアとナタリーも最初からそのつもりだったようで、着替えを持ってきていた。勿論ミーファたちもね。


 変な噂が立っても嫌なので、できれば女子寮に帰ってから入ってもらいたいものだ。


「ハイ、37~! ルーク様、お風呂の方に聞き耳立てていないで、もっと集中してください! ハイ、38~~~!」


 だって、キャッキャと4人の楽しそうな声が聞こえてくるんだもん!


「そういえばイリス、ベルトの穴の位置が1つ変わったよ」

「え? もうですか? おめでとうございます!」


「まぁこれだけ太っていれば、最初は目に見えて分かるほど体重も落ちるだろうね」


 イリスは食事やトレーニングにまで付き合ってくれているのだから、痩せているという報告は凄く喜んでくれた。


 こう喜んでくれると、俺ももっと頑張ろうという気になる。




 お風呂から出て髪を乾かした後、エミリアが俺に話しかけてきた。


「ルーク様、とても素晴らしいものをありがとうございます」

「気に入ってくれたなら作った甲斐があるよ」


 エミリアもナタリーも俺の作ったシャンプー類を気に入ったようだ。


 テーブルを挟んで距離はあるが、エミリアが自分から話しかけてくれるようになったのは良い傾向だ。神獣の加護と祝福で手に入った【精神回復】を定期的に掛けておこう。


「それにしても、スピネルの毛もなんだかふんわり感が増したね」

「はい! わたくしのスピネルちゃん可愛いすぎです!」


 ミーファはモフモフになったスピネルをだっこして幸せそうだ。

 ハティもミーファの膝の上に乗ってスピネルの匂いをクンクン嗅いでいる。


「魔獣からすれば匂いがきついのかな?」

《♪ 超微香だし、それもすぐ消えるから大丈夫だよ》


「なら良かった。ミーファたちも香水は付けないようにしてね」

「「「はい。ハティちゃんやスピネルちゃんが可哀想ですものね」」」


「それもあるけど、香水とか魔獣を引き寄せるし、皆は折角良い匂いの【個人香】を持っているのだから、それを消してしまう強い香水を付けるのは勿体ないよ」


「個人香ですか?」

「うん。近いうちに皆のレベル上げも行うつもりなので、日頃から香水の使用は禁止ね。急に『今からレベル上げに行こう』となっても、香水で匂いがきつすぎる人は危険なので連れて行けないでしょ」


 という訳で俺の班では香水禁止だ。匂いに敏感な狼のハティにはきつ過ぎるしね。




 俺はハティを連れてお風呂に向かったのだが、ディアナとナビーが当然のように付いてきた。


「なぁディアナ……流石にダメだと思うのだが?」

「妾に出て行けと言うのか! 以前はよく背中を洗ってくれたのにのぅ……とても悲しいのじゃ」


 ディアナは目に涙をためてマジで悲しそうな顔をしてくる。

 確かにルーク君は【クリーン】魔法だけではなく、ドレイクの背中に乗って、枯れた麦わらを丸めたたわしで背中をゴシゴシ洗ってあげていた記憶がある。

 竜の手では届かない背中や羽の部分をゴシゴシしてやると、ディアナは尻尾を振って喜んでいたものだ。


「う~~ん、そう言われてもなぁ~、ドレイクの頃は竜の姿だっただろ。今のその可愛い人型バージョンはちょっと目のやり場に困るんだよ」


 ナビーが言うには、ディアナは人の年齢に換算したら14歳くらいだそうだ。

 14歳……ディアナは微妙に膨らんだ胸をお持ちなのだ。


 俺的にはOUTな感じだ。


《♪ 別にいいじゃないですか。ラッキーって思って見れば良いのです。マスターはディアナに欲情しているわけではないのでしょ?》


「別に欲情とかはしてないけどさ……って言うか、なんでナビーもいるんだよ! お前は完全にOUTだ! サイズが小さいだけで、見た目20歳ぐらいの完全な女性じゃないか!」


《♪ マスターはナビーに欲情しているのですか?》

「するかよ! いくら見た目が可愛いエルフに羽が生えた良い感じでも、手乗りサイズじゃ話にならん!」


 ナビーは手乗りサイズだが、素晴らしいお胸をお持ちだ! と言うか、日本で居た頃に遊んでいたMMOのキャラ設定時に1時間掛けて創り込んだのは俺だ。それを女神様がそのまんま、この世界のピクシー妖精としてトレースしたものがナビーの容姿になっている。


 つまり、ナビーの見た目は完璧に俺好みに創り込んだ理想形の姿なのだ。


《♪ 性的にどうこうする気がないのであれば良いじゃないですか。ナビーもディアナもマスターと一緒にお風呂に入りたいのですよ》


「そうじゃぞ! 妾たちが良いと言っておるのじゃから、主様は文句を言わないで妾たちの願いを聞き入れ洗っておればよいのじゃ!」


 はぁ? 何気に体を洗えと? これじゃあどっちが主人か分からんな。



 不毛な争いになりそうなので、諦めて洗ってやりましたよ。


「おふぅ~~! 気持ち良いのじゃ! アワアワなのじゃ!」


 まぁ、可愛いのでいいか……。

 先に洗ってあげたナビーは、手桶に張ったお湯の中でくつろいでいる。


「ハティも気持ちいいか?」

「ミャン♪」


 泡だらけで尻尾フリフリだ。お風呂を嫌がる犬もいるので良かった。

 そして俺はディアナに全身綺麗に洗われた……気持ち良かったけどね。


「妾も主様のことをずっと洗ってあげたいと思っておったのじゃ。人化できる古竜種にしてくれた女神様に感謝じゃな!」



 入浴後、毛を乾かしたハティの可愛さは3割増しだった!

 モフモフのモコモコだ!

 スピネルなんかに負けてはいない!


『♪ 「うちの子が一番可愛い!」とか平気で言う、典型的な馬鹿飼い主ですね』

『ミーファと言い合いになりそうだから俺は口に出していないだろ!』



 可愛くなったハティに早速哺乳瓶を使ってみる。

 リンゴを絞って綿の布で濾した、リンゴ果汁100%ジュースだ。


 最初吸い方が分からなかったみたいで、匂いをクンクン嗅ぐだけだった。

 吸い口に果汁を塗ってちょっと強引に口に突っ込んだら、凄い勢いで吸い始めて、尻尾を千切れんばかりに振り出した。


「「「ハティちゃん可愛い!」」」


「スピネルも飲むか?」

「キューン♪」


 クッ! こいつも可愛いんだよな。某アニメのキツネリスそっくりだ。


 平皿に入れてあげると、ペロペロと可愛く飲んでいる。


「「「スピネルちゃんも可愛い!」」」


 キャッキャと皆が騒いでいる中、一人寂しくお風呂に向かったイリスがちょっと可哀想だった。




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