第57話 神獣ハティとピクシー妖精のナビー
父様とのやり取りを終え、なんとか人心地つく。
夕食も済ませ、今はイリスに紅茶を入れてもらって歓談中だ―――
『♪ あ! マスター、ハティがおトイレのようです!』
『ゲッ! マジか! ナビーありがとう!』
フェンリルの子供のハティは現在俺の服の中にいて、腹の上で寝ている。
そう言われれば、起きたのかモゾモゾし始めた。まだダメだぞ!
俺は慌てて席を立って部屋の隅に行く。
「ど、どうされましたの?」
「ルーク君、急にどうした⁉」
話し中に急に席を立ったので、ミーファのお義母様やゼノ国王が驚いたようだ。
亜空間倉庫から綺麗な布を出し、急いで服の中からハティを出してその上に置く。
「まぁ! 可愛い! この子が神獣様なのですか⁉」
「本当ですわ~、可愛いですね!」
「「「可愛い~」」」
「少し静かにしてください。どうもおトイレのようなので、見ないであげてください」
犬も結構おトイレ中の姿を見られるのって嫌がるんだよね。
ハティはすぐにチョロチョロ始めて、うんちも少し出した。
【クリーン】で布もハティもまとめて綺麗にして抱っこする。
「あれ? この子、もう目が開いてる?」
「ミャン!」
グハッ!
萌え死ぬかと思った! なんだこの可愛い生物は!
俺を見て尻尾をフリフリしながら『ミャン!』って鳴いた!
「「「キャー! 可愛い!」」」
エリカが【ステータスプレート】を出してパシャパシャやり始めた。
【ステータスプレート】の写真機能で静止画を残しているみたいだ。そして、何か操作している。
『♪ ミーファに撮った画像をメール機能で貼り付けて送るようです』
『やっぱそうか。ミーファ、俺の姿知ってるんだな?』
「ミーファ、君、俺の太った姿、知っているでしょ?」
キャッキャと女性陣が騒いでいたのが一瞬で静かになった。
「あの……はい……」
「エリカがメール機能で動画や写真なんかを送れば、目視ではなく、網膜上というか、【ステータスプレート】を使って間接的にはっきりした画像で姿を見られるんだね?」
「はい。隠していてごめんなさい」
「別に怒ってないよ。でもこんなに太った姿でも君は良いのかい?」
「教室でも言いましたが、目の見えないわたくしに、お姿のことを言われても……普通の人と比べて比較対象が少ないせいか、今一ピンとこないのです」
「じゃあ、ハティを見てどう思う?」
「可愛いです! うちのスピネルちゃんの次くらいに可愛いです!}
確かにあのカーバンクルは可愛いけど、ハティは2番なんだね。
ピンとこないと言いつつも、しっかりした見た目の基準があるんじゃないか。
ちなみにスピネルは現在ミーファのベッドで熟睡中だそうだ。
「ルークさん! 神獣様を抱っこさせて頂けないかしら⁉」
ミーファのお母さんが、めっちゃ触りたそうにしている。
チワワぐらいしかないハティをそっと渡してあげると、大事そうに抱っこして優しく首元を撫でてあげている。
「わぁ~凄く柔らかい毛。白くてモフモフです! あ~~なんて可愛いのかしら!」
あなたも可愛いです!
「お母様! わたくしも抱っこしたいです!」
「だいぶ元気になったみたいだけど、さっきまで弱って眠ってたんだから、今はあまり構わないでそっとしておいてあげてください」
「そ、そうでしわね」
「それにしても、ずいぶん元気になったんじゃないか?」
「ですね。あ! ハティのレベルが12に上がってる! これが原因のようです!」
「そうか! 古竜様との狩りで、君と繋がりのある神獣様もパーティー扱いになっていたんだね。レベルが上がって、それで元気になったのか……じゃあ、もっとレベル上げをした方が良いのかな?」
「どうでしょう? 生まれたての赤ちゃんですし、あまり無理はさせない方が良いんじゃないかな?」
「それもそうか。後でテイマーにでも聞いておくよ」
「お願いします。あ、でも神獣は魔獣と違うらしいのでどうなんでしょうね?」
「その辺も調べておくよ」
「あの、ルーク様。ルーク様はピクシー妖精も召喚いたしましたよね? 送還してしまわれたのでしょうか?」
エミリアが俺に質問してきた! 周りの者も男の俺に自ら話しかけたので驚いている。
『♪ まぁ! エミリアは良い娘ですね! 観覧席から見たナビーのことが可愛かったので、どうしても気になっていてマスターに声を掛けたようです』
ナビーを可愛いと思ったら、皆良い娘になるのかよ!
『じゃあ、引き篭もっていないで、いい加減【インベントリ】から出てこいよ』
『♪ 仕方がないですね』
≪♪ パンパカパーン! 呼ばれて飛び出てナビーちゃんですよ♡≫
「お前キャラ変わってるだろうが!」
なんなんだこいつは!
「可愛いです!」
エミリアは暫くナビーにあれこれ質問しながら楽しそうに会話している。
俺の対応と違って、ナビーには最初からフレンドリーなんですが?
「ナビーちゃん、わたくしにお洋服を作らせてくださいまし!」
≪♪ いいよ~、可愛いのにしてね?≫
エミリアちゃん? ひょっとしてドール趣味とかがあるのかな?
「てか、ナビー。なんで【念話】なんだ?」
「♪…… ……、…… ………………」
「何だって?」
≪♪ 成りが小さいんだから、普通に喋っても声が小さいので聞こえないの!≫
「あ~~そういうことか。そりゃそうだよね。でもマジ声も体も小さいな。なんか下手に触ると殺しちゃいそうだ。羽とかすぐに折っちゃいそうで怖い」
≪♪ 大丈夫だよ。ほら!≫
羽が消えた!
「羽、消せるのか?」
≪♪ 羽というより、ナビーの存在自体が有って無いようなものなの。だから潰したりとかは物理的にできないの。でも、魔法はダメージを受けるから気を付けてね≫
「ナビーには触れられないってこと?」
≪♪ 触れるよ。ただ自在に存在を消せるの≫
ちょっとナビーを抱えて触ってみる。
「本当だちゃんと触れる。温かいし、柔らかい……それに甘い匂いがする」
「ルーク様! わたくしにも触らせてくださいまし! ナビーちゃん良いよね?」
≪♪ エミリアたんは可愛いから良いよ~≫
『おい! 「エミリアたん」は止めろ! それはまずい!』
念話で他には聞こえないように割って入る。
『♪ ごめんなさいマスター、少し調子に乗っちゃいました』
『口調が戻ってる! なんでこんな頭の悪そうな緩キャラにしたんだ?』
『♪ エミリアのピクシー妖精のイメージがああいうものだったからです』
『エミリアの心内を読んだのか? 何のために?』
『♪ ナビーが仲良くなれば、否応でもナビーに会いたい時にはマスターも必ず側にいることになります。マスターと会う機会が増えれば、男性恐怖症も少しずつ改善されるかと……』
『確かに。現にさっきは自分から話しかけてきたしね。ナビーの判断に任せるよ』
「温かいですね! あ! 本当だ! 凄く良い甘い匂いがします! なんの匂いだろう?」
「この甘い香りはバニラだね。バニラの香りには【リラックス】効果があったはずだよ」
「そうなのですか? ルーク様は色々ご存じなのですね……」
≪♪ エッヘン! ナビーが選んだマスターだからね! 凄いに決まっているの!≫
ナビーの奴、他の人とも随分打ち解けるのが早い。
『♪ ナビーは、みんなの考えが読めますからね』
「あら? ルーク様、神獣様がおねむのようですわ」
見たら、ミーファのお母さんが抱っこしていたハティがウトウトしていた。
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お読みくださりありがとうございます。
ナビーの会話文ですが、亜空間からの【念話】の時は『』、顕現中で通常会話は≪≫でくくるようにしました。
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