第56話 この国に残れるように話がつきました
ゼノ国王が視線を斜め上にしたと思ったら、しかめっ面になった。
おそらく視覚上にコールを知らせる表示が出たのだろう。相手が俺の親父なのであのような顔になったんだろうな。
「ひょっとしてうちの父からのコールですか?」
「あ、すまない。顔にでていたか?」
「はい、あれから何度も?」
「ああ、一度通話を切らせてもらったのだが、再三かけてきている。今は無視しているが、そういつまでも無視できない。どうしたものか……」
コール機能は電話のようなものだが、フレンド登録している相手としか機能しない。とても便利だが、ネックになるのがフレンド登録は至近距離でしか登録できないということ。直接会ってからでしか登録できないので、電話のように番号、この場合はフルネームになるのかな? が分かれば良いというものではない。
俺はこの国に入った時に、兄様にフレンドリストを一度全て消されてしまっている。つまり、祖国の者とコール機能は使えないというわけだ。間者の阻止が目的だそうだが、既に王宮や学園にまで間者が入り込んでいるのを考えれば、消す意味があるのか疑わしい。
「父の要求は何と?」
「君を返せの一点張りだ。我が子だとしても、流石にちょっと横暴だよ」
「ですね。古竜と神獣を従魔にした途端返せはないですよね。一度婿に出した子を返せはお門違いでしょう。まぁ、父の気持ちも分かるのですが、これはちょっとね」
「ルーク君的には本当のところどう思っている? 帰れるなら帰りたいかい?」
俺の気持ちか―――
ルーク君の記憶からくる感情だろうけど、家族愛はある。親父に婿に出されたが、俺を想ってというのも納得できた。でもあの国に帰りたいかと問われたら否だ。
「竜騎士学校に通ってた頃の俺って、本当にふてくされていたのです。自業自得なのですが、クラスメイトからもかなり馬鹿にされて嫌われていました。それでも王子なので直接何かしてくる奴はいませんでしたが、陰口は酷かったです。正直あの国に戻る気はないですね」
「そうか、悪いがそれを聞けて少し安心した」
「あなた、ミーファと早々に婚約披露宴を開いてはどうでしょう? なんでしたら、うちのエリスも一緒に娶ってもらいたいですわ」
この人はゼノ国王のお妃、第一夫人のカーミヤ夫人だ。ミーファのお母さんは第二夫人のミラナさん。エリスというのは確か第一夫人の末っ子で、今年14歳だったかな? 実年齢13歳の女子はちょっと俺的には無理です……。
先日イリスに国王の家族構成を聞いたのだが、夫人が二人、第一夫人に長男、次男、長女、三女(エリス)。第二夫人に次女(ミーファ)三男、四男となっているそうだ。
「カーミヤお母様、それは良いお話ですわ! お父様、すぐに準備をして誰も口出しできないように大々的に公開いたしましょう!」
「これミーファ! 貴方の気持ちは分かりますが、ルーク君が困った顔をしていますよ」
「お母様? ルーク様は嫌な顔をなされているのですか?」
良かった……ミーファの実母が止めに入ってくれて助かった。
「流石に早急過ぎるんじゃないか? 確かに婚約発表を大々的にしてしまえば、うちの父や他の有力貴族への牽制にはなるけど、俺言ったよね? ゆっくりお互いを知って仲良くなろうって。俺、はっきり言ってミーファのこと何も知らないんだよ? 貴族の婚姻がこういうものだって知ってるけど、そういうのも嫌いだってミーファには馬車の中で前に言ったよね?」
「はい、そうでした。ごめんなさい……ルーク様が自国に取り返されてしまわないかとても不安で……」
涙目で謝ってきた。可愛いな~もう!
「はぁ~、ミーファが可愛すぎる。俺は帰ったりしないから安心して」
「か、可愛いとおっしゃってくれました! 嬉しいですわ♡」
「う~む、だがどうしたものか……。ルーク君が残ってくれると言ってくれるのは嬉しいが、ユリウス王は強引な手を打ってきたりしないだろうか?」
「コールに出てもらえますか? 俺が直接話をします」
「分かった」
『やっと出やがった! ゼノ! 居留守なんか使いやがって! とっとと俺の息子を帰しやがれ!』
「父様、下品ですよ! 国王らしくない言葉遣いです! まるで先日出遭った育ちの悪い盗賊のようです」
『ルークか? ゼノの野郎は子供時分からの友人でな……。そんなことより、お前帰ってこれるぞ! 神獣召喚とは良くやった! これなら公爵としてこの国でやっていける! すぐに帰ってこい!』
父様、ゼノさんと友人だったのか。
『♪ 幼少時分より次代の国王として会うことが多かったようで、お互いに協力し合って良い国にしようと友好を深めていたようですね』
そういうの聞くと2人とも志が高く立派で凄いなって思えるけど、さっきのはね~。
「父様、一度婿に出した者を、神獣を召喚したからといって取り返そうとするのは横暴でしょう。それに僕は帰る気はないです」
『女か? ミーファとかいう姫は、それほど良い女なのか? それともエミリア嬢か? 神獣と古竜を召喚したから美しい姫をあてがって俺の息子を籠絡するとは! ゼノの奴め~』
「誤解ですよ。姫とお付き合いすると決まったのは昨日で、召喚前の話です。むしろ神獣目当てに手の平返ししているのは父様の方でしょ! 僕を問答無用で寝ているのを早朝に叩き起こして、朝食も取らせないまま婿に出したくせに……」
『俺はお前の為を想ってだな……』
『ルーク! ああ、わたくしの可愛いルーク!』
「お、お母様……」
やはり苦手だ……。
俺ではなく、ルーク君の記憶からくる何かが拒否反応を起こしている。彼女の愛はルーク君も感じていたが、求めている愛の形が違うのだ。
俺がイメージしたのは教育ママ。ルーク君は普通の優しい母を求めていたのに、王家の子として過剰に厳しく色々詰め込もうとする母が次第に苦手になっていったのは当然かもしれない。勿論そこに母の愛はあるのだけどね。
『アメリアがあれからずっと泣いていてな。下手に機嫌を取ろうとすると癇癪を起こして、俺も何度か引っかかれているのだ。ルーク、アメリアの為にも帰ってこい』
「母様に黙って僕を他国に婿に出したからでしょう。母様、ご安心ください。僕はこの国で凄く大事にしていただいております。僕を好きだと言ってくれている姫ともお付き合いすることになりましたし、そちらに帰る気はないです」
『騙されているのではないですか?』
「あはは、姫は1級審問官の資格持ちです。嘘が一切吐けない人なので、騙すとか有り得ないですよ」
「あの、お話し中申し訳ありません。わたくし、この国の第二王女のミーファと申します。この度ルーク様とお付き合いさせて頂くことになりました。ユリウス国王陛下、アメリアお義母様、宜しくお見知りおきくださいませ」
『ミーファさん、ルークの噂のことはご存じなのでしょう? 本音ではどう思われているのかしら? 国の為に結婚を強要されているのではなくて?』
「お噂のことは知っていますが、所詮人の噂です。わたくしはとてもお優しく素敵な殿方だと思っています。命を助けて頂き、その御人柄に触れ、少し話しただけで恋に落ちました。わたくしはルーク様のことをお慕いしております。決して誰かから強要されたとかではありません」
『そうですか。しっかりした娘ね……。でも、少し話しただけでは分かりかねますので、一度遊びにいらっしゃい』
「はい! ルーク様とご一緒にお伺いいたします!」
ミーファはあの偏屈な母に認められたのか?
『ところで、ルーク。あなた、ルルはどうするの? あんないい娘はいませんよ? お互いに幼少時より好きだというから、早くに婚約させてあげたというのに……』
それで6歳時分にはルルとの婚約が決まっていたのか。
横でミーファが不安そうな顔になっている。
「ルルには既に婚約の話が進行中だと聞きましたが?」
『はぁ~、それもユリウスたち父親同士が勝手に進めていることです。そんなもの王家の者が一声かければどうにでもできる話です。あなたたち当人同士の気持ちが一番大事なのです!』
俺の気持ちは正直分からない。この胸が締め付けられるような感覚は、ルーク君の記憶からくる感情だと思う。ルルがとても良い娘なのは記憶で知っている。だからといって結婚できるかといえば、俺のほうが『ちょっと待てよ』と思ってしまう。
「お母様、一度夏休みにでもミーファを連れて帰省いたします。ルルのことはそれまでに考えておきます」
『この国に帰る気はないの? 母を捨てるのですか……』
「いやいや、この国の貴族の子息10人と交換されたのは僕ですよ? 怒るなら父様を怒ってください。でも、僕は今凄く充実しているのです。そっちでは得られなかったとても幸せな生活です。僕を愛してくださっているのでしたら、温かく見守っていてくださいませんか?」
『その国はそれほど居心地が良いのですか?』
「はい。学校に通うにあたって従者というか弟子ができまして、とても優秀で食事や身の回りの世話も完璧にこなしてくれているので、凄く快適に暮らせています。その者が痩せるための食事も考えてくれたり、毎朝散歩などにも付き合ってくれるので、僕も今更ながら痩せる努力を始めたところです」
『そうですか、優秀な執事を付けてくださったのですね。ですが、あくまで他国の思惑で与えられた執事ということを念頭において行動しなさい』
執事か……。男子と誤解しているようだが訂正する必要はないかな。母様まで女で籠絡されたとか言い出したら厄介だし。
「はい。十分承知しています。学園の夏休みには一度帰りますので、父様のことは母様にお任せしますね。ゼノ国王が凄く困っています。神獣欲しさに父様が何をしでかすか分かったものではないですから、良く言い聞かせておいてください。あまり無体なことを言ってきたら、古竜に乗って父様にブレスを吐きに向かいますからね」
結局俺はこの国に残れるように話がついた。
父様にこれ以上横暴なことを言わないと約束させて通話を切る。
母様――ルーク君の苦手意識で緊張したが、話せば良い人じゃないか。
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