第55話 狩りというよりただの食材回収?

 ゼノ国王と2人でディアナに乗って空に舞う。

 当然出発前に護衛に付いている騎士に止められるが、ゼノさんは突っぱねてディアナに乗ってきた。


「親衛隊の人たち置いてきて良かったのですか? 後で怒られるんじゃないかな?」


「あはは、怒られるだろうね」


 空に舞い上がったと同時にディアナが【エアシールド】を自身の周囲に掛けてくれ、俺たちが風圧で飛ばされないようにしてくれる。


「ディアナ、ありがとう」

『ふむ。して主様よ、どっちに向かえばよいのじゃ?』


「え~とね。湿地帯に行くので北西、この方角に飛んでくれるかな」

『了解じゃ!』


「うわっ! 速い!」


 ドレイクだった頃と比べると、体感で3倍の速度は出ていそうだ。


「ディアナ、これ全速力?」

『妾はもっと速く飛べるぞ! じゃが鞍がない今はダメじゃな。そなたらが落っこちてしまう』


「そっか……って、もう着くじゃないか! 速いな~♪」


「ルーク君、いいなぁ~、実に羨ましい」


「ゼノ国王、少し狩りをしていきますね。ディアナもう少し先に水牛がいる。群れからはぐれたやつらだ。肉と革を傷めないように頭を狙って倒せるか?」


『勿論じゃ』

「1頭はディアナの夕飯だよ!」


『そうか! 妾に任せるのじゃ! 何頭の群れじゃ? 全部狩るのか?』

「21頭居るね。仔牛が4頭居るので群れの移動に遅れたのかな? 全部狩っていこう」


「ルーク君! 湿地帯の水牛って、まさかBランク魔獣の【ラッシュ・ヌー】のことじゃないよね?」


「そいつです。肉は美味しいし、革が柔らかく丁度ディアナの鞍に欲しいので狩って帰ろうかと」


「あいつは危険だ! 【ラッシュ・バッファロー】同様に草食魔獣なので基本向こうからは襲ってこないが、一度敵認識したら群れ一丸となってどこまでも追ってくる! 1頭でも中級冒険者が1PTで狩るような相手だ。たった2人で挑む相手じゃない!」


「大丈夫ですよ。ドレイクで何度か狩っていますが、それほど難しい相手ではないです」


 と言ってる間に上空から豆粒ほどの黒いものが見えた。


『あれじゃな? では行くぞ……しっかり捕まっておれ』


 学園長が手に入れたワイバーンと竜の狩りの大きな違い。鳥種は羽で滑空して狩るので、凄いスピードで降下する。その際目測を誤ったり速度を落としきれないと墜落事故になる。


 一方ドレイクなどの竜種は滞空できるのでスーッと音もなく降下してきて、頭や体を大きな手足でがっちり鷲掴みにするのだ。


 竜が握るのだ。当然大抵の魔獣は頭がグシャッとなって即死だ。この牛は象ほどの巨体なのだが、さらに巨大な古竜にかかれば、そのまま上空に持ち去ってしまえる。どんなにしつこい相手でも追撃できる術はない。


 仲間を殺された【ラッシュ・ヌー】たちが、水魔法の【アクアラスピア】を放ってくるが、ディアナの一番弱い部分の腹にさえ掠り傷1つつけられないでいる。


「倒した牛はディアナの【亜空間倉庫】にそのまま保管できる?」

『勿論じゃ! 妾の属性は闇じゃぞ、全部狩って入れてもまだ余裕じゃ!』


「こ、こんなにあっさり。Bランク魔獣が相手なのに」

「ゼノ国王、古竜が敵になったら国が亡ぶのでしょ? このぐらいできて当然じゃないかな?」


『そうじゃぞ。ただ殺すだけならブレスで群れごと一撃じゃ!』

「ディアナのブレスみたい!」


『肉など残らぬが、良いのか?』

「それはダメだ……勿体ない」


『妾も無益な殺生は好まぬ。殺すからには食べられる種はちゃんと食してやらねばの』


 竜が暴れたら災害とされている。フェンリルなどの神獣が暴れたら天災……そういう存在なのだから、牛の群れなどただの食材に過ぎない。


 当然だが、俺たちはディアナから降りて参戦などしない。俺自身はそんなに強くないからね。災害クラスの狩りを、背の上から凄い凄いと国王と2人ではしゃぎながら眺めていただけだ。


 そして、あっという間にディアナの一方的な狩りで群れは壊滅した。

 狩ったのは12頭。途中で9頭逃げ出してしまった。


『主様よ、ちりじりに逃げてしもうた……追うかや?』

「仔牛2頭を含めた12頭が狩れたから、逃げたのならもういい。お疲れディアナ」


『運動にもならなかったな。妾は無益な殺生は好かぬが、狩りは好きじゃぞ。また連れてきてくれるかや?』


 可愛いなぁ~、それとなく次の狩りをおねだりしてる。


「勿論だ。この湿地周辺にはでっかいヘビやワニの魔獣もいるそうだから、ディアナも楽しめるかもね」


『それは楽しみじゃ♪』


「仲間を襲われた【ラッシュ・ヌー】が逃げるなど初めてだ。もはや狩りというよりただの採取だな。上からキノコ狩りのような感覚で、ただ牛を引っこ抜いているだけのようだった」


「確かに。攻撃が攻撃になっていなければ、魔獣相手でもキノコを採るのと大差ないですね。さぁ、用は済んだので帰りましょうか」


 レベルも上がって俺は上機嫌だ!

 30kmの距離を往復して狩りまで行ってきたのに1時間ほどしか経っていない。


 学園に戻ってきたのは良いのだが、ディアナが入れるサイズの獣舎がない。


『別に獣舎など窮屈な場所は要らぬ! 妾は今から巣に帰って、荷物整理をしてくるのじゃ』


「ああ、そうか……うん、分かった。でもディアナを見たら王都の人が驚くので、なるべく人を驚かさないようにね?」


『そんなことは承知している。主様は心配性じゃな』


 ディアナは俺に狩った獲物を引き渡すと、さっさと北の空に飛んで行った。ディアナの巣は北にあるのかな?


『♪ おや? あの古竜、巣に色々お宝を溜めこんでいます』

『マジか⁉ 例の竜の習性か?』


 竜種は光物の金銀財宝が大好きで、巣に溜め込む癖があるそうだ。

 それよりナビー、いい加減【インベントリ】から出てくればいいのに。



  *    *    *



 その後、当然のように国王が俺の部屋に来ている―――


「二日続けて夕飯を頂いてすまないな」


 今日は第二王妃のミーファのお母さんと一緒に、第一王妃まで来ている。


「いえ、大丈夫です。まだうちの親父からコールがきていますか?」

「ああ、何度も掛かってきている」


「ルーク様、ドレイクを召喚した騎士科の生徒が竜騎士学校に転校することになったと聞いております。ルーク様もやはり元々竜騎士志望だったので、転校なさるのでしょうか?」


 ミーファが凄く不安そうに尋ねてきた。

 イリスも不安そうな顔だ。この国でも、竜騎士学校では従者は付かないみたいだからね。俺が転校となったら、必然的にイリスは要らないので解雇されることになる。


「あ~、俺は元々竜騎士になりたかったわけではないんだ。王家の男児は強制的に子供の頃に卵を与えられ、将来は竜騎士一択で選択肢がなかったんだよ」


「それはこの国でも一緒だな。ルーク君は竜騎士は嫌か?」

「嫌という訳ではないのです。戦争になったら竜騎士が絶大な戦力になるってことも理解していますし、王族が率先して竜を持つことで民へのアピールになっていることも承知しています。でも、俺は魔法騎士になりたいんですよね」


 俺は神殿でジョブを変更している……。

 1stジョブを【竜騎士】から【勇者】に、2ndジョブに【魔法剣士】を取っている。【勇者】のジョブは隠蔽して【回復師】に表面的に見た目を書き換えているけどね。


「う~~む、あれほどの竜だし、竜騎士になってもらいたいという気持ちはあるのだが、本人の意思を尊重しよう」


「ありがとうございます。でもどちらにしろ、ディアナじゃ竜騎士学校の授業は嫌がりますよ? あの古竜がドレイクに交じって隊列編隊とかしてくれると思えません。それどころか、俺以外に背を貸すと思えないです。今回、お願いして国王ということで渋々乗せてくれたって感じでしたし、授業で他の竜騎士に手綱を貸すものもありますが、絶対嫌がるでしょう」


「確かに。ドレイクですら他者に背を貸すのを嫌がるからね。プライドの高い古竜様なら、怒り出すかもしれんな。下手に古竜様を刺激したくない。分かった、魔法学園に残留という形で話を進めよう。問題はルーク君の父君だ」


 言っている最中に、その父からコールが入ったようだ―――

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