第54話 ディアナは【念話】を使えるようです

 強い気をフェンリルに当てられ、あっけなく気を失ってしまった古竜のディアナを起こす。


『あ! ご主人! そなた大丈夫じゃったか⁉』


「念話⁉」

『さっきの化け物はどうしたのじゃ? 居なくなっておるのぅ?』


 うわ~なんかメッチャ違和感がある! さっきのフェンリルと喋り方が被ってる!


『♪ マスター、どうもディアナもマスター同様宿主の記憶の一部が残されているようです』


『またか! 女神様は俺で懲りてないのかよ! 宿主の記憶のせいで俺が苦労しているというのに』


『♪ ですが、そのおかげでこうやって【念話】のスキルが使えているので、彼女の古竜として生きた1400年の知識は有用なのではないでしょうか?』


『1400年⁉ 幼竜じゃなかったのかよ! だからジジババ口調で喋るのか』

『♪ 古竜の寿命は万年単位だと言われています。1400年では人の年齢に換算すると14歳ぐらいかと。それと、ディアナが人の言葉を教わったのが老齢のドワーフだったようですね。だからあのような喋り方なのでしょう』


『ドワーフの寿命は1000年ぐらいだったよね? 長い間一緒に居たのかな? ひょっとして俺の前に従魔契約していたとか?』


『♪ いえ、たまたま魔獣に襲われていたドワーフを気まぐれで助けたら、酒をご馳走になって、酒欲しさに時々そのドワーフが住んでいる村に行っていたようですね』


『ディアナの宿主は、ドワーフの御爺さんにたかってたのか……』

『♪ いえいえ、村中を上げて訪問時は持てなしていたようですよ。古竜が居るとそれだけで村にいろんな恩恵が得られますからね』


『どんな恩恵だ?』


『♪ 魔獣は体内の魔石で周囲の魔素を吸収して食事の補助ができます。だから魔素の強い場所で魔獣が飢えで死ぬことはないのです。古竜はただ存在するだけで余分な魔素を吸収するので、人にとっては強すぎる魔素がその周囲からなくなり、人は体調が良くなったりします。魔素が薄くなれば魔獣も腹が減るので、その場から離れていきます』


『魔物除けになるのか……』


『♪ 他には魔素とはまた別ものの魔毒が払われ植物が良く育つようになるので、村の農作物が良く実るようになりますね』


『良いことづくめじゃないか……そりゃ村で持て成すはずだ』

『♪ 人を襲って食すドラゴンは脅威ですが、恩恵をもたらす大人しいドラゴンは神として崇められたりしていますからね。神竜を中心としたドラゴン信仰というやつです』


『あれ? でも神殿の結界石の影響で、大きな魔石を持つ個体ほど村や町に近づけないのではなかった?』


『♪ ええ、そうです。ですが当時、其処は村と銘打っていましたが、鉱山の中腹にある鉱石採掘の為の仮設村でして、神殿など建てられていない場所でした』



『そういうことか。でも、さっきのフェンリルは、なんか古風な喋り方でもしっくりいったのに、ディアナだと違和感あるよね』


『♪ 声自体が幼く可愛いからではないでしょうか?』

『ああ~それでか。納得だ』


『ご主人? どうかしたのか?』

「いや、なんでもない。心配してくれてありがとう。でもさっきのは神獣フェンリルだから、悪い存在じゃないんだよ」


『なんと! 神獣様じゃったか……。どうりで強いはずじゃ! 妾が気だけで倒されるとは。おそらくあれでも手加減してくれたのじゃな』


「この仔を従魔にしたので、ディアナも仲良くしてあげてね」

『従魔は妾だけで良いのに……』


『♪ 焼きもちのようですね。ふふふ、成りは大きいけど可愛いじゃないですか』


「そういわないで、ディアナの方がお姉ちゃんなんだから優しくしてあげるんだよ」

『ふむ、分かったのじゃ。狼の仔じゃな……じゃが凄く弱っておるのぅ』


 プルプルと震えている……寒いのかな?

 【クリーン】を掛けて、服の中に入れて俺の体温で温めてみる。


 丁度腹のでっぱりの上に乗っかっている……腹も出過ぎると物が乗るんだね。


 さっきから誰かとコールのやり取りをしていた国王がこっちに来た。


「ルーク君、少しいいかい。ちょっと面倒なことになっている。君のお父さん、ユリウス王が息子を返せと言ってきた。どうも、この学園内にも間者を潜ませているようだね。なんて早い情報網だ。俺も見習わないとだね。君と代われとうるさかったが、一旦通話を切らせてもらった」


「それって、俺というより古竜とフェンリル欲しさに言ってきてるのでしょ?」


「まぁそうなんだろうけど、君の将来を心配してこの国に出したけど、古竜とフェンリルが従魔になったのなら、自国での地位も安泰だろうからね。君には男爵位しかやれないと思っていたのが、フェンリルの主人になったのだ。文句なしで公爵位を与えられるだろう。それなら親として、一国の国王として帰ってこいと言いたくなるのも分からないではない。でも俺の立場からすれば今更ふざけるなと思ってしまう」


「ルーク様、わたくしを置いてお帰りになったりしませんわよね? わたくしは嫌ですよ」


 ミーファが凄く心配そうな顔で俺の方を見ている。


「ミーファ、心配しなくていい。今更帰る気はないよ」 


 本日の『召喚の儀』は俺が最後だったのでこの場で解散となった。


「ルーク君、このあと少し時間をもらえるかな?」


 ゼノさんからの当然の申し入れだが、俺にも少し時間が欲しい。


「あの……今後の話ですよね? 十分承知なのですが、俺も学園長じゃないけど今すぐこいつの試乗をしたいのですよ。少しだけ時間をもらっていいですか?」


「そりゃそうだよな! ルーク君、その試乗に俺も乗せてくれないか?」


 うわ~! めっちゃ子供のような目で俺を見てる。

 俺が逃げるかもとか疑っているのではなく、単に自分も乗ってみたいんだろうな。


「でも、鞍がないので素人が裸乗りするのは危険です。落竜する可能性があるので連れてはいけません」


「俺のファーストジョブは竜騎士だよ! 自分の騎竜も持っている! 竜騎士学校を首席で卒業しているんだぞ、裸竜も勿論乗れるので大丈夫だ!」


 そういえばミーファの件の時、自ら侯爵領に騎竜で向かったって言ってたな―――


「分かりました。ディアナ、今から少し乗せてくれるかな?」

『妾の背にそやつも乗せるのか……』


「この人この国の国王様で、これから凄く世話になる人なんだ」


『ご主人のお願いなら仕方がないのぅ』

「ありがとうディアナ!」


『ナビー、ディアナの鞍を作りたい。ディアナは硬い鞍を嫌っていたので水牛の革が良いと思う。ディアナの好物だし、ついでにおやつにしてあげようと思う。どこか近くに居ないかな?』


『♪ 革ですか? 確かに素材としては良いかもです。ここから北西に30kmほどの場所の湿地帯に、50頭~200頭ほどの群れがいくつかありますね』


『よし! そこに向かおう。できるだけ小さい群れに誘導してくれ』

『♪ 了解しました』


「ディアナ、鞍もくつわもないけど大丈夫かな?」

『くつわって、あの顔に付ける紐の事じゃろ⁉ 妾はあれは好かん! あのようなものなどなくても、行先を言うてくれればよい』


 俺は自分とゼノさんに重力魔法の【フロート】を掛けてディアナの背に飛び乗った。

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