第53話 ヤバいのキター!

 次は俺の番だが、何が来るのか知っているので皆ほどワクワク感はない。

 ただ凄く待ち遠しく思っている理由があるのだ。俺は神殿で女神ネレイス様と会談した日からずっとこの時を待っていた。


「では、本日最後の〆は隣国の第三王子であるルーク・A・ヴォルグ君だ!」


 『召喚の儀』は下位クラス順に行われる。理由は呼ばれる魔獣の期待値が上位クラスの方が高いからだ。そしてクラスでの順番は成績と家格を考慮した順番になっている。これも血による期待値の表れだね。先ほどミーファの召喚した従魔のことを考えれば、この順番の制度があながち間違いでないだろう。


「かつて聖獣が呼ばれたという記録は、周辺国を含めてでも3例しか知られていない。流石王家の御息女様だ! 次の大国の王子様も期待して皆で応援しよう!」


 オイオイ! 先生なに煽ってんだよ!


「絶対オークが来るって!」

「あはは、だよね~。私もそう思う!」

「逆にオークじゃないとがっかりだよな」

「それそれ、オーク一択だよね~」


 またこいつら言いたい放題言いやがって!


 俺が王子じゃなかったらオークコールの合唱が起きてたかもしれないな。



 俺は指示に従って、クリスタルの宝珠に目一杯魔力を注ぎ込んだ。

 まぶしく輝いた後に現れたのは、我が愛しのナビーちゃんだ!


「あれ? 何も居ない?」

「うそ! まさかの召喚失敗⁉」


 皆がざわついているが、ちゃんと見ろよ!


「なんかちっこいのがいるぞ! なんだあれ?」

「あっホントだ! あれってピクシーじゃない?」


「「「ピクシー!」」」

「「「ギャハハッ! ピクシーって!」」」


 会場が割れんばかりの笑いに包まれた―――


「何がおかしいんだよ! おいでナビー!」


「だってなんの力も持っていない悪戯妖精だよ! クククッ、流石は有名人!」

「悪戯ばっかりしてる無能って聞いてたけど、呼ばれた従魔がピクシーって、噂どおりね!」

「殿下の見た目はオークだけど、魔獣は召喚者の気質で呼ばれるのだったら、オークよりピクシーの方がピッタリだね!」


 凄い言われようだな。直接は言ってこないくせに、こうやって大衆に紛れ込んで発言する奴って俺は好きじゃない。


「「「キャー! 冷たいっ!」」」

「「何すんだ! この悪戯妖精!」」


「でもあのピクシー【無詠唱】で連弾を撃ったわよ! なんか凄くない?」

「でもただの生活魔法だし!」


 ナビーが顔を真っ赤にして俺のクラスメイトに【アクア】の連弾をぶつけてから消えちゃった!


『ナビー⁉ 何で【インベントリ】に? 出ておいで!』

『♪ イ・ヤ・デ・ス! ナビーを皆で笑って!』


 うわ~拗ねちゃったよ……困ったな。

 ナビーが水をぶっかけたのを見ていた、他のクラスの生徒の笑いが止まらない。


『♪ ナビーはここが好きなのです! 外なんて出ませんからね!』


 いきなり引きこもり宣言ですか!


『♪ それより次が来ますよ』


 そう……実は神殿で女神からある提案を受けていたのだ。


 召喚陣の光はまだ収まっていない。それどころか再度目を開けられないほど輝いたかと思うと魔法陣一杯の大きさのドラゴンが召喚された。


「飛竜⁉」

「どういうことだ⁉ 一度の召喚で2体呼ばれたことなどかつてないはずだ!」


 まぁ女神様の計らいだからね。


 召喚されたドラゴンは周りをキョロキョロ見回した後、俺を見つけて吠えた!


「GWOoo!」


 重低音の共振音で空気が震える!

 ドラゴンはすぐに俺目指して顔を近づけてきた。


「「「キャー!」」」


 だが周りからは俺を食べようとしたように見えたらしく悲鳴が上がる。


 騎士の何人かが俺を守ろうと攻撃魔法を放ったが、全く効いたふうではない。

 そしてそいつは俺の胸に顔をすりすりした後、俺の顔を大きな舌でペロペロした。


「ヤメロよ~! うわっ! ディアナの唾液でベトベトになったじゃないか~」


 俺が名前を呼ぶと、竜の体が一瞬輝き従魔契約が結ばれる。

 そう、こいつはあの時俺を庇って死んだ、ドレイクの『ディアナ』だ。

 だが、同じ個体ではない。『死んだ者は生き返らない』これがこの世の法則だ。


 こいつは俺と同じく一度完全に死んだのだ。そして別の個体に魂と記憶だけ転生されたのだ。


「あはは、やめろって! 【クリーン】!」


 ディアナはルーク君が使う【クリーン】の魔法が好きだった。凄く綺麗好きなドレイクだったからね。今も俺が綺麗にしてあげると顔をスリスリとしてくるのだが、ちょっと痛い。


 つい涙が出てきてしまった。ルーク君の感情なのだろうけど、再会できて嬉しいのだ。記憶に引っ張られる心がディアナとの再会を喜んでいる。


 でだ、問題はドレイクではないってことだ。ディアナの新しい体は古竜種の中でも強いとされる闇属性を持つ黒帝竜、竜種の中では2番目に強い個体だ。


 竜種で1番強いのがまだいるのだが、それは魔獣ではなく神竜だ。属性竜とも言われ、この世界の各属性魔素の調整者とか言われている存在で、この世界のどこかに7匹いるそうだ。


「ルーク君! そ、それは君が召喚したのかね⁉」


 国王が恐る恐る用意された観覧席から再度降りてきた。


「はい。ゼノ国王様。先ほど名付けも終え、正式に俺の従魔になりました」

「それは伝説の古竜種なのか?」


「そのようですね。ステータスを見たら、古竜種の中の『黒帝竜』という種族の幼竜のようです」

「幼竜⁉ それでまだ子供なのか⁉」


 ドレイクは体高5mほどだが、こいつは10mはありそうだ。とにかく大きい。普通に2足で立ち上がると校舎の3階の位置に頭があるほどだ。


「グルルルッ!」

「どうしたディアナ?」


 ディアナが警戒して見ている方は召喚陣―――


「まだ光ってる?」


 バリバリバリッっと魔法陣がスパークして、召喚陣から白くて大きな毛玉が出てきた!


 しかも顔だけ……。


「ちと狭いな。これでは体が出てこれぬではないか! お主じゃの? この召喚陣を発動したのは?」


 デカい頭だけの白い犬が、俺を見て古めかしい学園長のような言葉遣いで聞いてきた。


「犬とは無礼なやつじゃな。妾を愚弄すると許さぬぞ」


 俺の思考が読めるのか?

 軽く俺に殺気を込めたのを感じ取ったディアナが犬の頭に噛みつこうとした。


「たわけ! 小娘ごときが妾に噛みつくなど1万年早いわ!」


「ディアナ!」


 犬っころが『たわけ!』と一言ディアナに気を放ったら、あっけなく気を失ってしまった。


「犬っころじゃと! 小僧、妾は神獣フェンリルじゃぞ! もっと敬うのじゃ!」


 神獣? なんでそんなものがここに?


「それを今から説明するので、大人しく聞くのじゃ」


 女神さまやナビーのように俺の心の声が分かるようだ。

 そして自分の前にぐったりした白い仔犬を召喚した。


「この仔は妾が先ほど産み落としたのじゃが、どうも未熟児で衰弱しているようでな。このままじゃすぐに死んでしまいそうなのじゃ」


「回復魔法で治療すればいいんじゃないですか? 【アクアラヒール】!」

「そのようなことで良くなるなら、とっくに妾がやっておるわ! 妾は神獣じゃぞ」


「それもそうか」

「衰弱は病気ではない。妾の乳を吸えないほど弱っているのじゃ。生物は食事をせねばどんなものでもいずれ死ぬ」


「そういうことか。そこで、食事が要らなくなる従魔契約を利用して、一時的に俺の魔力を養分とするのですね?」


「そうじゃ。そなた、なかなか頭が良いのぅ、気に入った」


 フェンリルって子供を産んで増えるんだ。


「そうではないが、その辺はそなたらは知らなくて良いことじゃ。でだ、お主、妾の仔を従魔として暫く養ってくれぬか?」


「その弱っている仔犬を?」

「そうじゃ、だが何度も言うが犬ではない! フェンリルは気高き狼じゃ!」


 フェンリルの前にはプルプルと小刻みに震えている可愛いワンコがいる。

 近付いて抱き上げてみると確かに弱っているみたいだ。


「でも俺は既に2匹契約しているし……」

「フェンリル様! その仔は私と契約して頂けませぬでしょうか⁉」


 ゼノさん自ら売り込みにきた!


『♪ 神獣ですからね。その仔が成長したら、単体で国が亡びるほどの存在です。神獣がこの国にいるというだけで、周辺国に牽制となり国防になるのです』


「お主ごときが神獣の主じゃと⁉ 冗談じゃない! この仔を殺す気か⁉」 


 ゼノさん、ごとき呼ばわりされちゃったよ。この国で一番偉い人なんだよ?

 でも死ぬってどういうことだ?


「どうして俺じゃないとダメなんですか?」

「妾がそれをここで言っても良いのか?」


 なるほど、全て知っている上でここに来たってわけか。


『♪ おそらくは魔素の質なのでしょう。マスターは上位世界の人間で、魂の器が違うのです。邪神に感化されない魂を持っているので、普通なら従魔になど成れない神獣とも契約できるのでしょう』


『普通の人と契約したら、栄養不足でその仔は死ぬってことかな?』

『♪ おそらくそういうことなのでしょう』


「お主がこの国の王じゃな? ほれ、そやつに妾の仔と契約するように命令するのじゃ! もたもたしてこの仔が死んだら、この国を滅ぼすぞ!」


「なにとんでもないことをさらっと言ってんの! 神獣のくせに脅しちゃダメでしょ! もう! 分かったって! 契約します!」


「そうか! 分かってくれればよいのじゃ! ほれ、早く名付けるのじゃ!」

「そうだね……名は『ハティ』フェンリルの子って意味がある名だけど――」


「ほう! それは良い名じゃ! 『ハティ』……うんうん、良い名じゃ!」


 どうやらお母さんの方は気に入ってくれたようだ。

 実は好きなラノベを読んだ時に、狼の仔に付けられていた名前なんだよね。


『♪ 弱っていて同意ができないようなので、ナビーが強制的にシステムを介してパスを繋ぎますね』


『ああ、宜しく。なんかこれって女神様が絡んでるよね?』

『♪ おそらく……ナビーもそんな気がします』


 仔狼の体が一瞬輝き、新たに従魔契約が結ばれた。


「これで我が仔も安泰じゃな! 大事に育てるのじゃぞ! 300年ぐらいしたら一度見にくるでの」


「いや、俺300年も生きられないから! エルフじゃないから!」

「そ、そうか……その仔をよろしく頼む。近いうちに見に来る」


 申し訳なさげに言い直したけど、別に気にしていないよ。人の寿命は変えられないしね。


「それよりその召喚陣、なんかさっきより更に小さくなってきてるけど、大丈夫なの? そのまま魔法陣が閉じたら首がスパンと切断されないかな?」


「ハッ! それは有り得るの。恐ろしい想像をしてしまった。では妾は元の場所に帰るとするかのぅ」


 フェンリルが首を引っ込めて帰った後の会場はシーンとなっている。

 気を失っている生徒もいるようだ。ディアナの時の気にあてられたのかな?


 ピクシーのナビーと、黒帝竜のディアナの召喚は事前に女神様との打ち合わせで決まっていたことなのだが、フェンリルの赤ちゃんまで従魔になるとは想定外だった。


 それにしてもこの仔狼、可愛いな……モコモコでモフモフだ!

 さて、気絶したままのディアナを起こしてあげないとね。


 色々事後処理も面倒そうだ。

 特に国王の目が獲物を捕らえるハンターの目になっているよ―――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る