第52話 ミーファの従魔

 学園長が獣舎の方にピッピと一緒に去った後、順次騎士科のFクラスから召喚が始まった。


『へぇ~、召喚陣の周りを囲むように騎士が4PTも配備されているんだね』

『♪ 召喚に応じてやって来る魔獣は基本大人しいとはいえ、中には契約できないと知って暴れる魔獣もいますからね。騎士と教師陣で完全包囲して安全は確保されています』


『でもS級魔獣とかが暴れたら4PTでも抑えられるか不安だね?』

『♪ 召喚された魔獣は、契約するまでは召喚陣から出られませんので、それほど脅威はないでしょう』


 なら危険はなさそうだ。動けないなら一方的な的でしかない。


 騎士科の1年生だけで150人ほどいるので、魔法科は午後からになるだろう。


 Fクラスなのだが、やってくる魔獣は殆ど下級魔獣だ。

 でも2名が従魔契約を行った。ブルースライムとホーンラビットだ。

 契約した彼がいうには、ブルースライムはこれから夏に抱き枕にして寝ると涼しいのだそうだ。ホーンラビットと契約した女の子は可愛いからだと言っていた。完全に貴族のペットだね。


 その後も召喚と送還が繰り返されているのだが、魔獣の中でもゴブリンが呼ばれた時は笑いが起こっている。呼び出した召喚者は恥ずかしそうにして送還していた。


 なんでだろう? 別に何がきたとしても、それを笑う意味が分からない。


『♪ 一応理由があるのです。呼ばれる魔獣は召喚者の気質が関係しているので、女性を襲うようなゴブリンが来た者は恥ずかしそうにしているのです』


『それでか! 理由が分かると納得だ。確かにそれは笑いたくなるな。気質が影響するのなら、「こいつエロいんだ」とか「レイプ願望があるんだ」って思っちゃうよね』



 そしてBクラスの終盤にドレイクが呼ばれたのだが、ここで問題が発生した。


「だから俺は要らないって言ってるだろ!」

「まぁ待て! ドレイクだぞ!」


 召喚した生徒が要らないから帰すと言っているのを、教師や騎士が「なんて勿体ないことを!」と送還するのを止めて契約しろと説得しているようなのだ。


「要らないって言ってるのに何で契約させようとするんだ!」

「いらない理由を教えろと言っている!」


 どっちも引かないので時間が無駄に過ぎていく。


「俺は騎士科を卒業して将来は国に仕える騎士になりたいんだよ! こんなでかいのがいたら邪魔だろ!」

「そういうことか、ルーク君ちょっといいか? 来てくれ?」


 はぁ? なんで俺? それにあんた誰だよ?

 騎士科の先生なんてこっちは知らないよ?


「何でしょうか?」

「君は竜騎士だっただろ? 少し彼に竜騎士について教えてあげてほしい」


 そういうこと? 自分で説明してやれよ……。


「君は騎士になりたいそうだが、竜騎士は嫌なのか?」

「竜騎士? それも騎士なのか?」


 竜騎士を知らないだと?

 騎士に成りたいと言ってるくせに、竜騎士知らないとかあるのか?


『♪ どうも彼は騎士すらいない開拓村出身のようですね。人口120人ほどの小さな山間部の村です』


「この国ではどうか知らないが、隣国のヴォルグ王国では竜騎士学校を卒業した竜騎士には準男爵位を与えられ、竜騎士隊の一員として職務に就ける。準男爵は1代貴族だが、騎士爵の正規騎士より格は上だし、貰える給金も騎士爵なんかより何倍もいいそうだぞ」


「ほ、本当か⁉ 準男爵に成れるのか……」

「準男爵位はあくまで入隊した時点で得られる爵位であって、普通は活躍して引退までに世襲可能な男爵位に昇爵しているそうだぞ。その辺はお前の頑張り次第だな。それに竜騎士学校は授業料免除だし、学生服や食費も全て国が出してくれるはずだ」


「マジか! 分かった! じゃあ俺はどうしたらいいんだ?」

「ルーク君、説得ありがとう。後は引き受ける。竜騎士を目指すなら、君は騎士学園から竜騎士学校に転入することになる。手続きは当学園が責任をもって行う。幸運にもドレイクを手に入れた君の将来は輝かしいものになるだろう。おめでとう!」


 会場から拍手が起こった。皆から羨望の眼差しだね。

 彼はドレイクに名前を付け、教師に連れられて去っていった。この後、彼は転校やらで色々忙しくなるのだろう。

 

 その後は相変わらずの下級魔獣ばかりで、皆、送還していた。

 あれを見た後で、下級魔獣と契約する者は1人もいなかったのだ。



 *    *    *



 昼食後は魔法科1年のFクラスからスタートだ。


 午後から国王が視察に来た。

 表向きは視察だが、本音はミーファと俺を見にきたんだろうな。ついでに姪っ子のエミリアもかな。


 騎士科より魔法科で呼ばれる魔獣の方がランクが高く、良い魔獣がやってくる。やはり魔力量と魔力の質が騎士科とは違うのだろう。


 午後の召喚で特筆するなら、Bクラスの男子がアラクネーを呼び出したことかな。

 5mほどの大きな蜘蛛の上に半裸の超美人な女性の上半身が乗っかった魔獣なのだが、この生徒は凄く迷っていた。


「ご主人、どうか私と契約してくれないかしら?」

「先生……」


「う~~む、アラクネーは見てのとおり美しい女性が主人格の魔獣だ。最初は魔獣ではなく魔族だと思われていたほど知能も高く、会話もできる。だが、魔石が体内にあるB級魔獣だ。騎乗も可能だし、アラクネーの出す糸は戦闘でも使えB級魔獣の中でもかなり強い魔獣だ。糸は高級糸として売り物にもできる。お金に困ることがなくなるという理由もあって従魔としては悪くないのだが、この魔獣は業が深い……」


「業が深い? それはどういうことですか?」


「アラクネーは何故かメスしか産まれない。そして主従になった者を伴侶として尽くしてくれるのだが……嫉妬深いのだ。そして子ができたら、己の身を子に与え喰わせる習性があるので、男は必ず残されて寂しい思いをすることになる。野生のアラクネーなら伴侶にした男を精を貰った時点で真っ先に喰ってしまうが、従魔契約した個体は腹に子を宿すといつの間にかいなくなってしまうのだそうだ。まぁ、あくまで蜘蛛の容姿の部分を男側が受け入れた場合の話だがな」


「あの、俺は蜘蛛女とそういう関係は無理です。従魔としては欲しいと思いますが」


「最初は皆そう言うんだけどな。アラクネーは本当に甲斐甲斐しく尽くしてくれるのだそうだ。今は蜘蛛部分の体を大きくしているが、小さくすることもでき、料理や掃除まで一生懸命行ってくれる。蜘蛛の部分を差し引いても、女の部分に惚れてしまうのだそうだ」


 最初は蜘蛛の部分が気持ち悪いと思うそうだが、見慣れてくると美しい女性の方が気になり始め、甲斐甲斐しく世話を焼いてもらってるうちに、すっかり惚れてしまっているのだとか……確かに業の深い生き物だ。


 男子生徒は彼女を見た……彼女と目が合った瞬間ポッと赤くなった。


 お前すでにダメじゃん! 会場中でそう思っただろう。


 B級魔獣は国の補助金が出るので生徒に負担は全くない。結局従魔にするようだ。

 従魔にしてもらった時の彼女の嬉しそうな笑顔……彼が恋に落ちるのは時間の問題だろうね。





 そしてAクラスの順番がやっときた。


 イリスはレッドスライムが来て送還。

 ナタリーはスタンプボアという猪の魔獣だが、要らないと送還。

 エリカはシルバーウルフ、結構使える魔獣だが要らないと送還。

 エミリアはラッキーラビット、側に居ると運が少し上がるそうだが、それほどレアな魔獣ではないそうで迷ったが送還。

 ミーファはフェネックに似た、額に赤い宝石が埋まっている謎の生物を召喚したみたいだ。


「「「キャー! 可愛い!」」」


 会場中が沸いたが、ミーファ自身には見えていないのでキョトンとしている。


「これは何だろう? 見たことのない魔獣だが?」

「う~ん、私も見たことないですね。これは何でしょうか? 凄く可愛い魔獣です」


 教師陣も知らないらしい。レアなのかな?


「誰か鑑定魔法を!」


「こ、これは! 聖獣カーバンクル!」


 あ~そういえば、こんな感じの奴がMMOにいたな。


 聖獣と聞いて国王が降りてきた。聖獣とかいるだけで国益になりそうだしね。


「ミーファでかした! お前ならいつか凄いのを呼び出すと思っていたよ!」


「ルーク様! この子に名前を付けてくださいませ!」


 ミーファさん、喜んでいる国王を無視ですか!


「ダメだよ、ちゃんとミーファが付けてあげないと」

「でも、わたくしはぼんやりとしか見えないので、どういった名前が合うか分からないのです」


「じゃあ、特徴を言ってあげるよ。大きさは30cmぐらいかな、あまり大きくない。キツネに似ているけど、耳と尻尾が異様に大きくて可愛らしい。毛はモフモフでとっても良い毛並みをしている。毛色は黄金色で、額に赤い宝石が埋まっている」


「宝石ですか? どんな宝石でしょう?」

「色は真っ赤で、ルビーやガーネット、いやスピネルかな?」


「スピネル? なんかそれが良いです! この子の名前は『スピネル』にします!」

「きゅぃ~♪」


 なんかこいつも気に入ったみたいだ。


 いよいよ俺の番だが、もうナビーが来るのが分かっているので皆のようなワクワク感はないな。会えるのは嬉しいけどね。

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