第58話 ダイエットにエロが加わるとめっちゃ頑張れます

 どうやら赤ちゃんのハティはまたウトウトし始めた……よく寝るね。


「神獣って生態系でいうと、どういう立ち位置なんだろう?」

「どういうことだい?」


 ふとした疑問が口に出た。ゼノさんがそれを聞いていたようだ。


「普通の動物とは従魔契約はできないのですよね? 犬や猫とか」

「できないね。魔獣としか契約できないはずだよ。普通の熊とは契約できないが、魔獣の『ブラウン・ベア』や『レッド・ベア』『ブッラク・ベア』とかとは契約できる。『キラー・ベア』とか『キラー・マンティス』とかのように頭に『キラー』が付くような狂暴な魔獣は懐かないので、テイマーでも契約できないみたいだけどね」


「でも神獣は体内に魔石がないので、魔獣ではないのですよね?」

「そう言われればそうだね。じゃあ、犬猫のような普通の動物でもないってことになるのか?」


「よく分からないですよね? フェンリルが言うには、普通の従魔契約同様に食事は要らなくなるそうですが、嗜好品は必要だと思うんですよ。味覚による食の楽しみは与えるべきだと思うので明日授業が終わったら哺乳瓶を買いに行こうかな。ペット用のとか売っているのかな?」


「テイマーにそれも聞いて手配しておこう」

「それは助かります。動物用の哺乳瓶とかどこに買いに行けばいいのかすら分からないですからね」


 ハティが再度眠ったことで、国王たちは帰るそうだ。だが、第一王妃が帰る直前にエミリアに少し厳しいことを言った。


「エミリアさん。今回は黙っていようと思いましたが、やはり言っておきます。いくら非公式の訪問でも国王の前でその首輪は不敬ですよ。あなたの事情は知っていますが、公式の場でその【認識阻害の首輪】を着けることは許しません。あなたの事情を知らない者からすれば馬鹿にしていると思われてしまいます」


「申し訳ありません伯母様。はい、公式の場では着けたりはしていません。あくまで学園に通っている時だけです」


「ですが、ルークさんの前でまだ一度も外していないのでしょう? いくらなんでも、婚約者相手にそれはどうかと思いますわ」


「カーミヤお義母様、俺は気にしていないのでいいのです。本人が見せてくれるという気になったらで良いですよ」


「そんなのおかしくてよ。あなたは仮にも結婚するという相手の、この娘の容姿が気にならないのですか?」


「気にならないと言えば嘘になりますが、怖がる相手に無理に見せろと迫るほど愚かな男ではないです。心の病には時間も必要なのです」


≪♪ 流石マスター! エミリアちゃんは良い娘なんだから、容姿なんかマスターは気にしないよね~≫


「えっ? 気にはするぞ? 性格が良い娘なんかクラスにも沢山いるだろ? どうせなら性格も容姿も良い娘の方が俺はいい」


≪♪ …………まぁ、いいわ……変な男がエミリアに近寄ってきたらナビーがやっつけてあげる!≫


「ナビーちゃん、ありがとう♪」


 やるなナビー。エミリアとはナビーが先に仲良くなりそうだ。


「ん? 学園長からメールが来た。お! 職員会議で神獣と聖獣は寮の自室で飼育して良いってことに決まったって。獣舎だと盗難の恐れがあるから自分たちで管理してほしいってさ。それと様子見で授業に連れて行ってもいいみたい。流石に騒いでうるさいようなら授業の妨げになるので、授業中は獣舎で預かることになるようだけど」


 俺とミーファに学園長からメールが届いた。


「スピネルちゃんはお利口なので、授業中も静かにしてくれると思いますわ」

「ハティはずっと寝てそうだけどね。まぁ、後2日は『召喚の儀』があるので、観覧席から見てるだけだから、この子たちの様子見には丁度良いね」


「古竜様はどうすることになった?」

「獣舎の拡張工事を国に申請するって書いていますね。授業中はそこにいてもらうことになるのかな?」


「大人しく従ってくれるだろうか?」

「どうでしょう。でも、俺は自由にさせるつもりです。人を襲うような竜なら、これまでになんらかの噂くらいにはなっている筈ですし、自由にさせておいても無害な個体だと思います」


「そうだな。下手にあれこれ強要して怒らせでもしたら、国が亡びかねない。ルーク君、くれぐれも慎重にな。古竜様が人里に現れる話は過去にいくつかあるが、従魔になった話は聞いたことがない。彼らの寿命を考えれば、人の従魔になることなどただの気まぐれなのだろうが、なるべく気に掛けて接してくれ」


「ええ、分かっています」



 *    *    *



 やっと皆が帰り、ゆっくりできる。

 さて、今から調合だ!

 

『♪ 今からやるのですか?』

『当たり前だ! せっかくアバターたちが某メーカーとほぼ同じ成分のシャンプーやトリートメントを開発してくれたのに、試さないとか有り得ない!』


『♪ 今日はアバターたちが作った物を使えばいいのじゃないですか?』

『だって本当に俺に工房内の熟練度が反映されているか試したいんだもん!』


 というわけで、テーブルの上にアバターたちが開発して判明した、この世界の素材を並べる。全て花屋と薬師ギルドに売っていた植物だね。


 ちなみに日本のシャンプーにはアミノ酸系、アルコール系、石けん系があるのだが、今回作るのは高級美容院やエステサロンなどに多いアミノ酸系シャンプーだ。


 アミノ酸系は毛髪や頭皮に対する刺激が小さくお肌にとっても優しいのだ。ただアルコール系より洗浄力が若干弱い。この世界の洗髪回数の状況も考えるとあまり適さないかもね。俺は毎日入浴するから関係ないけど。


「ルーク様? 今から何をなさるのですか?」


 イリスが、興味津々に聞いてきた。


「以前開発した、髪を洗う液体石鹸を作ろうと思う。今使ってる物は香油を付けないと髪がパサつくだろ? あまり好きじゃないんだ」


 イリスも手伝いたいと言うので、ココナッツの種を潰したり、花や植物の茎や根を細かく刻んでもらった。

 すり鉢で擂ったり、聖水で煮詰めたりで結構工程が多い。そして一番大事な決め手は錬成魔法だ。


「錬成魔法か~、私はこの部分は出来ないですね……残念」

「まぁ、正直この工程が一番大事なんだけどね。要らない成分を錬成魔法で合成する時に抜くんだよ」


「何を抜くのですか?」

「植物には意外と毒素が多いんだ。煮物をしたら灰汁が出るでしょ? あれにも毒素が多く含まれている。それを魔法で除去するんだよ」


 2時間ほどかけてシャンプーとコンディショナー、ボディーソープを2Lずつ完成させた。


「できた! 回復剤入り洗髪料だ! 早速お風呂で使ってみよう」

「ルーク様、それは普通にこれまでの石鹸のように使えばいいのでしょうか?」


「そうだけど、順番がある。先にこっちの汚れを落とすのが目的の薄水色の液体洗髪剤を使う、そしてその後にこっちの回復剤入りの薄緑色のもので、保湿と傷んだ髪の回復を行う。この白いやつは体専用だ。顔用の物もあるが、それは以前に作った物がまだ沢山あるので、今日は作らなかった」


 ナビーは洗顔石鹸や、お風呂上りの化粧水や乳液まで作っていた。『俺はそんなもの付けないのに』と言ったら、女の子の好感度を上げるためには絶対必要だと力説された。


 あれ、絶対自分が欲しかったんだと思う。


「う~ん使い方が今一分からないです。そうだ! ルーク様、私、水着を持っているので、ご一緒してよろしいでしょうか?」


 おいおい、マジですか? 襲ってくれと言っているようなものですよ?


『♪ う~ん、そうではないようです。単に自分も協力して作った物を早く試してみたいだけのようです。でも使い方が分からないので、一緒に入れば良いと考えたようですね。襲われても文句が言えない状況を自らつくるとは、ちょっと心配な娘ですね』


「水着でとか言ってるけど、俺が欲情して襲っちゃうとか考えないの? イリスはちょっとそういうの甘い娘なのか? それとも俺を誘ってるの?」


「えっ? あっ! 誘ったわけではございません! ごめんなさい。お年頃の男の子だということをつい忘れておりました」


「いや、楽しそうだったのに水を差して雰囲気悪くして悪かった。でも、自分から露出の高い姿で誘ったんだ、俺がその気になってしまって襲われても文句言えないぞ?」


「そうですね。ちょっとルーク様との距離感を間違っていたようです」


 うわ~、めっちゃしょんぼりなっちゃったよ。

 さっきまで楽しそうにしていたのに。


「まぁいい。じゃあ、お風呂の準備をして水着を着ておいで。使い方を教えてあげるから」

「えっ⁉」


「心配しなくても襲ったりしないよ。イリスがあまりにもガードが緩いから、ちょっと釘を刺しただけだよ」


「そうですか。ちょっと今回のもポイント高いです! 黙っていきなり襲っても良かったのに、ルーク様はちゃんと忠告してくれました! またまた好感度UPです!」


「イリスはほんとよく分からない娘だ……」


「そうですか? 私は年相応の普通の女の子ですよ? 自分が幸せになれるかどうかを一番に考えている打算的な女の子です」


「そうなのか?」


「では、お風呂の準備してきますね。そうだ、今日はお風呂前に筋トレしましょう。昨日はお風呂後にやって汗搔いちゃって2度手間でしたからね。今日は先にして、お風呂後にマッサージ修行をしましょう。これが一番効率が良いです」



 *     *     *



 お風呂の準備に行って帰ってきたイリスは、青いビキニ姿だった―――


 例のごとく腹筋時に足を押さえてくれているのだが……これは昨日以上にダメなヤツだ! 起き上がる度に、目の前の大きなメロンがプルプル揺れるのだ!


「イリス。お前、俺がさっき言ったこと分かってないだろ! なんだその美味しそうなメロンは!」


「メロンって! だってルーク様は非効率なことは嫌いだって言ってたじゃないですか。だから少しでも効率よくなるように私は考えたのです」


「確かに食事を一緒にとれと命令した時に言ったけど……そんなゆさゆさ揺らして! 俺に襲われても文句言えないぞ!」


「さっきと違い、今回はそれでもいいかと覚悟の上です!」


 マジですか⁉


『♪ う~~~ん、確かに覚悟の上のようです。イリス的には、マスターは結婚相手としてこれまでの中ではダントツ1位のようです。決め手はやはり使徒として神獣と古竜を手に入れたことですね。打算的という言葉をこの娘は良く使いますが、自分を幸せにしてくれる相手かというのが一番大事のようです』


 俺は幸せにしてくれそうだと判断してくれたってことか? こんな可愛い娘がそう思ってくれたと考えると凄く嬉しい。男冥利に尽きるというものだ。でも、やっぱ俺個人と言うより、使徒という福利があってのことなんだね。


 『据え膳喰わぬは漢の恥』と言うが、今はその時じゃないと思う。

 生前の俺なら頂きますしていたと思うが、この世界では貴族のしがらみというものがあるのだ。決してイリスが可愛過ぎてビビっているわけじゃない。


「う~~む……正直もう襲っちゃいたいが、我慢する」

「そうですか? 正直それを聞いて安心しましたが、ひょっとしたらと覚悟を決めていたので少し残念でもあるという不思議な気分です」


「ミーファのことがあるからな。ミーファの告白を受け入れたのだから、ここで先にイリスに手を出すのはちょっと不誠実だろう? 今、イリスに手を出して、もしそれをあの娘が後で知ったら、多分相当複雑な感情を抱くことになる。特に俺よりイリスに対して不快な気分になるんじゃないか? 最悪険悪な感情を抱いたりして、イリスのことを嫌ったりするんじゃないかな?」


「そのとおりです! 危うくミーファ様に嫌われてしまうところでした! 今回の件もポイント高いです! ルーク様は凄く周りに配慮ができるお方なのですね。今日だけでルーク様の好感度MAXです!」


 イリスに完全に好意を持たれたようだ。だが、それゆえに『痩せろ』と筋トレがスパルタじみてきた。


「26~(ぷるるん!)、ハイ! あと4回! ルーク様頑張って! もう少しです! 27~(ぷるん!)」


 相当きつい! だが、目の前のプルンプルンがある限り、俺はやる気MAXだ!

 辛いだけなら持続しないが、そこにエロが加わると男は違うスイッチが入って体力以上に頑張れるのだ!


 イリストレーナーのビキニダイエットは素晴らしい!


 *************************************************************


 お読みくださりありがとうございます。


 今回のイリスの急接近。まだ早いかなとも思いましたが、この世界の結婚事情を考え、イリスが伯爵家の長女ということもふまえると―――


 公爵家+王家+使徒+古竜+神獣=超美味しい嫁ぎ先


 という結論になります。そこにルーク君の人柄を加味して、イリスが靡かない理由がないかなと……


 賛否両論あるかと思いますが、イリスちゃんを応援してあげてください。

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