第47話 ミーファの目の秘密が分かりました

 3時限目は散々だった。

 基礎体力作りの体育が月・水・金曜の3時限目にあるようなのだ。


 週3回……痩せたいので運動は大歓迎なのだが、皆と一緒にやると悪目立ちしてしまい、今日のように恥ずかしい思いをする。


 俺が通っていた竜騎士学校にも体育はあったが、きつくはなかった。だって竜騎士の足はドレイクなのだ。自分で走る必要などないからね。竜騎士は徒歩による行軍なんかしないのだ。


『♪ 騎士科にでも入れられていたら、こんなものではなかったですよ』

『だろうね……』


『♪ マスターは自分のことを筋肉量が少ないと思っているようですが、筋肉量は一般人より多いくらいです』


『そんな訳あるか! ヤワヤワで力こぶなんかでないぞ!』


『♪ 全身にまんべんなく肉のダンベルを75㎏も付けた状態で何年も過ごしているのですよ? 常時リストウエイト・アンクルウエイトを付けて過ごしていたようなものです。亀の甲羅いらずですね』


『亀の甲羅って、そういうの言っちゃダメだから! 亀の甲羅背負った白い髭の仙人に修行つけてもらってないから!』


 でも、そういわれれば同年代の男子よりは力は強いのかもしれない。

 修行しまくっている兄や騎士たちしか俺の周りに居なかったので分からなかったが、このクラスの魔法っ子男子と比べたら力は俺の方が強いのかな。


『♪ 筋力は何もやっていない者よりはあるのですけど、持久力が壊滅的なのです。なので、今の筋肉の質を高めつつ量も増やし、脂肪を落とすのが課題ですね。肉の重りが取れると、必然と持久力やすばやさ等も上がるでしょう。減った脂肪の分、ウエイトを着けて維持するのも良いかもです』


『なるほど。元の重さと変わらないなら違和感なく加重トレーニングができるってことか……』



 *    *    *



 4時限目は魔力操作の訓練だった。


「ルーク君、事前にもらった資料では、魔力操作は優秀だったと記載されている。君の【魔力操作】の熟練レベルが幾つなのか教えてもらっていいか?」


『ナビー、教えた方が良いのか? 成績を評価するには知らなきゃ点は付けられないよな? あまり人前で自分の能力は晒すべきではないと思うのだが』


『♪ 教える必要はありません。評価は熟練レベルとかで判断するものではなく、与えられた課題をクリアすることで得られるのです』


 攻撃魔法や所持している補助系魔法が全て公開されてしまうと、対人ではかなり不利になる。火魔法が主属性の者には水や土毒性の者をぶつければ簡単に制圧できてしまうのだ。俺のような王族は決して晒してはいけない。


「エリック先生、俺の国の竜騎士学校では、信用できる仲間以外に自分の熟練度を晒すのは愚かな行為としていましたが、この国の学校では違うのですか? 俺のような王族は細心の注意を払えと散々教えられたのですが?」


「すまない、この国でも勿論そうだ。パッシブ系のものなので安易に聞いてしまったが悪気はない。実技授業は班行動なのだが、課題がクリアできた者は自由に行動してよいことになっている。なので、魔力操作が得意なら班員で苦手な者がいたら指導してあげてほしいと思って聞いたのだ」


「そうでしたか。得意ってほどではないのですが、それなりに上手い方だと思います。でもうちの班だと、すでに全員課題はクリアしてそうですけどね」


「エリカさんは問題ないだろうが、ミーファさんはどうなのだろう?」


 ナタリーとエミリアのことは授業で把握しているだろうし、イリスは卒業生なので聞くまでもないか。


「わたくしは生まれつき目が悪いので、もとより学園には通わないつもりでした。なのでそういう練習をしたことがないのです。レベル上げとかも行ってきていないので、種族レベルも低いですし、魔法の熟練レベルも殆どありません」


 ミーファはほぼ平民並みの熟練度っぽいな。


「エリック先生、ミーファの指導は俺が行います」


「いいだろう。でも、分からないことがあればすぐ聞いてくれ。その為の教師だからな。1学期の課題は魔力操作の扱いだ。試験内容は、どんな属性でも良いのだが、火属性ならロウソクの炎を指示した方向に揺らせれば満点評価で合格だ。水なら指示した方向に水流を作れば合格―――と、各属性はこんな感じだ。1年次の最終課題が初級魔法の発動なので、今時点で初級魔法が放てる者は、魔力操作の課題もクリアとし、授業中は好きなように自己修練を行っていいことになっている」


「先生~、初級魔法が撃てる人は何をやってもいいのですか?」


「ああ、1年次の課題はそれでクリアなので、何をやってもいい。午前の座学で習ったことを一通りやってみて、自分の一番適した属性を見つけるのも良いぞ。自分の適性は水属性と思い込んでいた人が、実は火だったってこともよくあることだ」


「そんなことあるんですか?」

「初めて発動できた生活魔法を自分の主属性だと勘違いしてしまう者は意外と多いぞ。後になって習熟速度や魔法威力が違うと気付いて、実は適性の低い属性の熟練度を必死になって上げてたって落ち込んでた奴は毎年いる。そうならないために得意属性を早めに調べておくと良い」


「「「はーい」」」


 先生の挨拶の後、各班に分かれて個別練習が始まった。


 周りを見れば各班ごとに別れて、班ごとに違う練習を行っているみたいだ。

 先生たちは呼ばれたところに赴き指導する形を取っている。



 ちなみにこの班のリーダーは俺になっている。卒業生のイリスが適任だと俺は主張したのだが、「師匠をさしおいて、リーダーとか有り得ません!」と拒否された。



「ミーファに指導するって言ったけど、多分ここの教師と教え方は色々違うと思う」


「はい。ルーク様の方針で教えてくださいませ」

「分かった。イリスは聞くまでもないか」


「はい。私はルーク様の指導が受けたくて弟子入りしたのです」


「イリスの【魔力操作】のレベルはいくつだ?」

「えっ? 言うのですか? さっき先生に軽々しく言っちゃダメって……」


「師匠が弟子のこと知らないでどうやって指導するんだよ。後で【ステータスプレート】でステータス全部晒して見せてもらうからね」


「ふぇ~、それはちょっと恥ずかしいです。裸を晒したような気分です」

「イリスが何を言っているのか分からない」


「おそらく自分の全てをさらけ出すって意味でそう言ったのでしょう」

「ミーファ様その通りです!」


「で、幾つなんだ?」

「レベル4です。もうすぐ5に上がりそうな感じがします。結構凄いでしょ? 3年間アルバイトで神殿に通って、回復魔法を実地練習しましたからね」


「へぇ~まぁまぁだな。俺の【魔力操作】はレベル6。もうすぐレベル7になる」

「レベル7!」


 イリスさん! デカい声でなんてことを!


「お喋りな口はこの口か! 弟子のくせに師匠の秘密を軽々しく大声で言っちゃう可愛い口はこの口か?」


「ごめんなしゃい! い、いたいでしゅ!」


 ホッペを摘まんで、イリスの口を左右に引っ張ってやった!


「イリスの修行方法は間違いではない。熟練度を上げるには実際に使って上げるしかないんだ。ただ、コツがあるんだよね~」


「そ、それが知りたいのです! なぜ私の方が3年も早く修行しているのに熟練度にこれほど差があるのですか? レベルが高くなるほど、凄く上がりにくくなるのですよね?」


「早くって何歳からだ? 俺は6歳か7歳ごろからだよ」

「「「そんなに早くから!」」」


「まぁいい。イリスとミーファの主属性は聖属性だよね? ある意味1番上げやすいんだ」


「「「エッ?」」」

「ん? どうした? 何か変なこと言ったかな?」


「ルーク様、わたくしの主属性は聖属性ではないのです。おそらくは髪色で判断されたのでしょうけど、わたくしの主属性は水>雷>火です」


 確かにミーファの髪色で聖属性と判断していた。


「うわ~また歪な……火と水は相性悪いし、水と雷も相性が悪い」


 あれ? 真っ白な髪に青い瞳、色白で弱視、これってあれだよな?


『♪ アルビノ。生まれつきメラニン色素をつくる機能が損なわれている遺伝的なものですね。この世界でも約2万人に1人の割合で生まれるようです』


『治療法は? 目を治してあげようと思っていたのだけど……』


『♪ アルビノの治療法は今のところ発見されていません。これ以上進行することはない病ですが、紫外線に弱いので、これから夏になると注意がいるでしょう』


『目は治らないのか、でも治せそうな気もするんだよね』

『♪ どうやってですか? 現代医学でも治せませんよ?』


『いや逆にこちらの世界だから治せる可能性があるんだよ。種族レベルが40を超えると、特殊スキルが覚えられるようになるだろ? その中に【部位欠損治療】ってやつがあるんだよ。現代医学と魔法を駆使すれば治ると思うんだよね……』


『♪ 可能性はありますね。でも、部位欠損魔法は先天性のものには効果がないですよ』


『とりあえず目に関する構造や治療法を調べておいてくれるか? どのみち今はレベルが足らないので挑戦すらできないからね』


『♪ 分かりました』



 それにしても相性が悪いものばかりだな―――

 この世界の魔法は中国の五大元素系魔法の五行思想と少し違うんだよね。


 『木』・『火』・『土』・『金』・『水』ではなく、『風』・『火』・『土』・『雷』・『水』なのだ。関連性も違うしね―――




「やはり変ですか?」

「変というより損してるんだ。相殺してしまう属性より、効果を高める属性の方が良いからね。例えばこんなふうに―――」


 俺は風魔法の【ウィンドボール】を出した後に火魔法の【ファイアボール】を出して【ファイアストーム】につくり変えた。


「「「凄い! 【無詠唱】で【複合魔法】!」」」


「って、ミーファには見えないから分からないか」

「いえ、緑に赤を混ぜて、より大きな赤になりました! 風と火を混ぜてより効果の高い範囲魔法にしたのですね?」


「君の目はやっぱ違うものが見えているんだね?」

「はい。わたくしは魔力が色で見えるのです。あと感情も色に現れるのでそれも見えています」


 感情もか……。

 嘘がばれたくないからと言って黙っていても、ミーファにはなんとなく色でばれちゃうのかな。


 嫌われたくないので、誠実でいるよう気を付けよう。


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