第48話 国王様がやってきた!

 ミーファの目はアルビノの人に多く表れる特徴のものだった。


 部位欠損治療の魔法がこの世界にはあるのだが、この凄い魔法にも欠点はあるようだ。先天的のものはそれが通常状態と認識され、欠損扱いされない為に治らないようなのだ。あと、怪我後あまり年数が経ち過ぎたものも、本人の感覚自体が既にそれが通常状態になってしまっているために再生不可能になるようだ。


 この部位欠損魔法の習得が可能になるのがレベル40程度のようなので、どのみち暫く先の話だね。


「ルーク様、【魔力操作】の熟練度を効率よく上げるコツを教えてください!」


 ボーっと考え事をしていたら、イリスに早く教えろとせっつかれてしまった。


「分かった。コツはね……『とにかく使え!』だ! 何のことはないんだ」

「「「えっ⁉ そ、それだけですか⁉」」」


 班員全員に突っ込まれたが、それしかないのだ。


「みんな『そんなことは知ってますよ!』 みたいな顔してるけど、知ってるだけで実際実践してる人は少ないと思うよ。俺が言っているのは、『常に使え!』『ずっと使え!』『寝てても使え!』ってことだよ? こうやって言ってる今も使えってことだよ?」


「「「えっ???」」」


「よく分かってないようだね? 聖属性が上げやすいっていうのはね、生活魔法の【ライト】があるからなんだ。【ライト】は攻撃魔法じゃなく、ただ光を灯すだけだけど、魔力の込め方次第で光量調整ができるんだ。それを24時間常時発動してろって言ってるんだ」


「24時間ずっとですか?」

「そう、ず~~と常に出して、暇がある都度意識して光量調整したりするんだよ。最初は10分ぐらいで消えちゃうんだけど、【魔力操作】の熟練度が上がると1時間以上1回の魔力量で持続できるようになってくる。今の俺だと一度発動したら8時間は持続できる。火や水だと、寝ている時に火事になったり水浸しになってたりする可能性もあるので、睡眠中はちょっと厳しくなる。まあ最初は寝て意識が途切れた時点で魔法は解除されてしまうけどね」


「そういう理由で【ライト】が良いって言ったのですね? ちなみに他の系統はどうすれば良いのですか?」


「火が主属性の者なら【ファイア】ではなく【ホット】を発動かな。【属性付与】の魔法があるのであれば石にでも付与して、その石の温度調整をするといい。水なら【アクア】ではなく【クール】の呪文で、これも石に発動かな。まぁ、付与持ちは少ないから、普通は自分自身に発動すればいい。土属性なら紙の上に砂鉄を撒いて、紙の下から砂鉄に自分の魔力を流して操るだけでも操作向上になる。常時発動するなら【ストーン】でコマをイメージして作って、それを止まらないように回転させ続ける練習かな。風は【エアー】雷は【サンダー】、闇は【フロート】―――とにかく魔力量を節約するなら生活魔法を使って常に使い続けるのが大事だね」


「それだけで【魔力操作】の熟練度が上がるのですか?」

「そうだけど、意外と難しいよ? 俺は【ライト】で練習したから比較的楽だったけどね。24時間ってのがネックなんだ。やっぱ寝ている時は意識が途切れるので、事故が起きそうな魔法は発動したままにはできないからね。得意属性で常時発動していれば、属性の習熟効率も良くなるという福利もあるんだよ」


 自分の主属性の生活魔法を使いまくれと指導している間に授業が終わった。


 今日はなんかバタバタしている間に1日が慌ただしく終わった感じだ。


 *   *   *


 毎食の食事を俺の部屋で食べることになったので、班員全員が夕食時に訪ねてきている。やっぱりちょっと緊張するな~。


 来るかどうか心配していたけど、エミリアもちゃんときている。『やはり無理です』とか言われていたら正直ショックだったので少し安堵した。意外と俺は小心者なんだよね。



 明日の『召喚の儀』でどんな魔獣が来るのか楽しみだと食事しながらワイワイやっていたら、部屋をノックする者が現れた……誰だろう?

 4階に入れるのは、護衛の衛兵、生徒会の者、教師しかいない。


 イリスがすっと席を立って扉に向かう。その後ろに、いつの間にか剣を出して手に持ったナタリーが着いて行く。エリカは俺たちの中間に立って同じように剣を手にしていた。


 凄いな。何時の間に話し合ったのか、既に連携ができている。

 剣は鞘に収まっているが、2人ともいつでも抜ける体勢だ。


 3人が目線で合図したらイリスが扉を開いた。


「お待たせいたしました。どちら様でございましょうか?」


「夕食時にアポもなしに尋ねてきて申し訳ない」

「ふぇ? こ、国王様⁉」


 イリスの何とも間抜けな声が部屋に響いた。


「お父様?」


「ああ、どうしてもルーク君に早く会いたくて来ちゃった」


 来ちゃったじゃね~よ!

 ミーファの「来ちゃいました」と違って全然可愛くない!

 イリスとエリカとナタリーはさっと片膝ついて頭を垂れ、最敬礼の姿勢を取った。


「入って良いかな?」

「ど、どうぞお入りくださいませ!」


 イリスちゃん……主は俺なんだけど……俺に許可を聞く前に入れちゃうんだね。


『♪ 仕方ないでしょう。なんたってこの国の王様ですし、ほら、早くマスターも礼の姿勢を取ってください』


 そうだな。


「プライベートな訪問だ、楽にしてくれたまえ」


 王はすぐに皆を立たせた。

 王の後に綺麗な女性が入ってきた。そして騎士が数人。


「お前たちは少し外で待っていろ」

「ですが!」


「よい!」

「分かりました」


 騎士の1人がちらっとこちらを見てから部屋を出て行った。

 殺気はなかったけど、国王に何かしたら許さんって眼だったね―――


 俺はもう1つテーブルを出し、椅子を2つ用意して上座に置き、国王と王妃に席をすすめる。


 念のために2セット買っといて良かった。


「すまないな。ミーファの父のゼノと言う。まず先に王としてではなく父として君に礼を言いたい。ミーファを賊から助けてくれて本当にありがとう!」


 めっちゃ深々と頭を下げてお礼を言ってきた。王は人に頭を下げないものなのだが、これは驚いた。横では王妃も同じように頭を下げている。


「頭をお上げください。ルークです。お初にお目にかかります」

「うむ。いろいろ急にあり過ぎて困惑していると思うが、ミーファの件についてどうしても俺自身で確認したくて、アポもしないで来てしまった」


「ルークさん、ごめんなさいね。わたくしもゼノが行くと聞いたので、強引についてきちゃいました」


 ミーファに似て可愛い人だ。

 この人も少し髪色が薄い……白というより金髪かな。


『♪ この人もアルビノですね。ミーファのように重いものではないようです。光に弱いですが、目もしっかり見えているようですし、特に生活に支障はないですね』


「ルーク君はミーファを受け入れて結婚してくれるそうだが、ミーファの特性のことを十分理解した上での判断なのか不安になってね」


「お父様! 心配下さるのは有り難いですが、大きなお世話です!」

「ミーファ、大事なことなのです。後で傷つくのはあなたなのですよ」


 お母さんも凄く心配なのだろう。

 でも、お付き合いをしましょうって話はしたけど、なんで結婚するところまで勝手に話が飛んでるの!


『♪ 王族同士のお付き合い前提ってなると、イコール結婚なのは常識でしょう。お互いに相手国の顔を潰すことになるので、余程の事情がない限り婚約破棄とかは有り得ません』


『そうなのか……』


 でもお相手がミーファなら良いと思ってしまう。彼女が『うふふっ』と笑う姿をもっと見たいと思ったのだ。


「彼女には全ての嘘がばれちゃうという特性のことですね?」


「イリス君、君も少し席を外してもらえないかな?」

「は、はい。分かりました」


「あ、ちょっと待ってください。国王様、イリスも同じ班員で俺の侍女になった者です。彼女に隠し事をするような話なのでしたら、俺もあまり聞きたくないのですが」


「一応君の為を思ってのことだったのだが、君が良いのなら問題ない」


『何のことだろう?』

『♪ あらら、この国王には色々ばれちゃっていますね。まぁ、問題なさそうです』


 心が読めるナビーが良いと言うなら問題ないのかな?


「でだ、ミーファのことなのだが……良いのだな?」

「はい。凄く可愛い娘で、正直こんな可愛い娘とお付き合いして良いのかこっちが不安なくらいです」


「うふふ、嬉しいですわ♪」


 グハッ! なんて素敵な笑顔をするんだ! 可愛すぎる!


「う~~む、ミーファがこのような笑顔を……嘘がない証拠か……ルーク君、正直に言うが、父親の俺ですらミーファのこの能力はちょっと怖い。兄姉たちは歳を重ねるごとにミーファを恐れるようになり、最近は一緒にいるところを全く見なくなった」


 ミーファの笑顔がさっと消えてしまい、沈痛な面持ちになった。


「そうでしょうね。人は嘘を重ねて生きていますから」

「君は不安じゃないのかね?」


「俺は現状『オークプリンス』とか言われていますからね。嘘を吐いてまで、今更見栄を張る必要がないのです。これ以上ないってくらい評判悪い俺を好きって言ってくれるなら、ふてくされて怠惰な生活をするのは止めて、少しは彼女のお相手として相応しい男になれるよう頑張ってみようかなと……。それに、ミーファに嘘が吐けないなら、最初から言わなければ良いだけですしね」


「ふむ。それが一番難しいのだがな……。それにしても、怠惰な生活を止めると言うのか、それは素晴らしいな!」


「あの、俺からも聞きたいことがあるのですが」

「何かね?」


「ガイル公爵ではなく、ゼノ国王が一番俺の婿入りを推したとのことですが、それはなぜですか? この国に少ない聖属性の血統を獲得するためですか?」


「聖属性持ちなら少ないながらでもいる。君は5属性持ちだろ? 我が国には1人もいない。後天的に努力して5属性手に入れた者は居るが、それは継承しにくいのだ。先天性的に生まれついて持ってきた者と比べると血統継承する率が全く違ってくる。それに君が噂と違い優秀なのは知っている。例えば錬金術・錬成術・付与魔法・薬学……君の師匠はかの高名な大賢者エドワード様なのだろう?」


 マジで全部バレてる!


 師匠のことは宮廷庭師として秘匿されている筈なのに。


「我が国の宮廷内に間者が居るようですね」

「それはお互い様だろう? 君の父君も知っていてうちの放った間者を放置しているからね」


「その感じですと回復剤のことも知っているようですね? ですが―――」

「知っているが、君に強要する気はないので安心したまえ。君の父君も知っていたが、敢えて触れずに知らん顔をしていたみたいだしね。俺も君の父君と同意見だよ」


「えっ? お父様が知っていた?」

「なんだ……ルーク君は隠し通せていたと思っていたのかね? 隣国の俺ですら知っているのに?」


「なぜお父様は知らないフリを?」

「おそらくだが、君が隠そうとしていることを下手に言ってしまうと、君の機嫌を損ねて一切作らなくなると思ったのではないのかな? 君が回復剤を大量に作って神殿に卸している間は、国内の品不足がその分少しでも改善されるし、君は神殿に寄付もしていただろ? 国の王子が毎月多額の寄付をするのだ、それだけでも国と神殿の関係は良くなるというものだ。作れと言わなくても勝手にやってくれるなら、俺もそうする。この国でも作る予定なら全面的に支援するし、強要もしない。好きにしてくれていい」


 そうか、あの親父、知っていて知らんフリを……その上で俺を隣国に売ったんだな。

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