第45話 学園内での従魔の扱い

 国王と学園長の間で話し合った結果、安全面を考慮し、俺とミーファとエミリアが一緒の班になることになったそうだ。


 どうやら授業の一環として野外活動などで魔獣を討伐したり、ダンジョンに行くこともあるようなのだ。野外授業では冒険者や騎士が護衛に付くそうだが、それでも万が一を考え、戦闘力の高い従者を従えている俺たちを1つの班にまとめたかったみたいだ。


『♪ ミーファの暗殺も考慮したようですね。貴族の中には1級審問官の資格を持つミーファのことを恐れている家もあります。暗殺の可能性がないと言い切れません。この班決めは最善でしょう』


『学生を使った暗殺だと、守るのは難しいね』

『♪ そこはナビーにお任せください。不自然な動きを見せた者に対し、すぐに背後関係をユグドラシルシステムを使って調査し、危険と判断したら即お知らせします』


『調査してる間に刺されるんじゃないか?』

『♪ 神のシステムですよ。秒もあれば終えますので、敵の射程に入る前に調べられます。あ、ちなみにこのクラスの者たちは一応確認済みで安全です。王家に不満を持っている家の子はいますが、本人には悪意等は全くないようです。あくまで現状ですので、一度調べたからと警戒は怠りませんのでご安心ください』


 マジでナビーちゃんは優秀だな。


『そういう事前調査的なのは、今後もお願いするよ』

『♪ 了解です』


 先生から明日の『召喚の儀』の説明が始まる。


「明日から『召喚の儀』は3日間続けて行われる。1年生は明日の初日に執り行われる。貴族の者は知っている人も多いと思うが『召喚の儀』は毎年1回3日間と決まっている。行われる場所は神殿にある魔方陣、学園にある魔方陣、王城にある魔法陣、冒険者ギルドにある魔法陣の4カ所だ」


「先生、その魔方陣はそこ以外にはないのでしょうか?」

「どうだろう? 大掛かりな魔方陣を描く必要があるので、個人では厳しいと思う。なぜ年に1回、3日間の間だけかというと、実は詳しく分かっていない。この3日の中日は丁度夏至にあたるのだが、ようは夏至の前後1日間が召喚可能ってことだな。異空間の状態だとか星の巡りとか、魔獣とのパスが繋がりやすくなるからとか色々言われている。3日間という期日があるので、スムーズに行わないといけない。2日目には2、3年生が行い、最終日には一般の者も学園に挑戦しに来るからね」


 一般人もやるんだ。


『♪ 学園生は無料ですが、一般受付はどこも予約制で、1万ジェニー支払う必要があります』


『金取るの?』

『♪ 維持費が要りますし、無償だとお遊び感覚で魔獣を従魔にする気もない人まで訪れるようになります。一応成人している者しか挑戦できないので、16歳以上という年齢制限がありますが、皆が挑戦しに来ても3日間の間に捌ききれるものではないですからね』


 なるほど。お金を取る事で、冷やかし予防にもなるのか。



 先生は幾つか注意事項を教えてくれた。


1、召喚した魔獣は、従魔契約を結ぶと、以降の食事が必要なくなる

(但し、以降の食事は主人の魔力となるため、従魔に与える魔力は常に残しておく必要がある)

2、従魔にした魔獣の粗相は主人の責任になる

3、学園の獣舎を貸し出すが、魔獣に応じた世話代が生じる

4、小さな従魔で、安全試験に合格すれば傍らに置くことができる

5、従魔となった魔獣に虐待しているのが発覚すると、国の法で罰せられる

6、召喚後は契約するか、送還するまで絶対気を抜かないこと

 (契約前に下に見られると稀に襲ってくるそうだ)


 他にも細かい決めごとがあるようだが、それは召喚に成功し、所持すると決めた者たちだけで個別授業があるそうだ。


「エリック先生質問です!」

「何かねルーク君?」


「学園内で従魔を連れ歩いている人を1度も見ていないのですが、召喚に成功した人はあまりいないのですか?」


「いや、大抵何かは呼び出せる。だが契約する者は殆どいないのが現状だ。魔獣は召喚者の魔力に惹かれて自ら現れるのだが、1年生が呼び出せるのは大抵スライムだ。戦力にならないし知能も低いので、下手したら誰かに危害を加えて責任問題になりかねない。ようは召喚される魔獣が雑魚過ぎて邪魔にしかならないって話だな」


「スライムですか」

「今からそういうのも説明するので、皆もしっかり聞いてほしい。おそらく殆どがランクの低い下級魔獣がやってくる。安易に契約すると、先に述べた2番の項目に該当して最悪死罪も有り得るのでよく聞いておくように」


 死罪?


『♪ 仮に召喚した知能の低い魔獣が、王族のマスターやミーファに襲い掛かって大怪我でもさせたら、召喚獣の主は死刑ですね』

 

「呼び出された魔獣は契約すると格段に知能が上がる。どうも契約者の知力に比例しているようなので、知力が高い者と契約した魔獣は賢くなるようだ」


 へぇ~、そういえば俺、結構知力と精神と運の数値は高かったから期待できそうだ。まぁ来るのはナビーちゃんだけどね。


「本来魔獣は人を襲う凶暴な生き物だが、召喚で呼び出した魔獣は何故か比較的大人しい。知能が低い魔獣でも長年調教すると意思疎通もできるようになる。だが、従魔の餌は主人となった者の魔力だ。3年生の中には1人で5匹所持している者もいるが、ジョブに【従魔使い】というものを獲得していて、餌となる魔力消費がかなり少なくなるから多重契約が可能なのだそうだ。普通、特殊な恩恵を持っていない限り多くは契約しない。使えない魔獣が来たらそのまま『送還』するように」


「先生、これまで学園で召喚された魔獣の中で1番凄いのってなんですか?」

「う~ん、やはりドラゴンかな? 6年前に土竜の成竜が呼び出された。あとはドレイクやワイバーン、火トカゲかな。大昔にオークジェネラルが呼び出されたこともあるそうだ。人語を理解して喋るほど頭も良く、かなり強くてとても役立ったと記録されている」


「「「オーク!」」」


 全員何故こっちを見る!


 俺は君たちと違って、ナビーちゃんを呼ぶの確定なんだからね!


「オークは結構召喚されるのだが、契約する者は少ないな。知能は高いが、契約者の命令しか聞かないので扱いが面倒なうえに性欲が強く良くトラブルを起こす。上位種ならともかく、普通のオークだと多少の戦力にはなるがお薦めしない。オークを従魔にするくらいならホーンラビットの方が有用だ。可愛いし懐くと良く言うことを聞く」


 先生が色々教えてくれた。小型で知能が高い魔獣は連れ歩いて良いそうだが、戦力にならないので殆ど契約されることもなく返されているから見かけないようだ。


 戦力になる大型魔獣は獣舎で預かり、午後からの実習や野外活動の時には連れていていいそうだ。



 この騎士学校の魔法科の授業は月曜から金曜まで、午前中に座学2時間、午後より実技2時間の計4時間が授業時間になっている。2年次は午後の実技が3時間になるそうだ。


 HR予鈴   9:00

 HR     9:10~9:30

 1時限目  9:45~10:45

 2時限目  11:00~12:00

 昼休憩   12:00~13:30

 3時限目  13:30~14:30

 4時限目  14:45~15:45

 HR     16:00~


 1年次の実技の授業時間が2年生より短いのは、MP総量の少ない1年生に長時間の実技指導ができないからなのだ。MP総量を増やす指導を行い、生活魔法や初級魔法を覚えるのが1年次の課題だそうだ。



 というわけでお昼休み―――


「イリス、学食に行ってみたい!」

「ダメです!」


「なんでだよぅ~。先生が500ジェニーで結構美味しいって言ってただろ。ここは学園生として、1度食べてみる必要があるんじゃないか?」


「ルーク様が学食に顔を出したらどうなると思います?」

「えっ? どうもならないでしょ?」


「『あれが噂の「オークプリンス」よ!』と良い見世物になると考え付かないのでしょうか?」


「いや、それは何時ものことだし、今更気にしてもね。俺、既にクラスでも浮いちゃってるし……」


「なかなか図太い性格をしていますね。でもダメです」


 イリスに却下されてしまった。


「エミリアはいつも食事はどうしているんだい?」

「わたくしが寮でお作り致しております」


 侍女のナタリーが作っているのか。


「やっぱそうなのか……う~ん」


「あの、ルーク様、宜しければミーファ様もそちらで御一緒させていただけないでしょうか? 私、実は全くお料理したことなくて……」


 エリカちゃんが顔を赤らめて、言いにくそうに俺にお願いをしてきた。


「ああ、そうか。エリカは本来学校用の従者として学んだのではなく、王城の御付きだったね。お城には宮廷料理人がいるから、料理なんかする必要ないよね」


 エリカは急に学園行きが決まったのだ。何年もかけて学校用に修行してきたイリスたちと学んだ技術が違ってくるのは当然だ。


「はい。私は学食で食べますので、ミーファ様のお食事をイリスねぇ……イリスさんにお願いできないでしょうか?」


「イリスどうかな?」

「はい。姫様のお口に合うか分かりませんが、お任せください。エリカも学食ではなくご一緒しましょう。多少人数が増えたところで、手間暇はそれほど変わりませんのでご遠慮なさらずに」


「ありがとうございます」


「ナタリーが作れるなら、エミリアもきて一緒に食べたらどう? イリスとナタリーで調理できるから、2人の手間も時間も半分に減らせるんじゃないかな?」


「…………」

「ああ~、無理はしなくて良いよ」


「ナタリーはその方が負担が少なくなるの?」


 エミリア、俺の質問には無言なのに、ナタリーとはやっぱ普通に話せるんだね。


「はい。それはもう格段に! 毎日お作りする料理のレパートリーも増えますし、食材の買い物も事前に話し合って決めておけば負担は半分で済みます。調理時間も後片付けも分担できるのでかなり楽になります」


「わ、分かりました……。ではわたくしもご一緒します」


 ナタリーちゃん、中々エミリアの扱いが上手いな。

 俺がいるからエミリアが嫌がるだろうと分かっていて、自分の負担が減るのを強調し、彼女の優しさにつけこんで上手く誘導したね。


『♪ このまま何もしなければ、男性恐怖症も改善しませんからね。ナタリーは少しでもマスターに慣れてもらおうと考えたようです。エミリアのことをとても大事に思っている優しい娘です』


「エミリア、辛いと思ったら無理はしなくて良いからね。それで、誰の部屋で食べるのかな? 目の悪いミーファの負担を考えたらミーファの部屋が一番良いのかな?」


 どこで食べるかの話になったが、男子の俺が女子寮に毎食入るのは問題があるとのことで、食事は俺の部屋で食べることになった。

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