第44話 班のメンバーが王命で決まっていました

 ミーファ乱入でフォレスト家との婚約に問題が発生したため、俺の自室で各家の当人たちで話し合いを行った。


 古くからある貴族の風習というか慣例のようなものの中に、16歳から18歳の学生期間中に自ら結婚相手を見つけてきたら、親は余程家格に見合っていない不相当な人物でない限り認めないといけないというものがある。まぁ、あくまで慣例であって法的に子供の意思が守られているわけではないのだけど……俺のようにね。


 ミーファは学生ではないものの、その慣例を利用して自分で探したお相手と結婚したいと親に申し出たという訳だ。そして、あぶれたエミリアが不幸にならないように3人で話し合った結果が、『婚約という形を取って問題の先延ばし』をするだ。


 当人同士が決めた相手を親が同意すれば婚約は成立する。そうなると他家は余程の家格差がないと介入できない。王族の俺が横恋慕して、伯爵家の婚約が決まっている娘を娶りたいと言い出せば叶う可能性は高いが、逆はない。


ガイル公爵が新たな婚約者を探さないようにするのと、男性恐怖症のエミリアに、打算的な腹積もりを持って言い寄る相手を俺と婚約することで排除できるという目論見もある。


 ミーファとエミリアは、父親にすぐ話し合いの顛末を報告していた。


 ガイル公爵は話し合いの結果を凄く喜んでくれたそうだ。

 ちょっと俺に対する評価が過剰だと思うのだが、ルーク君の扱いが自国であまりにも酷かった為、悪い気はしない。


「ルーク様、お父様が一度時間ができた時に城に来てほしいと仰っています」

「国王が? そうだね、義父になる人だし、ちゃんと挨拶に行かないといけないか……分かった。でも、先に一度公爵家に行く必要があるんだ。学園にはすでに来週の月曜から金曜までの5日間の休みの許可を得ている」


 休むのは5日間だが、土・日・月・火・水・木・金・土・日と、目一杯休日を使えば9日間治療できる。ナビーの予想では最大でも10日あれば治るだろうとのことなので何とかなるだろう。


「サーシャ叔母様の治療ですね?」

「うん。登城は早くてもその後の休日になる」


「分かりました。そう伝えておきます」

「ミーファ、不治の病とされているこの病気を俺は治せるけど、だからといって、人からお願いされても断るので、そのことも国王に伝えておいてもらえるかな?」


 ここでイリスが意見を言ってきた。


「ルーク様以外に治せる人がいない病なのです。できるだけ多く救ってあげるのが神の御意志なのではないでしょうか?」


「周りの人間は自分のことじゃないから、利己的に考えたり、それこそ今のイリスのように無責任に『治せるのだから治してあげろ』と言うだろうけど、俺にどこまでやれって言うのかな?」


「どこまで、ですか? せっかく治せる力を神から得ているのですし、できるだけ沢山の人を救ってあげれば良いのではないですか?」


「じゃあ、イリスは今どうしてこんなところで俺の侍女なんかやってるの? お金が払えないで怪我や病気で困っている人が沢山いるスラム街にでも行って、魔力が尽きるまでひたすら回復し続けたら、救われる人は多いんじゃない? 回復できる能力があるのに、どうして実行しないの?」


「……そうですけど……」

「結局、回復師ってのは、皆、多かれ少なかれ偽善者なんだよ。人を治せる力を持っているけど、無償でやっている人はいない。どこかでライン引きをして、どこかの誰かを無意識に切り捨てているんだからね。お金が払えなくて治療できずに死んでしまう人なんて、スラムには一杯いるよ? 1人でも多く救えっていうのなら、君も今すぐスラムに行って魔力が尽きるまで無料で治療するべきなんじゃないかな?」


 イリスはそれ以上何も言えなくなった。

 現に自分は回復師を目指しているのに俺の侍女なんかやっている。弟子になってもっと凄い力を得たいと思っているようだが、それも俺から言わせてもらえば利己的な思惑があってのことだ。中級回復魔法が使えるだけで、沢山人は救えるのだからね。


「教皇様のように目の下に隈ができるほど朝から晩まで回復魔法だけ行使させられるのは俺は真っ平ごめんだ。俺は聖人には成れない。国王ともなると、配下の者に恩を売るために俺のこの力を利用しようと考えるはずだ」


「ルーク様はあまりその力を使いたくないのですか?」


 ミーファまで不満げに俺に聞いてきた。


「使いたくないっていうのじゃない。いいように利用されたくないって話だ。俺にもやりたいことやしなくてはならないことが沢山ある。それを犠牲にしてまで、知らない赤の他人の為に自分の時間を割きたくない。目を付けられるのを分かっていてサーシャさんを治療したのはララの為だ。自分の目の届く周囲にいる人は何とかしてあげようと考えるけど、会ったこともない人を第三者の思惑で治したいと俺は思わない。その人を治すための移動時間や魔力があるなら、自分の為に使う」


「あ! そうでした。出過ぎたことを言ってしまい申し訳ありません」


 イリスは神殿でのことを思い出したのだろう。

 俺がいま最もしたいこと……レベル上げだ。

 イリスは俺が女神に指名された使徒だと思っているので協力してくれるだろう。


 病気で苦しんでいる人がいるかもしれない……治せるからと全てに係わっていたらレベル上げなんてやっている時間はないだろう。邪神が復活すれば万単位で人が死ぬ。どっちを優先するかは考えるまでもない。


 どこの誰かも知らない人を治療するMPがあるのなら、そのMPは邪神を倒す攻撃魔法の熟練度を上げるために使用するべきなのだ。



 あっという間に1時間が過ぎ、1時間目の授業を終える鐘が鳴る。


「この休憩時間中に教室に戻らないといけないね。急いで戻ろう」



 *    *    *



 さて2時間目の授業は明日の『召喚の儀』の為の注意事項だそうだ。


「皆揃っているね? じゃあ先に班替えを行う。ルーク君とミーファさんたちが新たにこのクラスに加わったので簡単に説明からしておこう」


 先生は何も知らない俺たちに、クラスの説明をしてくれた。


 1学年6クラスあり、基本1クラス35人が定員だそうだ。

 35人の理由は【ステータスプレート】の機能に、パーティー編成機能があるのだが、この通常パーティーの編成上限が7人なのだ。そして大規模編成パーティー、レイドパーティーというのだが、それの上限が35人―――


 だから1クラスの上限が35人で、班は1クラスに5班つくることになる。


 クラスはA~Fクラスあり、Aから入試の成績順なのだそうだが、Aクラスだけは特別クラスとされ、侯爵以上の家格の者と成績上位者が入っているとのことだ。


 上位貴族に待遇が良すぎないか?


「先生、上位貴族だけ成績関係なくAクラスとか、ちょっと依怙贔屓が過ぎませんか?」


「ルーク君、これは依怙贔屓ではない。なぜ家格の高い者だけAクラスなのか、依怙贔屓ではなく安全面を考慮した、セキュリティー的な問題なのだ。1カ所にまとめておくと野外活動でも対策が楽になるからね」


「護衛面では確かにそうでしょうね。でも、上位貴族の子たちが優秀な成績をとって実力で入ったAクラスの者に、授業でついていけるのでしょうか?」


「その為に優秀な専属従者を付けるのを認めているのではないか」

「あ~、納得です。授業の遅れは、後で従者から学べということですね」


「この学園では貴族家から入学時に家格に見合った寄付を募っている。依怙贔屓はしないが、貴族には多少の優遇はある。寮の部屋や席順とかね」


「なるほど。でも、その優遇に対して一般の者から不平不満が出るのではないですか?」


「ないな。むしろその寄附のおかげで入学金や学生服、食堂の利用費、毎日のお風呂などが格安で利用できるのだから感謝しているよ。そういう訳で優遇はあっても依怙贔屓はないので、例え王族でも赤点を取ったら進級できない。気を付けるように」


「分かりました」


「では話を続ける。1クラス35人だが、毎年中間テストまでにどのクラスも欠員が出る。授業に付いていけない者や、実技で自分の魔法の才に自信をなくして辞める者、家の都合、色々な理由で脱落者が出る。2年に上がる際に再度クラス編成が成されるが、その間は欠員が出る班も生じる」


 このクラスも既に5人も辞めてしまって、現在30人しか居なかったそうだ。

 まだ入学から2カ月も経っていないうちに5人の自主退学は、例年に比べたらかなり多いそうだ。辞めた5人のうち3人の理由は家の都合……家族が病にかかってしまったからだそうだ。


 従者がいる貴族でもない限り、家族の看病は普通働いていない子供が行うものだから仕方がないのかもしれない。後は金銭問題……働き頭の父親が病気にでもなったのなら、一般的な家庭だと学園に通える資金は捻出できなくなるだろう。学園に通っている子供は実家に帰って父親の代わりに働くことになる。


「本来班員は自由に君たちで話し合ってもらい、バランスよく組んでもらうのだが、ルーク君、ミーファさん、エミリアさんとその御付きの3人は同じ班になってもらう」


「ちょっと待ってください! エミリアさんは俺の班にそのまま居てもらいたいのですが!」


『♪ 彼は侯爵家の者ですね。エミリアの素顔を知っていて、恋心を抱いているようです。あわよくば在学中に仲良くなって自分が公爵家の婿にと考えていたようです』


『うわ~、それ聞いちゃうとちょっと引き離すの可哀想な気がするけど、エミリアからすればたまったものじゃないよね』


『♪ ですね。エミリアは視線などから敏感に気付いており、煩わしく思っています。彼は侯爵家の四男坊なので家は継げません。エミリアと班が組めたときには、このチャンスを逃すまいと喜んでいたようです。一応言っておきますが、悪い人物ではありません』


 ナビーのこの過去を探れる能力は凄い。この世界には、創造神が設置したユグドラシルシステムというものがあり、全ての生きとし生けるものを個別で全て記録保存しているのだそうだ。それをナビーは覗き見ることができるそうで、過去ログから今の情報を引き出しているとのことだ。



「悪いがこれは王命でもあるし、学院長の決定でもあるので確定事項なのだ。理由はさっきも言った防犯だ。姫様の御付きだけあって、エリカさんがとにかく強い。ナタリーさんも強いし、ルーク君の御付きのイリスさんも去年の次席卒業者だ。王家としてもこの3人が居れば安心という訳だろう」


 えっ!? イリスって去年の次席卒業者なの!?

 自ら公爵様に専属従者アピールとか自信過剰な娘だなって思っていたけど……ちゃんとアピールできるだけの実績があったからなんだね。


「でも、俺の従者もナタリーに負けないくらい強いです!」


 頑張るね……。


「こういうことはあまり言いたくないが、エミリアさんは王族直系の血筋だ。班行動中に怪我でもさせてみろ、君の家にも迷惑が掛かるぞ? 王家の者に任せた方が君の為だと思うがね」


「わたくしが怪我をしたとしても、班員に責任がないのであれば責めるようなことは一切ございません。フォレスト家はそのようなことは致しません!」


 大人しいと思っていたエミリアが先生に噛みついているだと⁉

 確かにさっきの先生の言い方は悪かったけど……ちょっとびっくりだ。


「失礼! 公爵家を侮辱したものではない。あくまで王家の意向に従ってほしくて言った意見だったのだ。誤解させたのならすまない」


 ということがあって、俺の班員は話し合うまでもなくこの6人に決定した。


 残りの班も今のメンバーは大きく変わらず、エミリアたちが抜けた侯爵家のアルフレッド君の班に退学で減っていた班の者が合流し、あっさりクラスの班替えは終わった。


 俺の班だけ6人で、他の班は7人組が4班だ。

 まぁ、俺の班は侍女3人のうち2人は既に社会人で、エリカは戦闘侍女だし、イリスだって去年の次席卒業者だ。

 必然的に1人少ない6人の班はうちになるだろう。


「じゃあ、明日の注意事項だ」

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