第43話 婚約してとりあえず3年間やり過ごそう

 ガイル公爵との話し合いで、エミリアとの婚約は継続ということになった。

 ただ、王家の介入で公爵家の婿としてではなく、卒業後に俺はミーファを娶ることを条件に侯爵位を授爵してもらえるそうだ。エミリアは俺のところに側妻として、つまり第二夫人として嫁ぐことになる。


 領地持ち貴族ではないだろうが、侯爵位なら国庫からそれなりの額のお金が毎年支払われるだろう。


「ルーク様、エミリアのことですが良いのですか? 馬車で話していた時は、好きでもない娘と結婚なんかしたくないと仰っていましたのに……」


「うん。ガイル公爵、あの感じだと3年後には絶対無理やりにでも男をあてがってエミリアに子を産ませようとするよ? 娘のことは可愛いと思っているようだけど、あまりにも可哀想でしょ?」


「はい。でも、それは相手がルーク様だとしても、エミリアからすれば同じではないでしょうか?」


「全然違うと思うよ。俺は別にエミリアと仲良くするつもりはない。魔道具の首輪まで付けて男を拒否するような娘と仲良くなれると思ってないからね」


「気付いていらしたのですか?」


 エミリアの侍女が驚いたような顔で俺に問いかけてきた。


 彼女の名はナタリー・E・アレイシス(16歳)。アレイシス子爵家の次女だ。

 得意な魔法は、風>水属性が主属性。


 ライトグリーンの髪を肩甲骨辺りまで伸ばしていて、どちらかというと綺麗系の顔立ちをしている。公爵家が選りすぐっただけあって容姿も美人さんだね。


「ま~ね。でだ、エミリア。このままだと3年後に君はお父さんに好きでもない男をあてがわれて辛い思いをすることになるだろう。これでは性奴隷として親に売られた娘たちと大差ない。そこで提案だ。とりあえず君は俺と婚約するんだ。俺は回復魔法が得意なのだけど、この学園滞在中に君の男性恐怖症の治療をさせてくれないか? それに俺と婚約発表をすると、今後他の男は近づけなくなるので、君にも婚約するメリットはあると思う。俺は一応まだ大国の王子という肩書を持っているからね。たとえこの国の名の知れた力を持った大家でもエミリアと俺の婚約に後から割り込むことはできなくなる」


「ルーク様、男性恐怖症という病気は治るものなのでしょうか?」


 エミリアではなくミーファが質問してくる。


「俺は精神状態を改善できる魔法も今後獲得する予定なので、3年もあればある程度改善はできると思う」


「そのようなスキルがあるのですか?」


「うん。でもエミリアの意思で、ある程度は協力が必要になる。会いたくないとか言われたら治療もできないからね」


「ルーク様はエミリアにその間手を出さないのです?」


「俺は嫌がる娘に手は出さない。どうしても俺に近付かれるだけでも嫌だというのなら、自分でどうにかするしかないね。どうするエミリア?」


「…………」


「これでも、まだだんまりか……。なら少しだけ言わせてもらうけど、俺は君に対して今のところ何の感情も持ち合わせていない。だって素顔どころか未だに声すら聞けていないんだからね。ガイル公爵に頼まれたってこともあるけど、あくまで少しでも俺と関わったので声を掛けただけで、これ以上は君がどうなろうが俺の知ったことじゃない。君の人生だ、好きにするといいさ……」


 彼女が病気だと分かっていてもこれ以上お節介を焼いてあげる気はないので、後は自分で対処するといい。


「ご、ごめんなさい……」


 エミリアは小さな声で、謝罪してきた。


「へぇ~、可愛い声じゃないか。ミーファ姫の前で嘘吐いてもばれちゃうのでぶっちゃけるけど、フォレル王国が聖属性者が少ないとか、貴族家の血が偏っているとか、フォレスト家の後継問題とか、はっきり言って俺の知ったこっちゃない! 君のお父さんも、ミーファ姫のお父さんも、俺の親父も、俺を種馬扱いしやがって! ふざけんな!」


「ルーク様! また本当にぶっちゃけちゃいましたね! そんなこと言っちゃダメです!」


 イリスが慌てて止めてくるが知るか!


「あはは、すっきりした!」


「ルーク様、お父様の非礼はお詫びします! あの……わたくしのことを本心ではどう思われているのですか?」


「ミーファ姫の告白には驚いたけど、嬉しかった。お付き合いして仲良くなりたいと思っている。ホントだよ」


「あ、本当のようですわ! う、嬉しいです♪ わたくしのことはミーファとお呼び下さい!」

「分かった。ミーファ、よろしくね。ゆっくり時間を掛けて仲良くなろう。ミーファ的には俺がエミリアと仲良くするのはやはり嫌だよね?」


「本音を言えば凄く嫌です……」

「だよね~。俺も自分が好きな娘が他の男と仲良くなるのは見たくない。でも恋愛感情は抜きにして、俺と婚約することで、以降に言い寄ってくる男の排除ができるし、婚約自体はエミリアにとっては良いんじゃないかな?」


「わたくしもエミリアのことは凄く心配しています。エミリア、今更ですが強引に割り込んでごめんなさいね。いくらあなたが昨晩良いと仰ってくれたからといっても、正妻から側妻に落とされるわけですし、公爵夫人から、侯爵夫人へと家格も下がってしまいます」


「良いのですミーファお姉様。元よりわたくしが殿方と結婚できるとは思っていません。ましてや子作りなど……」


「婚約したからといって、俺と3年後に結婚しろって言ってるんじゃないからね? もしその婚約期間中の3年の間に、君に良いお相手が結局見つからなかった時にもう1回じっくり考えればいい。とりあえず婚約しておけば俺以外の男は学校生活中の3年間排除できる。治療しつつそれで3年やり過ごそう。その間に治療が上手くいって君に好きな人ができたなら、すぐに婚約解消してあげるからね」


「はい。お気遣いありがとうございます。あの……お母様に病気のことを聞きました。凄く楽になったと。ララやアンナも久しぶりに母の顔を見れて喜んでいました。本当にありがとうございます。わたくし、お礼に行かないとと思いながらも、足が竦んでしまって……」


 テーブル越しで距離があれば、何とか会話ぐらいはできるのか。


 病気治療のこともやはりコール機能でサーシャさんたちと話していたみたいだ。


「分かった。無理はしなくて良い。そうだ、フレンド登録して【ステータスプレート】のメール機能を使ってやり取りしよう。それなら会話しなくていいから、足が竦んだり、怖いってこともないでしょ?」


「はい。それなら大丈夫かもしれません」


 上手い誘導でエミリアのメルアドゲットだぜ!


「優しいお心遣いですわ♡」


 ミーファ、目が♡になってるよ……なんか可愛い。


「ルーク様、今のも好感度アップです!」


 イリスはマジでよく分からん。


「よし、じゃあとりあえず話をまとめるね。ミーファとエミリアと婚約して、そのまま3年間なにも問題がなければそのまま卒業後に結婚ってことでいいのかな?」


「はい! 不束者ですが末永くよろしくお願い致します」

「ミーファ、気が早いよ。エミリアもとりあえずそれでいい?」


「…………」

「そんなに深く考えなくていい。婚約は形式的にするけど、俺のことは他家への牽制、男避けと思っておけばいいから。別に行動を共にしたりする必要もないので、君はこれまでどおり過ごしていればいい。ただ治療で魔法を掛ける際には協力してくれないとどうしようもないからね」


「わ、分かりました。よろしくお願いします」


「なんとかまとまったね。とりあえず婚約して上手く3年間やり過ごそう。3年の間になにか別の案が閃くかもしれないし、エミリアに好きな男性ができる可能性もない訳じゃないしね」

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