第40話 認識阻害の魔道具

 神殿で女神様とのやり取りを終えた後、再度素材集めに街にくりだす。


「またそんなに沢山買って! 無駄遣いしてはダメですってば! 公爵様はルーク様がお金をどう使うか見ているのですよ!」


 へぇ~、俺にそのことを教えてくれるんだ。

 でもだんだん言葉遣いがお姉ちゃんぽくなってきたのは気のせいか? なんだかダメな弟を叱る姉のようだ。


『♪ イリスはマスターのことを「使徒」と認識したようです。「使徒」とは神から何らかの使命を与えられた人のことですが、イリス的には自分も使徒様の同伴者として「神の御願い」を叶えるために、少しでも力になれればと考えているようです』


『だから俺に不利になるようなことは止めるし、ガイル公爵の思惑もバラしちゃった訳か』


「イリス、実は女神様から受け取った恩恵の1つに【亜空間倉庫】内の時間を停止する機能を付与してもらったんだ」


「時間停止機能! それって国でも数人しかいないっていう超レアなやつじゃないですか! それに、恩恵の1つって……他にも凄い恩恵を頂いたのですか?」


「他の恩恵はまだ言えないけど、この付与のことも誰にも言っちゃダメだよ? 理由は言わなくても分かるよね?」


「はい。入れた物が腐らないことが第三者に知られれば、冒険者や商人たちが放っておかないでしょう。昔、同じ付与を得た冒険者が商人になり、海辺の村から海産物を仕入れ、商都まで運んで新鮮な生ものを売って大儲けしたという逸話が残っているくらいです」


「だね。沿岸部では逆にお肉や野菜が採れないから、山の物と海の物を物流したらすぐにお金は貯まるだろう。冒険者としても、夏でも狩った獲物が腐らないのであれば、ダンジョン攻略などの長期を想定して狩りに出られる。でも、一番ヤバいのが軍部に知られることかな。腐らないのを想定して籠城戦などの作戦に毎回組み込まれるようになったら一切の自由がなくなってしまう。まぁ、そういう訳なので、いくら生ものを買っても無駄にはならないから安心して」


「分かりました。でも夜中にこっそり自分で作って食べちゃダメですよ?」


 兄様が余計なことを言うから、イリスに注意された。



『妖精さん、次はどこへ行けばいい?』

『♪ ナビーです。ちゃんと名前があるのですから名前で呼んでください』


『ごめん、そうだね。ナビー、次はどこに行けばいい?』

『♪ 鍛冶屋に行って鉄鉱石とミスリル鋼を少し仕入れてください。その後は薬師ギルドでシャンプーの材料になる物を買いましょう。例の香辛料もそこで売っています』


『了解だ。でも鉱石とかどうするんだ? 武器や防具はまだ要らないぞ?』

『♪ 武器や防具はレベルの低いマスターには今の装備でも分不相応なぐらい良い物です。工房の強化に使用する素材作製がメインですが、早い段階から【武器工房】も稼働させて熟練度を上げておくのが得策だと考えます』


『それもそうか。急に良い武器が欲しいと思っても、鉄のナイフしか作れませんじゃ買った方が良いからね。あ~そうだ、例の盗賊から回収したクズ武器は鋳潰しても良いよ。但し練習用の素材限定で使ってね。人を何人も殺して血を吸っている金属を、調理道具や俺の身の回りの武器や装備には使っちゃダメだよ』


『♪ 了解しました』




 散々ナビーに買い歩かされて寮に帰宅する。


 イリスもかなり疲れているみたいだ。

 今日も早く寝よう―――




 *    *    *




 翌朝、今朝もきっちり5時半にイリスに起こされて30分の散歩を行う。

 今日は初登校だ。

 学園の周囲を散歩しているが、エミリアのことを考えると少し緊張する。


 隣を一緒に歩いているイリスを見ると、やはり緊張気味だ。


「やっぱりイリスも登校初日なので緊張している?」

「はい。途中からの転入生ってだけでも目立つのに、私は卒園者で3つ年上です。その上噂多き大国の王子様の専属侍女ですからね。どんな好奇な目で見られるかと想像したら、胃がきりきりしてきます。ルーク様はあまり緊張していないみたいですね?」


「いや、緊張しているよ。昨日も結局エミリアは挨拶に来なかったしね。来なくて良いとは言ったけど、本当に来ないとは思っていなかった。俺のことをはなから受け入れる気はないのだろうと思う。そう考えると会いたくないんだけど、教室に行くと嫌でも居るだろうし……はぁ~、憂鬱になるよ」


 母親の病気の件もガイル公爵やアンナちゃんから聞いていると思うのだ。死にかけの母親を助けてもらったのに礼にも来ない。恩を着せようという気はないが、常識的に向こうから出向いてきて礼を言うのが当然だと思うのだが、それすらしないってことは仲良くする気が全くないって意思表示なのだろう。



「私もエミリア様とはあまりお会いしたことがないのですよね……」

「まぁ、歳が3つ違うと会う機会は少ないだろう」


 イリスとエミリアは公爵家に侍女見習に入るのと学園に通うのとで丁度入れ違いになるのだ。


「エミリア様はお茶会とかにも参加しなかったのでなおさらですね」

「そうなの? 男性恐怖症だけではなく、人自体が苦手なのかな?」


「いえ、女性の方にはとてもお優しいとお聞きしています。ただ、お茶会に出ると、参加したご婦人たちが、自家の息子や親族のご子息を婿に薦めてくるらしく、それが毎回になるとそういう場に一切出なくなったそうです」


「そりゃ出なくなるよ。そんなお茶会、行っても楽しくないもん」



 *    *    *



 まず職員室に行き、担任に挨拶を行う。


「お、来たね。おはようお二人さん」

「「おはようございます」」


「予鈴が鳴ってから一緒に教室に行くけど、その前に少しその椅子に掛けてもらえるかい。イリスさんは知っているだろうけど、ルーク君に少し注意事項を伝えておくよ」


「学園規則ならわたくしがお教えしていますよ」

「そうか、でも一応教師から直接伝える規則があるんだよ。後で『そんなの知りませんでした』って言い訳ができないようにするためにね。本来初日のホームルームでまとめて伝えるのだけど、転入生や編入生はこうやって個別に伝えるようにしている」


 担任は40歳ぐらいの男性教師だ。確か名前はエリックさん。主国の王子に対してなんか軽い。


 先生はいくつかこの学園内での注意事項を説明してくれた―――


・教師は生徒に対して敬称は付けない

・学園内では皆平等で、家格による威圧・抑圧等は行わない

・赤点を取ると進級できない

・授業以外での攻撃魔法の使用は禁止

・喧嘩等の暴力行為の禁止

・許可なく他の寮には入らない


 常識的なことばかりなので特に問題ない。

 この先生は基本男子には『君』、女子には『さん』を付けて呼ぶようにしているみたいだ。



 *    *    *



 予鈴が鳴り、担任に連れられ教室内に入る。

 ワイワイ騒いでいたのが一瞬で静かになり、皆がこちらを探るような視線で注目する。


 クッ~~、プレゼンで何度もこういう注目は受けているけど、やっぱ緊張する。


「お、今日はやけに静かだな? さて、先日話したお前らのお待ちかねだった、噂の王子様だ。ルーク君、自己紹介を」


 嫌な言い方をするな……なにが噂の王子様だ! あの噂のこと言ってんのか⁉


「俺が隣国で噂の『オークプリンス』様だ! よろしくブヒッ!」


 あれ? まったく受けなかった……皆ドン引きだね―――

 イリスも横で頭を抱えてしまった。俺、はずしてしまったのか?


 初日でいきなりやっちゃった?


「いやルーク君、俺の紹介の仕方が悪かった……すまなかった……」


 先生、顔が引きつってるよ! お前が変なフリするからだろ!


『♪ 人のせいにするのはどうかと……自虐ネタですべったのは自業自得でしょ。普通に挨拶すれば良かったのに……お馬鹿なマスター』


 ううっ、言い返せない。


「では改めて、俺はヴォルグ王国第3王子、ルーク・A・ヴォルグだ。王命でこの国のフォレスト公爵家の婿に出された。どの娘がエミリア嬢かな?」


 挨拶にすら来なかったエミリアちゃんにちょっとした嫌がらせと、今後俺に言い寄ってくるかもしれない打算的下級貴族の女子の排除の為にあえてこういう挨拶をおこなった。


「「「聞いた~? 婿だって~!」」」

「エミリア様と婚約!」

「あの男性嫌いのエミリア様と?」


 急にクラスが騒がしくなった―――

 どうやらエミリアはクラスメイトに何も言ってなかったようだね。ひょっとして隠しておきたかったとかかな?


『♪ そのようです。今、凄いしかめっ面していますよ。あ、でもこの娘―――』


「皆、静かに! ルーク君、婚約者との挨拶は休憩時間にでもおこなってくれるかい?」

「分かりました。ですが、どの娘かだけでも教えて頂けませんか? 実は何も聞かされていないので、顔すら知らないのです」


 イリスが顔ぐらい知っているだろうが、俺はどんな娘か見たいのだ。


「あの窓際の1番後ろの娘がエミリアさんだ。警護上、家格が高い者が入口より遠い後ろに座る規則があるので、ルーク君の席は彼女の後ろになる」


『♪ 過去に平民の娘が、侯爵家のご子息を不意打ちで授業中に後ろから刺したのです。その娘は暗殺ギルドの手の者でしたが、派閥による勢力争いが原因だったようですね。以降不意打ちなどを防ぐために家格が高い者ほど後ろの席に座るのが通例となったみたいです』


『なるほどね。じゃあ、あの娘がエミリアちゃん?』


 うん? 噂と違い、それほど可愛くはないよね? 極々普通だ。

 あの娘より可愛い娘が、このクラスには沢山いる。元々結婚する気はなかったけど、失礼だと思うがちょっと期待外れだ。


「よろしくエミリア」


 彼女に向かって挨拶をする。


「…………」


 無視かよ!


 流石にちょっと腹立つな―――


『♪ マスター、無視ではなく、男性相手に緊張して声が出ないのです。それと、先ほどナビーが言いかけた続きですが、彼女は認識阻害の魔道具を首に着けているようです。首輪から上は変化の効果で、本当の顔とは違うようにマスターには見えています』


『そういえば、以前にもナビーは意味有り気なことを言っていたな? このことだったの?』

『♪ そうです。あの時言っても上手く伝わらないでしょうし、実際見てからでも事実は変わりませんからね』


『やっぱ、俺が嫌ってことなのかな?』

『♪ いえ、この学園に入学した時点で既に着けていましたので、マスター用に急遽用意した物ではなく、学園の男子用に最初から着けて対応していたようです。ガイルが「最初学園に行きたがらなかったが、途中から自分で行きたいと何故か言い出した」と言っていましたよね?』


『うん、言ってたね』

『♪ エミリアはこの首輪を手に入れてから気が変わったのです。今のお付きの侍女のお手柄ですね。これなら容姿で言い寄る者もそういないと侍女に説得されたみたいです』


 本当の彼女の顔を知ってる女子もいるが、男子には殆ど知られていない。

 首輪を着けているのだと噂が流れても、実際この顔なら容姿だけ見て迫ってくる男子は減らせるって思惑かな。


『かなり筋金入りだね。やっぱ男が怖いんだ』


 その時、クラスのドアが叩かれた―――


「うん? 誰かな? どうぞ~」

「エリック先生、少し良いかの?」


「学園長? はい、何でしょうか?」

「ふむ、急で済まぬが、もう2人今日から編入生をこのクラスに受け入れてもらうことになってな」


「今日から? そんな話、一切聞いていないのですが、どういうことですか?」

「ついさっき決定したので、知らせる暇もなかったのじゃ。だから儂が直接連れてきた。お入りなされ」


 侍女に手を引かれ、ミーファ姫が入ってきた。

 ミーファ姫とエリカちゃんだ。


 そして俺の【ステータスプレート】に、このタイミングでガイル公爵からのコールが鳴る―――


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 お読みくださりありがとうございます。

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 【認識阻害の首輪】を着けたたエミリアちゃん!

 突如現れたミーファ姫!


 良い感じで場が荒れてきました!

 他作ではやり過ぎて収拾付かなくなっちゃいましたが、上手く纏まるといいな~w

 プロットとかないので、作者もどうここから進展するのか分かりません……

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