第36話 イリスとは仲良くやれそうです
俺の専属侍女になったイリスと一緒に食事をしているのだが、お互いにちょっと緊張している。
自ら侍女にしてほしいとアピールしてきただけあって、彼女は色々と有能そうだ。
食事を含めた家事スキルも文句なしだね。今食べている夕食も大ざっぱな味だが凄く美味しい。大ざっぱなのは調味料が少ないので仕方がない。醤油や出汁の素とかこの世界にはないからね。
「一応学園生活において、お互いの要望みたいなのを話し合っておこうか?」
「要望ですか?」
「うん。例えばさっきイリスが言ってた、『当分俺から片時も離れない』とかいうやつだね」
「言葉が足らないので、凄く違った意味になっていませんか? 『ルーク様が逃げるかもしれないので、暫くの間は片時も離れず監視します』と言ったはずですよ」
「少し言葉を足しただけで、俺にダメージが入ったのだけど……まぁいい」
俺が出した要望は―――
・ダイエット食
・毎日湯船を溜めてのお風呂
・朝・夕にダイエットの為のトレーニング
他にもあるのだが、それは神殿に行ってからだね。
「お食事はそのつもりでしたが、夏の間も湯船に入られるのですか?」
「うん。お風呂も痩せるのに凄く良いんだよ」
「お風呂がですか?」
「うん。お風呂がダイエットに有効な理由は、汗と一緒に毒素が排出されることで代謝が上がり、痩せやすい体質になるんだ」
「へ~、毒素ですか?」
「この毒素は脂肪と結びつく性質があるので、毒素が溜まると燃えない脂肪となり、結果、太りやすい体になってしまう。つまり、入浴で汗をかいて『代謝のよい体』=『毒素をうまく排出できる体』に変えることが重要なんだ。こうすることで脂肪燃焼がスムーズになり、ダイエット効果が期待できるってわけだ」
最初は話半分に聞いていたのだが、理論立てて説明してあげると、めちゃ興味を持ってメモまで取り始めた。
この入浴ダイエットも、ひょっとすれば数十年後に『間違いでした!』って可能性もあるけど、科学的にも医学的にも検証されているので多分効果はあるのだと思う。
俺の日本の現代知識とこの世界の魔法を融合すれば凄いことができそうな気がしている。問題は、俺の知識が浅いってことなんだよね。
お風呂ダイエットも、これ以上深くは知らないのだ。
テレビではリンパの流れが―――肝臓が……云々言ってたけど覚えていない。
「早朝のトレーニングは何をなさるのですか?」
『♪ 外でのトレーニングだと、朝食の準備を作るために相当早起きしないといけなくなるので、それを懸念しているみたいですね。それと、マスターだけでランニングとかは許可する気はないようです』
『兄様のせいで俺が逃げるかもと疑っているくらいなので、イリスが認める訳ないよね』
「散歩に出たいけど……」
「分かりました。私もご一緒しますね。ただ朝は6時出発で30分程度の軽いものにしてください。その後に朝食の準備がありますので」
やっぱ1人では出してくれないか。
「じゃあ、朝はいいや。部屋で筋トレするから」
「私に気を使わなくてもいいのですよ? ルーク様に痩せていただくことが最重要課題ですので、その気になってくださっているのでしたら、是非お散歩いたしましょう」
イリスからの要望は―――
・俺に頑張って痩せてほしいこと
・提供した食事以外は決して食べないこと
・イリスから離れる時は、必ず報告を先に行うこと
・勉強も頑張ってもらいたいこと
・どんな些細なことでもよいので、師匠として毎日指導してほしいこと
「分かった。でも、あまり無理なダイエットはしないつもりだ。無理すると続かない」
「無理なことをさせるつもりはありません。ジェイル殿下からルーク様は怠け者だと聞いているので、少しは自ら努力をしていただきたいのです。その為の手助けはいくらでもいたします」
いつの間に兄様はイリスに余計なことを……。
怠け者なのは、ルーク君であって俺ではないからね!
その後イリスはすぐにお風呂の準備をしてくれた。
「本当に入浴介助はしなくてよろしいのですね?」
「そんなことはしなくていい。お風呂の湯はどうする? 俺の後を使うのが嫌なら抜いておくけど?」
「何故ですか? 是非使わせていただきます」
『♪ 本来お風呂にいつも入れるものではありません。毎日利用しているのは上位貴族や富豪の商人、あと神殿で禊として毎日入浴する決まりがあるくらいです。イリスの家では3日に一度くらいで入浴していたようです。今のように「お父さんの後のお湯は嫌!」的贅沢な思考をする者はいないです。この学園にはお湯が出る魔道具がありますが、下位貴族では買えないとても高価なものです』
妖精さんのものの例えが、なんかリアルで生々しい。
娘の為に頑張って働いている世のお父さんにエールを送りたい!
どうやら核になる魔石の交換ぐらいは学生でも払える額だが、本体の魔道具は超高級品だとのこと。
俺の入浴中に食事の後片付けも終えていたので、イリスにお湯が冷める前に入ってもらう。
『♪ ふふふっ、マスター、どうします?』
『どうするとは何のこと?』
『♪ イリスは、マスターが噂どおりなら、絶対覗きに来ると思って、緊張しながら全力で急いで体を洗っているようですよ』
『覗かねぇ~って!』
『♪ 色々覚悟をしながら念入りに体を洗ってますね』
『それって俺にマジで襲われると思っているのか?』
『♪ マスターが、「君ほど可愛い娘が何時も側に居たら、絶対襲っちゃうね!」
「目の前にこんな可愛い娘がいて、手を出さないのは失礼でしょ!」とか言うからです』
『そういえばイリスを引かせて、侍女になりたいって言うのを辞退させようと目論んだ時に言ったかも』
でも、そうなるとイリスの打算的考えってのが気になってくる。
身を捧げてでも俺に取りいりたいと思った理由―――
『♪ 1番の理由は弟子にしてもらいたかったのが本音です。好意というより尊敬の念を抱いていて、マスターの容姿にもそれほど嫌悪感を持ってはいないようです』
『でもそんな理由で抱かれても良いとは思わないだろ?』
『♪ ですね。彼女の家は公爵家に仕える子爵騎士でした。回復魔法の素養をガイルに認められ、開拓領地を与えられ、その地の開墾と発展を見事短期間で成し遂げ、小さいですが町として昇格した時に伯爵位を得ました。ですが、短期で発展させるには凄い資金が必要だったようで、個人資産まで投入して結構財政は厳しいようです。そこで2人いる娘にできるだけ援助を得られる条件の良いところに嫁いでもらおうと彼女の父親は考えているようです』
『まぁ、イリスは可愛いし、貴重な聖属性持ちだからね』
『♪ あ、もう出てくるようです。また後で詳しくお教えしますね』
『俺は今すぐ知りたい!』
『♪ イリスを抱く気のないマスターに、今すぐ教える必要はないです』
『イリスの目的は俺の回復師としての知識だろ? それを条件にして迫る気はないよ。それにルーク君だって相手を選んで覗いたり悪戯をしていただろ?』
覗きや悪戯、嫌がらせの対象にしていたのは、彼に対して陰口や嫌悪感をあからさまに出して接していた者たちだ。ただそういう者たちが8割以上だったので、誰彼構わず覗いていたように傍からは見えていただけだ。
だからと言って、女の子の入浴を覗いて良いわけはないんだけどね。
「随分早いね。もっとゆっくり入浴すればいいのに」
「いえ、大丈夫です。お風呂のお湯、出る前に温めてくださっていましたね? ご配慮ありがとうございます。……あの……思い切って聞いちゃいます! どうしてルーク様は覗きに来なかったのでしょうか?」
「ふぇ?」
つい間抜けな声が出てしまった。イリスはド直球で聞いてきた。
「私に魅力がないってことでしょうか? それとも全く好みじゃない? 絶対覗きに来るか、そのまま入ってきてお手付きにされるかとドキドキしながら入っていたのに……」
「イリスは俺のことが好きなのか? そうじゃないだろ? 俺はそういう相手に手を出す気はない。覗きだってそうだ。俺を馬鹿にしたり、陰口や侮蔑した目で見てきた奴に対して、それならと期待どおりに覗いてやっただけだ」
これはルーク君の心情であって、俺からすればガキの戯言だ。
「そうなのですか? 可愛ければ見境いないのかと思っていました」
「まぁ、ガキの言い訳だ。悪口を言われたからと言って、覗いて良い理由にならない。両親へのあてつけもあったのだ。それよりイリス! 自分の体を安く扱うな!」
「わ、私の体は安くないですよ! 凄く高いです! これまで沢山の殿方から言い寄られてきましたが、全てお断りしたくらい高いです!」
めっちゃ逆切れされた!
「ごめん、そんなに怒るなよ。とにかくイリスは俺に襲われるとかの身の心配はしなくて良い。別に好みじゃないとかそういうのではなく、イリスの方に俺に対して好意がない以上手を出すつもりはないってことだ。それと、『噂通りのエロいオークプリンスだった』とか『俺に覗かれた』とか嘘吐いて事実とは違う変な噂流したら、分かった時点で本当に覗くからね」
「……びっくりです。正直に申しますと、ルーク様に対しての好意は現在うなぎのぼり中です。ですが、こちらから誘って抱かれたいというほどではないので、もう少しお待ちくださいませ」
「待つも何も、手を出さないって言ってるだろ」
「私が告白した時はちゃんと手を出してもらえないと嫌です!」
「めんどくさい女だな……」
「はい。ちょっと面倒な女ですが、精一杯お仕えいたしますね♪」
翌朝、めっちゃ早い時間にイリスにたたき起こされ目が覚めるのだった―――
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次話こそ神殿に……
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