第34話 学園の寮は高級宿屋並みに快適です

 雑貨や食料を買い込み、学園に向かう。

 まずは担任の所へ挨拶に行って寮の部屋番号を教えてもらった。

 4階の1号室。401号室―――最上階の角部屋で日当たりも良いとのこと。


 寮は4階建て、外壁はレンガ造りでかなり大きいものだった。


「4階は防犯の為に、公爵以上の家格の者とその従者しか立ち入りが許されていません。現在男子寮の4階にはルーク様だけですね。来年になれば公爵家の者が1名入られると思います」


「へぇ~、じゃあ今年は俺の貸切りだね」

「俺?」


「あ~それね、幼少時に母から『僕』と言うように躾けられたのだけど、この際国を出たんだから止めることにする」


「そうですか、急に『僕』から『俺』って言ったのでちょっとびっくりしました」

「変かい? 似合わないかな?」


「そんなことはありませんが、『僕』の方が可愛い感じがします」


 少し高圧的な『俺』より『僕』の方がイリスには受けは良いようだけど、貴族の中には弱みを見せるとすぐ付け込んでくる者が多いんだよね~。


 『僕』とか言ってたら舐められそうで嫌だ。


「それより、早く中に入ってみよう! イリスは去年3階だったんだろ?」


「はい。3階には伯爵位と侯爵位の者が入っています。4階よりお部屋は狭いですが、従者用のお部屋も付属されていてなかなか快適でしたよ」



 寮は全部で4棟ある。


・一般男子・女子寮:4階建て

 (全室2人部屋、カーテンによる間仕切り有り)

 (風呂・トイレ共同)


・貴族用男子・女子寮:4階建て

 (全室個室)

 1階・2階:子爵・男爵・準男爵が入れる

  (風呂・トイレ共同)

 3階:伯爵・侯爵が入れる

  12畳ほどのリビングがある

  10畳ほどの寝室兼勉強部屋があり、6畳ほどの従者部屋が内部屋として付く

  (小さいが風呂・トイレが完備)

 4階:王族・公爵が入れる

  20畳ほどのリビングがある

  12畳ほどの寝室兼勉強部屋があり、8畳ほどの従者部屋が内部屋として付く

  (4人ぐらいが入れる風呂があり、トイレも完備)



「はぁ~、はぁ~……ふぅ……1階の方がいいね」

「ルーク様は痩せないとダメです。寮の階段を上っただけで息切れとか……運動不足です」


 勿論ダイエットはするけど、この階段を毎日出かける度に使うのかと思うとちょっと憂鬱だ。『エレベーターないの?』って言いたくなる。


 部屋に入ったのだが、広い! そして綺麗だ!

 リビングは空っぽだし、寝室もベッドと勉強机しか置いていないので、尚のこと広く見える。


「凄いな、4階なのにやっぱトイレがある」

「ヴォルグ王国では上の階にトイレやお風呂を造らないそうですね?」


「お風呂は上の階にもあるよ。でも基本1階に造っている。排水の為の設備が要るからね」


 部屋をチェックし、部屋全体に【クリーン】を掛けた後に買ったものをセットしていく。


「キッチンも充実した設備だね。この蛇口はお湯も出るんだ?」

「はい。お風呂の物と一緒で、温度調整もできる魔道具です。定期的に核になっている魔石の交換が必要ですが、屑魔石で良いのでそれほど経費はかかりません。保冷庫もありますが、量はそれほど多く入りません。強いて悪い点を挙げるなら、オーブンの魔道具がないのが残念です。あればパンも焼けるのに」


 買ったものを全部セッティングし終えたら、イリスが早速お茶を入れてくれた。


「ありがとうイリス。疲れただろう、部屋で休んでいいよ」

「はい。ありがとうございます。それでは何か御用がございましたら、この呼び鈴を鳴らしてください」


 銀色の呼び鈴を手渡された。ミスリル製のお高い品だそうだ。これも魔道具で、事前に登録してある者にはかなり大きく響いて聞こえるのだとか。


「分かった。そういえば担任の先生が明日はまだ出席しなくていいって言ってたね」

「はい。明日は試験休みだそうです。あの、これからエミリア様に会いに行きませんか?」


 う~ん、婚約者に興味がない訳ではないのだが、俺の方から出向いて今すぐ会いたいってほどでもない。


「イリスの方から到着したと彼女の侍女に連絡だけ入れておいてくれ。いくら婿入りでも、主国の王子がなぜ家格が下の公爵家の娘の所に出向いて行く必要がある? 形式的なものとはいえ、向こうから挨拶に来るのが筋だろう?」


「失礼しました! そうですね、エミリア様から会いに来るのが常識です」

「と言ったけど、男性恐怖症の彼女が自分から会いに来るとは思っていない。明後日教室で会えるだろうから、別に形式ばって行動する必要はないと言ってあげてくれ」


「……びっくりです。ルーク様って、相手のことをちゃんと気遣って考えられるお方ですのね。噂ってホントいい加減なものです」


「俺の噂は結構事実だったけどね。明日、午前中に教会に行きたいのだが、問題ないか?」

「教会ですか? ええ、大丈夫です。ではお供しますね」


「いや、来なくていいよ。俺1人で行ってくる」

「それはダメです。公爵様に暫く一緒に行動するよう言いつかっております」


「学園が休みの時は別行動の予定だよ。そうじゃなかったら君に休みがないのと一緒だろ? 休日は君の好きにすればいいからね」


「ルーク様を信じてお話しします。ジェイル殿下や公爵様にルーク様が逃げるかもしれないから、当分の間片時も目を離さず見張ってくれと言われました。もしルーク様が逃げた場合、私は責任を取らなければなりません。なので、暫くは行動を御一緒させてくださいませ」


 なんてこった。別行動ができないのなら、レベル上げに行けない。

 俺を種馬としか見ていない公爵や国王にばれたら、魔獣を倒さないといけない危険を伴うレベル上げなんか行かせてもらえないだろう。


 常に側に居るイリスには、ある程度邪神のことを話して、女神の名を借りて誰にも言うなと口を封じるしかないのかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る