第33話 寮生活用に雑貨を揃えました

 途中休憩を何度か行い、王都の正門前に辿り着いた。

 馬車だと3日の距離だそうだが、飛竜だとゆっくりペースでも半日だった。


「バルスお疲れ様! 3人乗りは大変だっただろ、ありがとうな!」

「ぐるる~~♪」


「お前が2人分あるからな。実質4人乗っていたのと変わらない」

「あはは、そうですね。バルス、ほらお前の好きなゴブリンだ! お食べ~」


「またお前はそうやってすぐ甘やかす……っていうか、それ何時のやつだ? 腐ってないだろうな?」

「腐ってなんかないですよ。バルスには当分会えないのだからいいでしょ」


「そうだな……」


 女神様からもらったチート3点セットの一つの、【インベントリ】は時間経過しないんだよね。うっかり、【亜空間倉庫】の方は時間経過するのを忘れていた。


「兄様はこの後どうなさるので?」

「国王が明日帰還されるとのことなので、今晩は王城で1泊して、明日、王と謁見してから翌日自国に帰ることになるだろう。だからルークとはここでしばしのお別れだ」


 国王はミーファ姫の件で、問題のあった侯爵領にて事後処理中だ。


「そうですか。ジェイル兄様、ルルやチルルたちにお別れも言えず申し訳なかったとお伝えしてもらえますか?」


「分かった。ルーク、ルルティエのことは良いのか? お互い好き合っているのに、勝手に知らないところで話が進んで別れさせられて、お前は納得できるのか?」


「王家の嫡男らしくない考え方ですね」

「俺は次期国王になる予定だが、それ以前にお前の兄だ。可愛い弟が悲しむ姿は見たくない」


 クッ~~! やっぱ兄様カッコイイ!


「お気持ちは嬉しいですが、今の僕ではどうすることもできません。ルルはすでに侯爵家の嫡男との縁談話も進められているようです」


「俺ならその話を止められる。ルルを俺の婚約者にすれば、その話はルルが卒業するまで強引だが止められるだろう」


 兄様にはまだ決まった相手がいない。縁談話は山のようにきているのに、決して首を縦に振らないのだ。


 兄様がルルと婚約と聞いて、記憶からくるルーク君の感情で不穏な気持ちになってしまう。切なくて胸がモヤッとするちょっと嫌な感情だ。


「兄様はルルのことが好きなのですか?」

「ルルのことは可愛いと思うが、ルルがお前のことを好きなのは子供のころから知っている。ルルに対してそういう感情を持ったことはないぞ。お前にだけ話すが、実は俺には想い人がいるのだ。……ただ彼女には問題があってだな―――」


「えぇ~~⁉ 兄様、カリナ叔母様のことが好きなのですか⁉」


 カリナ叔母様……お父様の一番下の妹で、かなりの変わり者だ。

 お父様は正室の長男、カリナ叔母様は側室の末っ子だ。この世界では兄様と叔母が結婚したとしてもそれほど問題ではないだろう。でも、見た目は若いが30代前半だったと思う。


 お爺様に20歳の頃一度強制的に嫁に出されたのだが、その日のうちに旦那を半殺しにして出戻ってきたという経歴があり、それ以来王宮の離れでひっそり暮らしている人物だ。


 彼女のことを一言で言うなら『剣バカ』。

 ルーク君を見かけると『このデブ! 痩せろ!』と何時も絡んできて剣術を教えようとしてくるのでかなり苦手としていた人だ。


「そういう訳だ……。お父様はともかく、お爺様が彼女を認めないと思うんだ」


 お爺様ね。

 この人もルーク君の苦手とする人物の一人だ。


 ヴォルグ王国の家系は火属性を得意とし、その系統を多く受け継いだ者は赤い髪色で生まれてくる。俺は母様の遺伝子を多く受け継いでいるようで、髪はシルバーブルーなのだ。


 真っ赤な王家特有の髪色のお兄様たちのことはめちゃくちゃ可愛がるが、ルーク君に対してはほとんど興味を示さなかった。お母様が過剰に俺に対して教育熱心になったのも、こういう小さなことが重なって大きな要因になっているのだろう。それに反発してルーク君は勉強しなくなっちゃったんだけどね。


「二人の仲は進んでいるのですか?」


「ああ、だが今の俺ではお爺様を説き伏せるだけの実績がない。だから彼女にはあと数年待ってもらうことになる。お前は反対か?」


「いえ、剣を振り回して僕をいつも追い回してくるカリナ叔母様は少し苦手ですが、本人同士が好き合っているのなら応援します」


「そうか、ありがとう。で、ルルの件はどうする?」


 ルーク君の記憶からくる感情にこれ以上引っ張られたくないんだよね。


「いえ、何もしなくて良いです。ただ、兄様の方で彼女のことは少し気に掛けてやってください」


「素直じゃないな……きっと後悔することになるぞ?」

「どうしてもルルのことが忘れられない場合は、後悔する前に自分で何とかします」




 門番の了承を得てから王都の城下町に入る。

 王城から馬車の迎えが来ていたので、兄様とはここでお別れだ。


 お互いに暫く抱きあって別れを惜しんだ。



 *    *    *



「イリス、俺たちはこの後どうするんだ? このまま学園に行くのか?」

「まずは生活用品の買い出しですね。寮にはベッドと勉強机しか置いていませんので、すぐに要るのは調理道具や食器、食材です。後日で良いですが応接セットもあとあと必要になります」


 というわけで、王都観光も兼ねて買い出しに向かった。

 イリスは最近まで王都暮らしだったので、迷うことなくお目当ての物を買っていく。

 あらかじめ買う物をメモしていたようで、買った物には〇を付けていっている。イリスちゃん、思っていた以上に優秀な娘だね。

 俺は買ったものを【亜空間倉庫】に入れるだけの荷物持ち状態だ。


「イリス? なぜめっちゃ高い品と普通の品を買っているんだ?」


 今、イリスは高級店で食器を買っているのだが、かなり高い物をポンポン買うのだ。庶民な俺はその額にビビッて思わず途中で声を掛けた。


「普通の品は私たちが普段使う食器です。高い物はお客様がいらした時にお出しする物なので、王族として恥ずかしくない品を用意する必要があるのです」


「なるほどね。では、引き続き品選びはイリスに任せるとしよう」


 家財購入用のお金は1億ジェニー持っている。公爵家へ持参金として渡したお金を、ガイル公爵はそのまま俺に渡してきた。色々入り用があるから俺の好きに使えと渡されたのだが、確かに結構お金が掛かるようだ。父様から貰った100万じゃ全然足らなかったな。


『♪ 公爵はマスターのお金の管理能力も見たいと考え、1億そのまま持たせたのです。考えなしに使う人物なら、公爵家の財政には今後関わらせないと考えています』


『そういう思惑もあったのか。俺に後を継がせる気はないようだけど、色々考えているんだな』



 6人掛けの重厚感のある高級食卓用テーブルセットと応接セットも買った。


「なぁイリス、こんな大きな家具を置けるスペースがあるのか?」

「王族用の寮のお部屋は最上階の特別仕様になっています。かなり広いですよ」


 市場でも色々買い漁った―――


「ルーク殿下、生ものは買い控えてくださいませ。買ってもそう何日も持ちません。いくら材料を一杯買っても、ルーク殿下のお食事は適量しかお出ししませんからね! それと、どれだけルーク殿下の【亜空間倉庫】は入るのですか? ルーク殿下は色々規格外過ぎてびっくりです」


 いずれ【インベントリ】のことは話そうと考えているが、今はまだ早いかな。イリスはガイル公爵が付けた鈴だ。今話せば全て報告されてしまうだろう。


 それはかなりまずい。


 重量無制限で時間停止機能付き。仮に戦争が起こっても、俺1人いれば補給物資の為の人員が一切要らなくなるのだ。数万人規模での軍移動の際、それに伴う食材や武器・防具品の運搬にかなりの人数がいる。食料が腐らないというだけで、籠城戦をやったとしても、攻めでも守りでも兵糧戦で負けることがなくなるのだ。


 絶対ばれたらヤバいことになる。


「イリス、街中で『ルーク殿下』ってのはやめよう。下手に王族とバレるような発言はしない方がいい。トラブルの元だ」

「それもそうですね。では今後は『ルーク様』とお呼びします」


 食材はもっと買っておきたかったのだが、イリスに止められてしまった。

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