第32話 フォレル王国の王都へ
その日の夕飯もサーシャさんが参加したいと言ってきた。
勿論回復魔法を掛け、【エアシールド】で体表を覆って防菌してから食堂に迎え入れた。
「ルークさんが居ない間は部屋で食べないとダメかしら?」
「そうですね。アンナちゃんやララちゃんに病気をうつしたくないのなら、部屋で食べてください」
「う~、そんなこと言われたら絶対ここにはこれないです~」
可愛い人だ。
「そういえば盗賊たちはどうなったのですか?」
「ふむ、尋問によって盗賊の拠点が我が商都内にあると判明した。すぐに憲兵を向かわせたが、残念ながら既に逃げた後だった」
「そうですか。少し時間が経ってしまいましたので仕方がないですね」
「うむ。だが、捕らえた奴らの【ステータスプレート】内に仲間の画像が保存されていたので、そこから残党の身元が全て割れた。手配書を作成してうちから懸賞金も掛けて国中にばらまくのでいずれ全員捕まるだろう。それだけでも価値はあった。君たち二人には本当に感謝している」
公爵領内で姫様襲撃という大事件が起こったので、この件は公爵家の威信をかけて一人として逃がす気はないようだ。
「それは良かったです」
「それと、ミーファにアサシンを差し向けた侯爵は兄上によって即座に裁かれたと連絡が入っている」
裁かれた――娘たちの前なので言葉を選んでいるけど、首を刎ねちゃったんだね。
「ジェイル殿? 体調がすぐれないのかね?」
ガイル公爵があまり元気のない兄様のことを気に掛けてくれる。勿論俺も気づいているが、妖精さんから理由も聞いて知っているのであえて黙っていた。
「いえ、そういう訳ではないのですが……ルーク、お前は昨晩平気だったのか? なんかいつも通りに見えるのだが?」
「どういうことかね?」
意味が分からないガイル公爵は説明をしてほしそうに不満げだ。
まぁ、兄様からしたらいくら兄弟国の属国とはいえ、他国で弱ったところを見せる訳にはいかないだろうしね。
「昨晩ララちゃんを抱っこして眠ったのです」
「そうなのか? うん?」
だからなんだという顔だね。
「僕も枕が変わって最初寝付けなかったのですが、ララちゃんが一緒に寝たいと訪ねてきて――ララちゃんには強い【睡眠促進効果】と【リラックス効果】が【個人香】にあるようです。ララちゃんと少し会話していたらいつの間にか朝までぐっすりでした。兄様と違い睡眠不足にはなっていません」
兄様は初めて殺人をしたことで寝付けなかったのだ。俺がそうだったからね。ララが来てくれるまでは、目をつむると俺が殺した相手の最後の苦痛に歪んだ顔を思い出すのだ。
睡眠不足に加え、昼から俺の剣術を見てくれていたので、一気に眠気がきたのだろう。
「そうなのか……それは羨ましい」
兄様も俺がわざとはぐらかして言ったことに上手く話を合わせてきた。
「ルークお兄様、ララもぐっすり寝れました! 今日も一緒に寝ても良いですか?」
「ララのお父さんがいいって言ったらね」
「その言い方はズルいではないか。ダメと言ったら俺がララに嫌われそうだ。ララはルーク君と一緒に寝たいのかい?」
「はいお父さま! ルークお兄様はとっても良い香りがして、知らない間に朝になっていました」
「そうか……じゃあ、良いよ」
「あんたララに変なことしたら許さないからね!」
「へ~、アンナちゃん……変なことってなにかな~?」
余計なことを言って煽ったらめっちゃ睨まれた!
「アンナ、王子殿下に『あんた』などと、公爵令嬢が使う言葉ではないですね。将来あなたの兄になるお人です。『お義兄様』とお呼びなさい」
「お義母様、別にいいですよ。世間の僕の評判はこんなものです」
「躾がなってなく、お恥ずかしい限りです……」
体調が改善されたお義母様も皆と同じものを食し、楽しい晩餐になった。
アンナちゃんとうち解けるにはもう少し時間が掛かりそうだ。
* * *
翌朝、兄様とイリスさんと3人で王都に向けて出発する。
「バルス、3人だけど頑張ってね? 兄様、王都までよろしくお願いします」
「ジェイル殿下、わたくしまでありがとうございます」
イリスさん、わたしって言ったり、わたくしって言ったりするんだな。
「ああ、問題ない」
「ジェイル殿、本当に護衛は要らないのかね?」
「はい。ドレイクに挑んでくる魔獣がまずいません。それにドレイクを所持しているような盗賊もいないでしょう。同じく暗殺も国が関与していない限り不可能です」
「そうだな。この国でも飛竜所持者は国で管理されている。これほどの巨体を隠して飼育するのは無理だろう。もし君たちが上空で飛竜部隊に襲われたのなら、どこかの国が関与したと思って間違いない」
「それに街道と違い、どこを通って王都に行くかなんて道なき空なので、待ち伏せできるのは王都の門付近くらいです」
「ふむ。ルーク君、エミリアのことよろしく頼む」
「まぁ、3年あるのでしばらく様子を見てみます」
「そう言ってくれると有り難い。無理に迫って男性恐怖症を拗らせるような真似だけはしないでくれよ? あと、妻のこともお願いする」
お義母様のことはちゃんと診るつもりだが、俺は公爵家で種馬にされる気なんかさらさらない。
異世界転生子作りハーレムを喜ぶ奴もいるかもしれないが、俺にとっては面倒なだけだ。本当に好きな娘が見つかれば、その娘1人いればいい。
将来的にその娘とどこかの町でのんびり暮らしたいものだ。現代知識を生かして店を持つのも良いだろう。
俺にとって何より優先される事案は邪神退治なのだ。その為には痩せないとスタート地点にすら立てない。
ガイル公爵やこの国の王が色々女をあてがってきそうだが、表向きは従順を装って、ある程度この世界のことを知り、強くなった時点で逃げるのもありだ。
土地勘もなく、世情にも疎い。今は同じような体型のオークにすら負けかねないので、今このまま逃げ出すのはかなり危険なのだ。学園在学中の3年間になんとしてもこの環境を変えないといけない。
「分かっています。『召喚の儀』を終えた後の週の土曜日に帰ってきて、お義母様たちを完治させてから正式に通うようにしますので」
「すまないな……」
「ルークお兄様、またすぐに来てくださいね!」
「うん。ララちゃんまたね~」
アンナちゃんも手を振ってくれてはいるが、社交辞令的なやつだね。
兄様の操縦でゆっくりと助走をつけて空に舞い上がる。
「ところでイリス……」
「はい。なんでしょうか?」
「騎竜に乗るのだから、革ズボンなのは良いとして、何故金属製のプレイトメイルを装着しているんだ? 時々背に当たって少し痛いのだが……」
バルスに3人用の鞍を付けて、兄様が前で操縦、次に俺、一番後ろがイリスなのだが、おっぱいイベントが発生する予定だったのに、何故か背には硬い金属がゴリゴリ当たっている。
「申し訳ありません。ですが、騎乗の際の標準的な装備ですのでご容赦くださいませ」
君、絶対分かっていてそうしているだろ!
そこは俺の背におっぱいが当たって、『えへへ、ラッキー!』ってなるところだろ!
俺は恋愛とかは面倒でも、女の子との触れ合いは大歓迎なんだからね!
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