第31話 専属侍女が付きました
従者とか、日本で普通に育った俺からすれば、側に居るだけで気疲れしそうだ。
「そういえば一度卒業した彼女が再度入学できるのですか?」
「その点は心配ない。頻繁にはないが、数年に一度はあることだ」
「そうなんですか?」
「従者になる者は優秀じゃないと務まらない。仕える主人の世話をするのがメインなのだが、世話をしつつ自分の成績を落とすわけにはいかないからな。成績が他家の従者より極端に悪いと、従者に選んでくれた主人の家名に泥を塗ってしまうので、皆必死なのだ」
「なるほど。そこで、成績が優秀だった卒業生なら勉強の方の心配は要らないと……。ところで従者の世話って何が仕事なのです?」
「それはイリスの方が詳しいだろう」
「はい。掃除・洗濯・毎日のお食事・勉強を見たりもしました。あと、護衛も仕事の1つですね」
「護衛? 色々やってくれて生活は快適そうだけど、護衛って?」
「公爵様が言われたように、家格が高いと悪意を持って言い寄る者も多くなります。そういう者たちと係わりを持たせないようにするのも従者の大事な務めです。物理的な護衛もある程度できるように剣術も嗜んでいます」
「物理的……随分ぶっそうだね。ちなみに君の剣術のレベルは?」
「種族レベルは28で、剣の熟練度は【剣聖】レベル3です」
そう言われても今一ピンとこない。
『♪ ちなみに剣の熟練度は5段階あり【剣士】→【剣聖】→【剣王】→【剣鬼】→【剣神】となっています。各段階で熟練レベルが10段階あるので、【剣聖】レベル3は中位冒険者並みってぐらいですね。種族レベルは20を超えると一気に上がりにくくなるので、従者をやりながらのレベル上げは大変だったと思います』
「兄様は?」
「ここではちょっと言えない」
「それもそうか……次期国王のレベルとか晒せませんよね」
『♪ ジェイルの種族レベルは32、剣の熟練度は【剣王】レベル4です。精鋭騎士には及びませんが、年齢を考えたら大したものですね』
「そういうルーク君はいくつなのだ?」
兄様の顔を見たら頷いた……教えて問題ないってことか。
「僕は種族レベル20で、剣の熟練度は【剣士】レベル8です」
「【剣士】レベル8か……幼少時より習っていた王家の子息にしては低いな」
俺のこの種族レベルも高レベルのアサシンを単独で殺した時に上がったものだ。
盗賊退治がなかったら、公爵が得ている俺の情報と差異が生じて問題になっていたかもしれない。
ルーク君の種族レベルは18だったんだよね。得意な主属性の中級魔法を発動するのがやっとだった。
「イリスに確認しておきたいんだけど……」
「はい。何なりとお聞きください」
「僕の従者になると、色々陰口を言われると思うんだけど、その辺の心構えはあるのかな?」
「……はい。ルーク殿下の酷いお噂は私も聞いております。どのみち卒業生が再度入学した時点で周りから浮いてしまいますので、そういう覚悟はいたしております」
「あ~、同級生になる者との年齢差もあるのか。元成績上位の卒業者だと、周りが気を使いそうだね」
「はい……」
「それと大事なことなので確認するけど、イリスは伯爵家の長女だろ? 君ぐらい可愛かったらとっくに婚約者がいるんじゃない? 俺の従者になんかなっていいの?」
「そういうお話は沢山頂いたのですが、誰とも婚約は致しておりません」
「なんで? ここのエミリア嬢のように男性恐怖症って訳でもないだろう? 君の両親はどういう考えなのかな?」
「学園在学中に良い殿方を見つけられなかった私は、学園卒業後に父の紹介で結婚させられそうになっていました。母が反対してくれ、公爵様の家で貴族見習いに就くことで2年の猶予を再度得たのです」
「貴族見習いってのがよく分からないのだけど……」
「ルーク……本気で言ってるのか?」
「ご、ごめんなさい兄様……」
「はぁ……。上位貴族の従者として働くことで、同時にそれを使う側の貴族としての振る舞い方を身に付けるんだよ。一度自分が使われることによって、従者の考え方やどういう気持ちで働いているとかも理解できるだろ? 公爵家のベテラン侍女や執事たちが、両方の視点から時と場合に応じた正しい振舞い方を指導してくれるのだ。ここの正規雇用の仕様人たちは、元は上位貴族の御子息や御令嬢なので、決して下に見たりした言動や態度をとるんじゃないぞ」
代々自家の子供たちを優秀な使用人に育てて輩出している名門貴族家がいくつかあるようだ。
「なるほど、では僕も卒業後にどこかの家で一度執事として働くのですね?」
「そんなわけあるか! ルーク、王族の俺たちが人の下について良いわけないだろ!
何のために幼少時より厳しい侍女長や執事長に徹底的にマナー教育されていたか考えろ!」
「そうでした」
アホなこと言って怒られた。またボロが出て怒られる前に話を進めよう。
「再度確認するけど、イリスは変な噂が立っても問題ないんだね?」
「はい。ルーク殿下の回復師としての知識やコツなどが学べるのであれば、世間の噂など気にいたしません!」
「まぁ待て。イリス嬢の気持ちは分かったのだが、色々ルーク君に関しては問題があるのだ。ルーク君、君の役目は理解しているか?」
嫌な質問だ。だが、公爵としても念を押しておくべき最重要事項なのだろう。
「公爵家の次期跡取りになる者を産ませること?」
おそらくガイル公爵は俺に公爵位を譲る気はないだろう。まだまだ十分若い。娘に男児を産ませて、その子を次期領主にするべく幼少時より教育をするつもりなのだ。
「そうだ。だが、兄上はそれ以上を望んでいる」
「それ以上?」
「君の優秀な魔法属性を持った血をできるだけ沢山この国に残してくれとのことだ。兄上は今回君と引き換えに、10人差し出すらしい。この国には圧倒的に聖属性の属性持ちが少ないのだ。だからイリス嬢が自ら侍女に名乗り出たと話をしたら、兄上は大いに喜んだ」
イリスも主属性が聖属性だからね。
聖属性(夫)×聖属性(妻)=聖属性(子)の確率が非常に高いのだ。
「それって僕1人に対して、代わりに10人が嫁や婿にヴォルグ王国に出されたってことですか?」
「そうだ。だから君に最低でも10人子供を作ってほしいと言われている。だが、それだとエミリア1人じゃ無理な話だ。アンナやララも本人が良ければ嫁に入れてもらう」
姉妹丼! 完全な種馬扱いジャン!
「それって僕の意思や意見は聞いてもらえるのですか?」
「勿論君の意思は尊重する。だが、噂どおりなら問題ないだろ?」
噂どおりね……思春期真っ盛りのエロガキだと思ってんのか?
「はぁ~、言っておきますが僕に女性経験はないですよ? エッチなのは事実ですが、噂ほど節操がないってことはありません」
「そうなのか? 娼婦の家に1週間近く家出していたと聞いているが?」
「そ、それは事実ですが、なにもしていないです。行く場所がなかったので、絶対見つからないだろうと金を握らせ居候していただけです」
「そうか。エミリアの気持ちもあるだろうが、優秀な血を持った子を沢山この国に残して欲しいというのも本音なのだ。そこでイリス。父君が妾でも良いというのであれば、君が従者になることを認めても良いと思っているのだが――」
「それって言葉を濁しているけど、妾になって子供を産むことが絶対条件じゃないですか! そんな理不尽な条件は不要です!」
「この件にルーク君の意見は必要ない。イリス嬢の気持ちの問題だ」
「ルーク殿下がお望みとあらば、心構えはできております……」
「へっ⁉ 君は好きでもない男に抱かれて孕まされても平気ってこと?」
「ルーク殿下、私にも打算的な考えがあっての決断です。誰でも良いわけではありません! このまま2年後に、好きでもない男に嫁がされるくらいなら、尊敬できるルーク殿下の方が絶対良いに決まっています」
「えっ! まさかのデブ専⁉」
「そんな訳ないでしょ! 痩せて鍛えている殿方の方が良いに決まっています! あ……失礼しました。私が食事係なので、これを機に痩せて頂きますね!」
余計なことを言ってしまい、ちょっと怒らせちゃったかな。なにやらブツブツ言っているけど大丈夫か?
その後のやり取りで、正式にイリスが俺の専属侍女に付くことになった。
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