第26話 薬膳料理は体に良いです

 とりあえず『召喚の儀』には出ろとのことなので参加することにした。

 おそらく妖精さんはこの時に召喚されるのだろう。


『でも本当は神殿で妖精さんを呼び出すんじゃなかったの?』

『♪ どうなのでしょう? 詳しいことは聞いていません』


『なんか色々女神様の当初の計画と変わっているんじゃないかと疑ってるんだけど?』

『♪ 実は私もそう感じています。邪神が封印されているダンジョンは、ヴォルグ王国にあるのです。マスターの婿入り自体が女神様の思惑とはすでに違っているのではないでしょうか?』


「ガイル公爵、僕は結局どうしたらいいのですか?」


 もう絶対『お義父様』とか言ってやらないからね!


「そうだな、今すぐ妻の命に別状がないのなら、一度学園に行ってもらって、『召喚の儀』を済ませたのちに妻を治療してもらえないだろうか? 学園長には俺の方から事情を話し、欠席扱いにならないよう公務で休めるように許可を得るので、妻の病を治してあげてほしい」


 その時、お義母様のお腹が『きゅるる~』と可愛く鳴った。


「あら嫌だわ! 恥ずかしい!」

「お義母様、少し体調が良くなったので食欲が出てきたのでしょう。この病はとても食事が大事なのです。栄養価の高い物を食べて、健康状態を良くすれば治りも早いのですよ」


「そうなのです? 最近はあまり食欲もなくて殆ど食べていませんでした」

「この病は微熱がずっと続きますからね。熱と咳でどんどん体力を奪われてしまうのです」


「よし! ジェイル殿、ルーク君、旅の汚れを先に落としてもらう予定だったが、尋問に時間が掛かってしまい、もう結構な時間になってしまった。先に晩餐にしようと思うがよろしいかな?」


 このおっさん……『ルーク殿』から『ルーク君』呼びに変わってるぞ。


『♪ とりあえず様子見ですが、身内として認めてくれたってことでしょうね』


 お義母さんの回復が前提ってことだろうけど、有名なバカ王子としてしか見ていなかった時よりは評価が上がったみたいだ。


「ええ、俺の方はそれで問題ないです」

「僕はもうおなかペコペコで死にそうです。そうだ、お義母様も一緒にどうですか? 長時間は疲れますでしょうから、30分ほどだけご一緒しませんか? ララちゃんも寂しがっていたようですし」


 俺が部屋にきたときはベッドサイドに座るのさえ辛そうだったのに、今では不通に座って笑顔さえみられるほど元気になっている。


「ララ……。ですが、うつる病ですし……」

「僕が風魔法でお義母様にシールドを張っておきますので、皆にうつることは絶対ないですよ?」


「本当にうつらないのですか? 娘たちに会いたいです……」


「サーシャ、すまない。寂しい思いをさせているな」

「あなた、病ですもの、仕方がありませんわ」


 お義母さんは、全員が席に着いたのちに、少しの時間だけ参加することになった。


「あ、食が細くなっているのなら、お義母様には消化の良い食べやすいものがいいです。米はありますか?」


 この世界の主食は主にパン食だが米もある。


「米ならあるはずだが、米の方がパンより消化は悪いのではないか?」


 そういえばルーク君におじやや雑炊を食べた記憶がない。ピラフやチャーハンに似たものはある。王族だからかもしれないが、日本の昔の農民が食べていた芋などで水増しされた芋粥とか食べた記憶がない。


「ちょっと厨房をお借りしても良いですか? 僕が体に良い薬膳料理を作ってあげましょう」

「おいルーク! またお前は! 余計なことをするんじゃない!」


「兄様、お義母様の体に良い料理をちょっと作るだけですよ」

「サーシャの体に良い料理……ルーク君! 厨房は好きに使ってくれて構わない!」


 うわ~、このおっさん、めっちゃサーシャさんのことを愛してるね。

 それほど手の込んだものを作る気はない。

 お粥ではなく、野菜を軟らかく煮込んだ薬草入りの雑炊を作る予定だ。


「じゃあお義母様、準備ができてからお呼びしますので、それまでは部屋で安静にしていてくださいね」


「はい。久しぶりに娘たちに会えるのは嬉しいです」


 可愛い人だ……おっさんが側妻を取らないのも分かる気がする。


 部屋を出て皆に【クリーン】を掛ける。


「また【クリーン】……ルーク殿下、この【クリーン】にはどういう意味があるのでしょうか?」


 侍女さんがまた食い付いてきた。


「【クリーン】は目に見えない病気の元も浄化する効果があるんだ。さっきお義母様も含めて部屋全体を浄化したけど、念のためにもう1度部屋を出てから施しておくんだよ。怪我した時もただ水で洗って回復魔法を掛けるより、【クリーン】で浄化してから回復魔法を掛けた方がいいんだよ。化膿とかの予防になる」


「なるほど……ありがとうございます! 勉強になりました!」



 *   *   *



 厨房に行ったのだが、4人の料理人と3名のコック見習いが忙しそうに調理していた。

 公爵が料理長に声を掛け、俺が厨房に立ち入る許可を得てくれた。


 食材を見せてもらったのだが、俺たちの為に色々用意されている。


「このお肉は何の肉かな?」

「それは牛の魔獣のお肉です」


『♪ ラッシュバッファローという魔獣のお肉ですね。超高級食材です』


 牛の魔獣……サシが凄いんだけど! A5和牛と比べても良いぐらい霜ふっているんですけど!


「このお肉を少しもらえるかな?」


 ブロック肉から赤身部分をちょっと分けてもらった。


 米は少し細長い。ジャポニカ米よりカリフォルニア米に近いかな。

 玉ねぎ、人参、トマトもある。取り敢えず急いで米を炊いた。


 トマトをスライスして味見してみる。何これ甘い!


「めっちゃ甘い……」

「それはダンジョン産のトマトですからね。ちょっと割高ですがとても美味しいものです」


 よし、メニューが決まった!


 野菜たっぷりの雑炊の予定だったが、材料を見て少し変更する。

 ララちゃんの分も作ってあげよう♪


 貰った牛肉を2本の包丁で叩きまくる!


「「「ああ~~~っ! 勿体ない!」」」


 料理人たちから悲鳴に似た声が上がった。

 自分たちの料理をしながら、何気にこっちを見ている……ふん、食って驚け!



 包丁で叩きまくって、ミンチ肉にする……もうお分かりだろう。子供の大好きなハンバーグだ!


 そして米の方は数種の薬草をブレンドした薬膳トマトリゾットにした。まぁ、雑炊のかわりだね。普通の雑炊だと薬草の臭いがきつくて臭みが鼻につく。それを酸味のあるトマトベースの味にして消そうという思惑だ。


 ハンバーグはララちゃん用に、野菜がたっぷり入った薬膳リゾットはお義母さま用なんだけど、食べられるなら精の付くお肉も少し食べてもらいたい。



 赤ワイン・バター・オリーブオイル・塩・胡椒・ナツメグ・にんにく・生姜・パン粉・卵・ミルク・はちみつ・砂糖・レモン……材料は大体あるが、醤油やソースがないのが残念だ。


 ハンバーグはラッシュバッファローの肉8:オークの肉2で合挽き肉にしてみた。

 付け合せに茹でたブロッコリーと人参をオリーブオイルとレモン果汁を塩胡椒で味を調えたものを掛けて添えておく。


 料理人たちが俺の側にきて一生懸命メモ書きしている。


「君たち自分の料理は良いの?」

「はい。下準備はできたので、後は晩餐が始まったら順番に調理してお出しするだけです。あの~、その料理は宮廷料理の1つなのでしょうか?」


 えっ? ハンバーグだよ? そういえばルーク君の記憶に食べた覚えがない。


『♪ 団子にしてスープに入れることはありますが、わざわざぐちゃぐちゃにして焼くって概念がないようです。焼くのなら普通に焼いてステーキにするのが常識ですね』


『マジか……』

『♪ 油が高いって理由もあって、揚げ物もないですね。基本煮るか焼くかです』


「これは僕の創作料理だね……ちょっと味見してみるかい?」

「「「是非!」」」


 ハンバーグを焼き、1個切り分けて5等分にして味見をする。


「美味しい!」 

「「旨い! このソースが凄く美味しい!」」


 デミグラス風に仕上げたんだけど、俺的には80点だ。醤油やソースがないのが残念だ。ハンバーグの中にも3種類薬草を混ぜ込んだので、少しだけ青臭さが出てしまっている。まぁ、気になるほどではないので、体のことを考えて良しとしよう。


 赤身部分を使ったのだが、それでも少し脂分が多く、病人にはちょっと重い気もする……。


「このお米の料理も美味しい!」


 うん、トマトリゾットの方は95点だね! 良い出来だ!

 トマトの酸味と甘みが絶妙に合っている。少し水分大目にして、刻んだトマト、玉ねぎ、人参がたっぷり入っているので、ミネストローネに米を入れた感じになっているが良い味だ。


 ハンバーグの重い脂も、さっぱりした酸味で口直しにちょうどいい感じだ。


「寝たきり状態が長かったようですので長時間座っているのは辛いでしょう。奥方の料理はまとめて最初に出してください」


「了解しました」


 そうだ、材料があるので飲み物も作っておこう。

 はちみつとレモン果汁を俺の魔法で出した水で割って『はちみつレモン』をピッチャーに入れて冷やしておく。これはこちらの世界でも良く飲まれているものだ。


 さぁ準備はできた。後は料理人に任せよう。

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