第25話 学園の恒例行事があるので急いでいたようです
俺の回復魔法でお義母さんの容態はかなり良くなったのか、笑顔が見られるようになった。
だが、俺の中級魔法では一時凌ぎにしかなっていない。
『妖精さん、さっきの話だと、俺の知識を高位魔術者に伝えて施術してもらったら治るんじゃないかな?』
『♪(チロリーン) 治りますが、マスターはその知識をどうやって手に入れたと伝えるおつもりなのでしょうか?』
『…………』
『♪ 何年か後に、マスターが回復魔法の研究をして発見したとかなら話はスムーズに進むと思いますが、まぁ今回のことだけでしたら、神の恩恵を多く得ているから効果が高いとでも言っておけばいいでしょう。ですが、マスター以外の者が施術するなら、上位術者でもしっかりと治るプロセスを理解していないと効果はないです。菌やウイルスなどの説明がいりますが、顕微鏡が開発されていない世界でどう説明するのですか?』
『神様がいて、何故放置しているんだ? 神託とかで教えれば人が死ぬのを減らせるんじゃないか?』
『♪ 文明は人の手によって発展するものだからでしょう。神が全て与えたのでは、開発や発展が却って遅くなるからですね』
妖精さんとお話ししていたら、侍女が話しかけてきた。
「ルーク殿下、不躾ですがさっきの魔法のことをお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「うん? 何かな?」
「ルーク殿下は先ほど聖属性の魔法が得意と仰っていましたが、使われたのは中級の水系回復魔法の【アクアラヒール】でした。【クリーン】と水系の中級解毒魔法を掛けたのも何故なのか知りたいです。奥様の容態がこれほど良くなったのは、先ほど3つの魔法を使ったからなのでしょうか? それと―――」
「ちょっと待って! 一度に沢山質問されても……」
「も、申し訳ありません! つい……」
「その娘は聖属性の回復師を目指しているのです。王都から教皇様や王宮の高名な宮廷医師の方に何人か来ていただいたのですが、これほど劇的な効果を得られたのは初めてです。その娘が興味を持って色々聞きたがるのは当然のことですので、どうか怒らないであげてくださいまし」
「別に質問されたぐらいで怒ったりはしないですよ。君は病気には聖属性より水系の魔法の方が効果があるのは知っているかな?」
「はい。怪我には聖属性、病には水系回復魔法が効果が高いと学園や診療所で習いました」
どうやらこの娘は騎士学校の魔法科卒業のようだ。
「じゃあ、どうして聖属性より水属性の回復魔法の方が病気に対して効果が高いのか知ってる?」
「……いいえ、知らないです。そういうものだとしか習っていません」
「人体の主成分が水分でできているからだよ。人の体の7割は水分なんだ」
「そうなのですか⁉」
「うん。それで水系の方が病に効果がある。聖属性は神の奇跡的なものだから、怪我には効果が高く、完治後の後遺症も少ないのが利点なんだけど、その分体への負担が大きいし、術者が病気の特性を正しく理解して、それを正確に神に伝えないと神の奇跡は起きないので、内部的な病への効果が薄くなるんだ。外部的な怪我なら、目視で見えるから正確にイメージし易いので高い効果が得られるんだよ」
「ヴォルグ王国はフォレル王国の魔法医学よりずっと進んでいるのですね……」
ヴォルグ王国というより、この知識は前世の俺の記憶と師匠である庭師の爺さんから得たものだ。
付けられた家庭教師の勉強はしなかったルーク君だが、この庭師の師匠からは薬学や錬金錬成術、回復魔法などヒーラー特化の知識をかなり得ている。
6歳の時に婚約者のルルと庭で遊んでいたのだが、彼女がこけて膝を怪我した。俺は泣きじゃくる彼女を前に、何もできずただおろおろしていたのだが、その際に近くにいた庭師の爺さんが傷口を【クリーン】で綺麗にし、初級回復魔法であっという間に怪我を治してくれたのだ。
それでめちゃくちゃ興味を持ったルーク君は、この爺さんの元に通って弟子にしてくれと毎日頼み込んだのだ。まぁ、大好きな女の子に何もしてあげられなかった悔しさもあったようだけどね。
実はこの爺さん……ただの庭師ではなく、王城内にある温室施設を利用して薬学研究がしたいがために王城内に住みついた、大賢者と言われるほどの高名なエルフの薬学師だったのだ。
だがそのことを知っている者は極僅かの者たちだけで、ルーク君も弟子にしてもらう条件に、自分のことや教えてもらったことを秘密にするという条件をだされていた。
そういう余計な事情はこの娘には言わなくていいだろう。
「【アクアラキュアー】の解毒魔法を使ったのは、体の中の悪いものを排出するイメージで掛けると、色々効果があるんだよ」
実はこの解毒魔法で結核菌をある程度排除したのだ。この辺は流石の師匠も知らない知識だ。
現代医学や現代科学を魔法に取り入れたら凄いことができそうな気もするが、残念ながら俺にそんな深い知識はない。殆どの者は広く浅くの知識しか持っていないだろう。
LEDライトが高寿命・低燃費・耐衝撃性に優れていることは皆知っているが、どういった仕組みか説明しろと言っても殆どの者は詳しく説明できないだろう。俺もその程度の知識しか持っていない。この世界で列車や自動車とか造れと言われても不可能だ。
結核に有効な抗生物質とかも、某アニメやドラマでカビからなんかやって作ってたな~程度の知識しかないのでどうしようもない。
「そうだったのですか、ありがとうございます! 凄く勉強になりました! あの……もしよろしければ、もっといろいろ回復魔法のことを教わりたいのですが、ダメでしょうか?」
「別にいいけど、人に教えられるほどの知識は僕にはないよ……」
「そんなことないです! 奥様がこれほど良くなられた魔法だけでも凄いことだと思います! 教皇様が少し前に御診察くださった時ですら、これほどの効果は得られていなかったのです!」
あちゃ~、ちょっとやり過ぎちゃったのかな?
『♪ 全く問題ないです。マスターはどうせ放っておけないでしょう?』
『そうだね。「全ての者を救って見せる!」的なヒーロー気質じゃないけど、目の前に死にそうな人や苦しんでいる人がいて、治せるものなら治してあげたいね』
侍女と奥様と話していたら、ガイル公爵と兄様がやってきた。
「あっ! ルーク殿下、申し訳ありません……ご当主様を呼んでしまいました」
どうやら俺が問答無用で部屋に押し入った時に、侍女がコール機能を使って連絡していたようだ。
「ルーク殿、どういうことかね? 妻はうつる病気だから会えないと伝えておいたはずだが?」
うわ~なんか額に青筋立てて怒ってらっしゃる……。
『♪ 体調が悪くて寝込んでいる妻の元に、馬鹿な王子が興味本位で無理に押し入ったと思っているようです』
「あなた、ルーク殿下に回復魔法を掛けていただいたのです。それが凄く効果があって、ここ最近ではなかったほど気分が良いのです。熱も下がって、あれほど酷かった咳も嘘のように治まりましたのよ。なんかもう治ったのではないかと思ってしまいますわ」
「残念ながら完治はしていないですね。あ、でも僕なら時間を掛ければ治せますよ」
「「「えっ⁉」」」
「そんな筈はない! 妻の病は労咳だ! 治る病ではない!」
「あなた……やはりそうでしたのね……」
「あっ……クソッ! 妻には内緒にしていたのに!」
「いやいや、なんで僕を睨むんですか⁉ バラしちゃったのはお義父様じゃないですか!」
「お前にお父様呼ばわりされたくない!」
「え~~~! 僕、あなたに呼ばれてこの国にきたんですよね?」
「ルーク、お前はどこに行ってもトラブルメーカーだな……」
「兄様! 今回、僕は悪くないでしょ!」
「はぁ、まあいい。で、奥方の病をお前は本当に治せるのか? 我が国ではそれほど流行ってはいないが、労咳は治らない病気とされている」
「そうですね……10日ほど毎日施術すれば治るかな? 断言はできないけど」
「はぁ~、それが事実なら、お父様はお前を国外の婿なんかに出さなかっただろうに……」
兄様はあきれ顔でそうつぶやいた。
「ガイル公爵、この際、お義母様の病を完治してから騎士学校に通うというのはどうでしょう?」
「本当に治るのか? 教皇様でも治せなかったのだぞ?」
「すでに吐血するほどの末期状態ですので、絶対治るとは言い切れませんが、多分今ならまだぎりぎり治せます。時間と共に病は進行しますので、このまま放っておけば手遅れになりますが――」
ガイル公爵は少し悩んでいたが、俺の今後の予定を伝えてきた。
「君に急いで来てもらったのには理由があってだな……そのことは聞いているか?」
「なにか騎士学校のカリキュラムで急ぐ必要があるとだけ聞いています」
「そうだ。ヴォルグ王国では騎士学校と言っているようだが、フォレル王国では騎士学園と言われている。騎士学園の魔法科に君は通うことになっているのだが、現在学園は中間試験中だ。そして試験が終えたすぐ後に『従魔召喚の儀』というものがある」
ヴォルグ王国では騎士学校と魔法学校とで別々に分かれているが、フォレル王国では騎士学園の中に騎士科と魔法科に学園内で選択教科として分けてあるみたいだ。おそらく国の大きさ的に貴族の子供の絶対数が違うのだろう。
「従魔召喚ですか?」
「ルーク、俺たち竜騎士学校の者は、既に全員ドレイクと従魔契約していただろ。だから竜騎士学校では召喚の儀とかなかったんだよ」
なるほどね、既に従魔としては最上級の竜種を従えているのだから、テイマーではない竜騎士には確かに他の魔獣は必要ないよね。
「その『召喚の儀』が5日後にあるのだ。1年生は全員参加することになっているので、君にも急いで来てもらった次第だ」
「それは後日じゃダメなのですか?」
「星の巡りや時間等の制限があるようで、年に1回3日間しか召喚陣は利用できない。神殿にある召喚陣も同じサイクルなので、後日という訳にはいかないのだ」
「なるほど……でも、使えない魔獣が召喚された場合どうするんです? 使えなくても従魔契約しなきゃならないのですか?」
「使えない魔獣が来たのなら、契約しないで送還すればいい」
年に1回だけしかチャンスがないので、『召喚の儀』はちょっとしたイベントになっているようだ。
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