第20話 俺の婚約相手は騎士たちからめっちゃ慕われているようです

 公爵家の精鋭騎士が28名到着した。

 だが、俺のことを全員がめっちゃ睨んでくる! 何で!?


 あ! そうか……手枷をしているから、姫様を狙った盗賊の仲間と思われているのかな?


 早めに誤解を解いておこう。


「【魔封じの枷】をしていますが、僕は盗賊の仲間ではないですよ。ほら、鎖は付いていないでしょ?」


 兄様が名乗って俺を皆に紹介したのだが、変わらず睨んでくる……エ~~ッ何で?


「兄様、騎士たちがめっちゃ睨んでくるのですが、何故でしょう?」


 俺はわざと騎士たちに聞こえるぐらいの声量で兄様に質問した。


「お前のそういう図太さにはいつもながら感心するよ。俺ならこれほど手練れの精鋭に威圧されたら、委縮してしまうけどな。だが、このまま黙っているのも我が王家の名に傷がつくな……」


「家名とかより、僕は理由が知りたいですね。今日初めて会った奴らに殺気を向けられるのはちょっと納得できないです」


「お前たち! どういう了見で我が弟を威圧する!? 中には殺気まで放っている輩までいるのはどういう了見だ! ことと次第では不敬罪の対象にするが、分かっていてやっているのか!」


「やんっ! 兄様カッコイイ♪」


 兄の威厳のこもった恫喝で、さっと皆の視線が下を向いた。

 王族に対する不敬罪……兄様は威厳たっぷりにこの場で首を落とすと言い放ったのだ。俺は腐っても王家の子息だからね。


「兄様、なにが委縮してしまうですか? 逆に相手がビビッてしまっているじゃないですか。正直俺もさっきの兄様のほうが騎士たちより遥かに怖かったです」


 一連の様子を見ていた姫が騎士たちに語りかけた。


「どういうことでしょう? ゆくはあなたたちの主君となられるお方かもしれないのに、公爵家の精鋭騎士たちがどうしてこのようなことを? 今はまだ婚約前の大事な主国のお客人です。国賓の方に無礼を働いたとあっては、あなたたちの首だけではすみませぬよ? 主国の王家の者にあからさまに意図して殺気を向けるなど、あなたたちの主であるわたくしの叔父様に責が及んでも文句が言えない暴挙です」


「姫殿下、申し訳ありませんでした!」

「わたくしに謝られてどうするのですか? 謝る相手が違うでしょう」


「「「ルーク殿下、大変失礼いたしました。どうかご容赦くださいませ」」」


 公爵家の騎士全員で頭を下げて謝ってきた。


「別に謝意のない者から、形だけの謝罪をされても意味はないでしょう?」

「こらっ、ルーク! お前という奴は! こういう場合は分かっていても『謝罪をお受けします』と言うものだ! 物事には『潮時』というものがある。振り上げた剣を納める機会を与えなければ、もう戦うしかなくなってしまう。それに、後々お前がかの地で気まずくなるのだぞ」


 兄様のいうことは間違いないんだけど―――


「ですが兄様、意味のない謝罪を受け取ってもなんの解決にもならないでしょう? それより僕は理由が知りたいですね。姫様、協力してもらえないでしょうか?」


「分かりました。パイル隊長、ルーク様が全員がとおっしゃっていましたが、騎士全員が総意の上でルーク様に思うところがおありなのですね?」


「いえ、そのようなことは……」


「嘘ですね……。公爵領の者なら、わたくしのユニークスキルのことはご存知でしょう? 嘘は許しませぬ……。次、嘘を吐いたら王家への忠誠を疑いますよ」


 王族の姫に嘘を吐くとか、この国の騎士ならそう言われても仕方がないだろう。パイル隊長という人は苦虫を噛み潰したような顔になっている。


「ハァ……我が領内の騎士たちは、皆、エミリア様のことをお慕いしているのでございます」


 一度大きくため息をつき、観念したように答えたのだが……はあ? お慕いしている? 好きってこと? 恋敵が来たから睨んでいたの?


「エミリアって、ひょっとして僕の婚約者になる人の名前かな?」


 うわっ! 最初の3倍ほど殺気を込めて、めっちゃ睨まれた!


「ルーク殿下は、自分の婚約者のお相手の名前すらご存じないのか!? おいたわしや、エミリア様が気の毒で腹立たしい!」


 そういうことか……でもね~、俺にも言い分はある―――


「だって昨晩急に婿に出すとか言われて、今朝は朝食も食べさせてもらえないまま、有無を言わさず寝起きに連れてこられたのです。ほら、僕が逃げないように【魔封じの枷】まで付けられているのですよ。お相手が公爵家のご令嬢ということしか僕は聞かされていません」


 俺の【魔封じの枷】を見て、騎士たちは唖然とした顔をしている。


「では、ルーク殿下は望んで来られたのではないのですか?」

「う~ん、そうですね。こちらの国王とうちの父とで何やらやりとりがあったようですが、どういう経緯でこういうことになったのかも聞かされていないです。ですが、貴族の婚姻とはこういうものでしょう? 家格が高いほど本人に選択権はあまりないと思っています。国の為、家の為、領民の為ですね……」


 とは言ったものの、俺はそんなことこれっぽっちも思っていない。親の決めた相手と強制結婚とか、現代人の俺からすれば冗談じゃない!


「ルーク様???」


 あっ! 心にもないこと言って姫様にバレた! ウソ発見器のあなたがいたの忘れてたよ―――


「結局ここにいる騎士たちは、急に降って湧いた恋敵ができたと嫉妬で僕のことを睨んでいたのかな?」


 姫に突っ込まれる前に話題を変えてごまかそう! 


「そ、そうではありません。皆が恋心を抱いているわけではありません。現に私にはすでに妻がいます。独身の他の騎士たちも、お慕いはしていても、身分違いだと皆わきまえているつもりです。今回の婚約は時期公爵家の当主、この領地の領主、あるいはお世継ぎを選ぶとても大事な婚姻です。そこのジェイル殿下なら誰一人文句は言わないでしょう。ルーク殿下の噂は色々この国にも沢山伝わってきているのです。話半分で、皆笑って聞いていたのですが、実際あなた様を拝見して、噂以上に太られた『豚王子』『オークプリンス』でしたので、つい……エミリア様が不憫で……」


「パイル隊長! 少し言葉を選びなさい!」

「ですが姫殿下の前で嘘を言っても……今度はあなた様に忠誠を疑われてしまいます」


 これは大誤算だ……。

 何で隣国の俺のことを皆が知っているの!?


「どうして皆が僕のことを知っているの?」


 これには姫が答えてくれた。


「ルーク様、ヴォルグ王国から定期的に吟遊詩人がやってきて、あなた様のことを面白おかしく語ってくれるのです。わたくしも何度かお聴きしたことがございますのよ。話半分で皆聞いていますが、とても御冗談のような笑えるお話ばかりでした」


「ルークは王家の者です! その吟遊詩人をこの国では処罰しないのですか!?」


 兄様が庇ってくれるが、分かったからもう止めて……。

 『豚王子』伝説がこの国にまで轟いているとは思ってもいなかった。


「その者らは『ルーク様が』とは一言も言いませぬ。勿論『王家のご子息』だとも言いませぬ。ただ、とある大国の『オークプリンス』という方のお話だと――」


「それって名前を出さなくても僕のことだよね! 兄様! この国にも僕のことが知れ渡っているみたいです! 僕、このままヴォルグ王国に帰ってもいいでしょうか?」


「それは無理だ。俺が父様に怒られてしまう。お前がやらかしたことは自業自得だろ。諦めろ……」




 正直色々もう嫌になっている。

 俺のことを知らないこの国で再起をかける腹積もりだったのに、完全に当てが外れてしまった。



 唯一の救いが、俺の婚約者は騎士たちから絶大に慕われるほどの好人物だということだ。もし相手が陰険な女子とかだったら他国で俺の居場所がなくなって、最悪の生活環境だっただろう。

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