第19話 兄様にフレンドリストをリセットされました
倒した盗賊たちから使えそうな物は全て剥ぎ取った。
自分で使った矢も勿論回収する。俺の矢は特注品で、1本1万ジェニーもする高級品なのだ。捨て置くわけにはいかない。
盗賊の死体はゾンビ化しないように火葬にするそうだ。
人もそうだが、魔獣も首を落とすか焼却するかしておかないと、周囲の魔素を体内に取り込み過ぎた死体はゾンビになることがあるらしい……おっかない世界だ。
兄様と隊長が遺体を集める際に、盗賊の顔写真を【ステータスプレート】を出して記録に残していた……何しているのだろう?
聞くと後で撮った写真をギルドと衛兵舎で確認し、もし懸賞首がいれば、懸っていた分の懸賞金が支払われるとのことだった。これほどの大きな盗賊団なら懸賞首が何人かいてもおかしくないと隊長が言っている。確認が取れて精算が終えたら俺に届けてくれるそうだ。
この【ステータスプレート】、ステータス確認などができるモノなのだが、機能がまんまタブレットPCなのだ。クリスタル製のA4サイズの板でできていて、タッチパネル式で情報が表示され、機能の中にメールや電話のようなコール機能、動画や静止画の撮影、【亜空間倉庫】内の物の管理などができる優れものだ。
いくつかあるギルドのどこかに所属していれば、預金や引き出しもそこででき、討伐した魔獣なども自動記帳されカウントされる。これ、現代科学より凄くね⁉
【ステータスプレート】は神が人類に与えてくれた神器だそうだ。超凄いけど、中身は俺たちの世界のパクリっぽいよね。
「盗賊の顔写真を兄様まで撮るのですか?」
「ああ。こういう輩は国をまたいで我が国でも活動していることも結構多いのだぞ」
大きな仕事の後はほとぼりが冷めるまで他国へ移って活動するみたいだ。
例えば今回の姫様暗殺とか、国を挙げて騎士がわんさか出動するだろうし、暗殺成功後には他国に逃げる算段だったのかもしれない。
「隊長、今後の処理で盗賊たちから得たお金は、亡くなった騎士たちの家族に分配してあげてください」
俺は盗賊全員からかき集めた現金426万ジェニーと装備品で満足したので、それ以外の権利を遺族に譲る気でいる。装備品ははっきり言ってゴミだけどね。
「よ、宜しいのですか? 報奨金、懸賞金や馬を全て精算すれば相当な額になると思われますが……」
「お待ちください! ルーク様、立派な御心遣いですが、他国の王子にそれをされてしまわれると、我が王家の名が廃ります。殉職者の家族には国から十分な功労金や弔慰金が支払われますし、今回は賞恤金(しょうじゅつきん)も出されることでしょう。この後の処理で盗賊から得られるお金も、ルーク様の方でお納めくださいませ」
「賞恤金? 初めて聞く言葉ですね」
「ルーク、家庭教師の先生が教えてくれただろう。俺と一緒に聞いていたのだから、初めてじゃないぞ……」
兄様に冷ややかな目でそう言われてしまったけど、ルーク君の記憶の中にそんな言葉はないんだもん!
「ご、ごめんなさい兄様……覚えていません……」
「困った奴だな。賞恤金というのは、騎士や衛士が生命の危険を顧みずに職務を遂行し、殉職したり傷害を負ったりした場合、特に功労が認められた時にその勇敢な行為をたたえ、本人か遺族に支給されるお金のことをいうんだ」
「へ~、そういうものもあるのか。だから騎士職は平民にも人気があるのですね」
「そうだ。冒険者は上手くやれば稼げるが、死んでも自己責任で、家族にはなんの保証もないからな。安定した収入に、死んだ後も定年退職の予定だった残年数分は遺族に幾らかのお金が支払われるので、残った家族も借金でもない限りお金で困ることはない」
遺族年金のようなものまであるらしい。
「分かりました。姫様、僕が頂くことにします」
「はい、そうしてください。国から別途謝礼が出る案件なのですが、王家のご子息だとまた違ってくるかもしれません。その辺はまた後日に……」
「了解しました」
「え~~と、ルーク。今更だが、また枷を付けるぞ……」
「エッ!? もう逃げませんって! それに、僕に枷は意味がないことは先程実践して見せましたよね?」
「うむ、分かってはいるのだが、父様の勅命では守らないわけにはいかないのだ……許せ!」
「兄様……姫様たちがいるのに……いくらなんでも酷過ぎやしませんか? これって我が国の恥ですよ……」
「すまない! それと、もう1つあるのだ……これは、他国へ嫁ぐ際の規則なのだが、【フレンドリスト】は一度全て消去しないといけない」
「そういえばそういう規則がありましたね。それは知っていました。可哀想な制度だなって思っていましたが、まさか僕自身が体験するとは思っていなかったです」
他国から招く留学生や嫁や婿になる者は、間者(スパイ)の可能性があるので、メールやコール機能で他国に情報をリアルタイムで流させないようにするために、一度フレンドリストを全て消す決まりがあるのだ。
今回のような政治的な政略結婚もその対象だ。
友達の居ないルーク君のフレンドリストに殆ど名前はない。それでも兄妹と連絡ができなくなるのは辛いものがある。
可愛い妹や元婚約者の顔が脳裏に浮かぶ……ハァ、今更だな。
兄様の見ている前で【ステータスプレート】をだして、フレンドリスト内を全て消去した。
「あの、ルーク様。わたくしとフレンド登録して頂けませんでしょうか?」
傍らで聞いていた姫様が声を掛けてきた……優しい心遣いだ。
おそらく空になったフレンドリストを見た俺が消沈していると思っての気遣いだろう。フレンドリストの登録は、両者の同意の下でないと成立しない。しかも赤外線通信のように、ある程度近距離でないと同意画面が出ないのだ。
「姫様、優しいお心遣いありがとうございます。僕のフレンド登録第1号が姫様で光栄です」
「まぁ! 嘘ではないようです! わたくしもそう言って頂けると嬉しいですわ♪」
そう言えばこの人には嘘吐けないんだった。
彼女もフレンドリストの名前は少なそうだ。嘘吐けない相手……普通は敬遠するだろうしね。
『♪(チロリーン) マスター……また、枷を付けられるのですね……』
『あ! 妖精さん! 色々聞きたいことやステータスで見ておきたいこともあったのに!』
『♪ 仕方がないですね。公爵家に着けば流石に解放してくださるでしょう』
妖精さんに聞きたいことも沢山あるのだが、兄様にすぐ枷を嵌められてしまった。
「あの……フレンドリストの消去が規則なのはわたくしも存じています。ですが、ルーク様は何故【魔封じの枷】を嵌められているのでしょう?」
姫様が当然のように兄様に質問してきた。
「兄様……言わないでほしいです……」
「だが、流石に言わないとおかしいだろ。本当なら誰にもこのことは見せることなく、公爵領の門に着く前に開放する予定だったのだ」
辺境伯領の門番の前では、魔枷の上にお洒落っぽく布を巻いて上手く隠していた。
本来誰にも見せる気はなかったのだ。
「ですが…………あ~~~もういいです!」
俺は不貞腐れた……。馬鹿ルークのせいでまた恥をかくことになった!
「こいつは、気に入らないとすぐに逃げるのです。なので、逃亡しないように引き渡すまでは枷を外すなと父から命令されています。今回は我が父が王の勅命として言った厳命なので逆らう訳にもいきません」
「えっ、逃げるのですか? ふふふっ、国王自らのご命令とは、ルーク様は随分信用がないのですね?」
「まぁ、実際に何度も僕は家出しましたからね。父は僕のことを一切信用していませんね。あはは」
「笑い事ではないだろ。俺、帰ったらきっと怒られるな。引き渡す婿に手枷を付けて連れて行ったのが相手国にバレたとか、どう報告書を書いたらいいものやら……」
「手枷護送がいるような僕を婚約者として選んだ父様が悪いのですよ。この国から散々クレームを言われて後悔すればいいのです」
「うふふ、面白いお方♪」
姫に笑われてしまった……でも笑顔めっちゃ可愛いな~。
手枷で行動を制限するほどの問題児を嫁がせた証拠になりますからね。相手国は良い気分ではないでしょう。
兄様もお気の毒様。
間もなくして公爵領の騎士たちが到着した―――
到着した騎士は4パーティー28名なのだが、全員が俺のことをめっちゃ睨んでいる! 何で!?
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