第16話 隣国の騎士はあまり優秀ではないようです
バルスは尻尾をフリフリしながら嬉しそうにホーンラビットをバリボリと骨ごと食べている。
「ルーク! お前バルスをこうやって餌付けしていたな! 俺よりお前に懐いているじゃないか!」
「兄様、それは違います。一番懐いてるのは兄様にです。褒めてほしいのも、おやつをほしいのも兄様からなのですよ?」
「……おやつはあげているぞ」
「知っていますが少ないです。いくら従魔契約したら、主人から魔力供給を得られるため食事が要らなくなるといっても、嗜好品は必要です。ストレスの解消にもなるので、休みの日には森に連れて行ってあげて、自由に食べる分だけ狩らせてあげると凄く喜びますよ」
「時々狩りにも連れて行っているぞ」
「ええ、知っています。でも、少ないのです。2週に1度は兄様が自ら行ってあげてください。バルスの好物知っていますか?」
「オークだろう? 知っているぞ」
「それは3番目です。こいつはなんとあの臭くて誰も食わないゴブリンが1番好きなのです。2番目は牛です」
「本当かバルス!」
「クウウ~」
「マジか……世話係もまさかそんなものが好きとは思わないよな。ルーク、何で今まで黙っていた? 知っていたらもっと早くにゴブリンを与えてあげられたのに」
「それ言うと、僕が勝手に自分の騎竜と一緒に兄様たちの騎竜を連れ出していたのがばれるじゃないですか。また父様にこっぴどく叱られちゃいます。飼育係にはバルスの好物は伝えてあるので、ゴブリンは食べさせてもらえていたようですよ。それに、そういうのは主人の兄様が気付いてあげるべきことです」
「それもそうだな……」
悠長に騎竜話をしている場合ではない。
未だに嫌な感じが治まらないのだ。周りに他に敵はいない……となるとこいつらが原因だ。
「さて……この二人……」
僕がアサシンに近寄って行こうとすると、騎士の一人が剣を抜いて俺が捉えて裸にしていた奴を切ろうとした。慌ててそいつにドロップキックをして止める。
「何をなさるのです! こいつは同僚を殺したのです! 止めないでください!」
「兄様!」
「了解だ!」
流石兄様だ! 俺が理由を言わなくてもちゃんと分かっている。兄様も加勢してくれ【魔封じの枷】で騎士を拘束した。これには隊長が驚き反論してきた。
「お待ちください! 何故罪人のように我々の仲間を枷で拘束するのですか!? いくら命の恩人とはいえ、この国の騎士として見過ごせません! 奴は殺してもお釣りが出るほどの犯罪者なのですよ!」
「「本気で言っているのか?」」
また兄様とハモった!
「どういうことでしょう? 説明願えますか?」
お姫様が手を引かれてやってきた……この姫様もか。
「女騎士の方たちは姫様のお付きなら、近衛騎士になるのですかね?」
「「はい、そうです」」
「なら騎士たちより更に選りすぐりのエリートのはず。この騎士を拘束した理由は分かりますよね?」
「止めぬかルーク! 先ほどもだが、人を試すような真似はするな! さっきはそこの隊長の株がかなり上がったが、もし隊長が自分の身可愛さに、部下の誰かを犠牲にするようなことを言っていたらどうしたのだ!」
「そういうことを言ったとしたら、それは隊長の自業自得じゃないですか。今回隊長は男気を見せたので、部下からの信頼と、姫からも覚えが良くなったことでしょう。僕もこの隊長なら多少は信用できます」
「それはそうだが……」
「まぁ、人としては素晴らしいけど、隊長としては正しくはない行動なんですけどね……。隊の指揮をする頭が真っ先に死んでどうするんだって話になると、末端の一番戦力外の者を犠牲にするのが隊としては最善ですよね」
「それも一理あるな。指揮ができない者たちが集まっても、大した脅威にはならないからな。お前も色々考えているんだな……」
「そんなことよりルーク様、騎士を拘束した理由を教えてもらえますか?」
「はい、ミーファ姫。僕たち兄弟は、そのアサシン2人は盗賊の仲間ではないと思っています」
「??? 盗賊ではないと考えた根拠はあるのです? どう見ても盗賊としか思えないのですが……」
「その2名の装備品が他の盗賊たちと比べたら高額すぎるのと、暗殺特化で異質です。それに盗賊なら可愛い若い女を絶対殺すようなことはしません。これほどの美人さん、犯して飽きるまで散々楽しんだ後に売りに出すのが盗賊のお決まりの行動です」
近衛騎士の女性は皆とても可愛かったのだ……盗賊なら絶対殺すはずがない。
「ルーク、少し間違いだ。姫に聞かせる話ではないのだが、お前に教える機会ももうないかも知れないからな。可愛い女性で、男性経験のない『処女』の女は犯さないそうだぞ」
「盗賊が可愛い年頃の女を目の前にして我慢するのですか? 処女なら尚更『ヒャホー! 初物だー!』とか言って、喜んで犯すのではないでしょうか?」
「ウム……俺も現場に出るまでは知らなかったのだが、オークションで売る時に処女のほうが高く売れるのだそうだ。何でも貴族の中には処女の女性を買って、自分好みに1から調教するのが良いのだそうだ。だからこれぐらいの大きな盗賊団には必ず処女判定できるスキル持ちがいるらしい。可愛い娘なら処女かどうかで数百万単位の価値が変わってくるので、盗賊も金の為に犯すのを我慢すると教わった」
「あの、殿下! 本当に姫様に聞かせるような話ではございません! ご自重くださいませ!」
近衛騎士の女性に怒られた。
「ごめんなさい! 要はですね、盗賊が若くて美人な女を殺すことはまずないのです。だってそれこそが数千万単位で売れる一番価値がある商品ですからね。例外として殺すとしたら、最初から殺すのが目的だった場合です。つまり僕たちは盗賊行為というより、この2名は最初から姫様の暗殺が目的なのではと疑っているのです」
「そうですね。おそらくそれが正解でしょう。でも、なぜこの騎士を拘束する必要が?」
「僕たちはその騎士のことを暗殺に加担している仲間だと疑っています」
「なっ⁉ 俺はこいつらの仲間なんかじゃありません!」
俺たちに疑われた騎士は必至で無実を訴えてくる。
「この国ではどうなのか知りませんが、公務とはいえ、普通は王族の行動は危険回避のためあまり公に開示されていません。誰かが手引きしないと待ち伏せはできないのです。今回の僕たちの移動が正にそれですね。王子二人なのに、護衛も付けず秘密裏に単独移動です。もし僕たちが待ち伏せに遭ったのなら、犯人はそれを知り得る者に絞られます」
「確かにそうですわね」
「そしてこの騎士は盗賊の中で唯一毒を使っていたこの手練れの者を真っ先に殺そうとしました。口封じのために殺そうとしたのかと疑っています。まともな騎士なら普通は殺さず、先に尋問をしますからね。連れ帰って拷問させないための口封じです」
騎士は真っ青になった。
「違うのです! 仲間なんかではありません! 愚かな行為だったことは理解しました。ですが神に誓って言います! 同僚を殺したこいつらの仲間ではありません!」
「でもね、普通は尋問して喋らなければ、拷問にかけて背後関係を聞き出すものなんだよ。そうしないと主犯が捕まらないことには暗殺は終わらないからね。そのために自害させないよう、僕は裸にして【魔封じの枷】をわざわざ最初に付けて、後で尋問するために出血で死なない程度に回復までしたんだよ。それを何も聞かないうちに殺そうとしたんだから疑われて当然でしょ? あなたの無実が証明できるまでは、拘束を解くわけにはいかないよ」
「言っちゃ悪いが、我がヴォルグ王国の騎士なら、さっきのお前の行動は懲罰ものだぞ」
余計なことを言うなといつも俺に言っている兄様からも苦言が入った。
「理由は納得できました……。こんな罪人と同じ扱いを受けるなんて……グスッ……」
泣きながら訴えてくるが、それを証明できるものは何もない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます